51.トライアウト開幕
ギア。
それは人類が到達した兵器の最適解。
約40年前。
魔力を動力とする最初の駆動式装甲機が誕生した。
初め、それは人体を守護する甲冑に動力を付けた単純なものだった。
『シェル』と名付けられたそれはガーゴイルとの戦闘における生存率を大幅に向上させた。
その十年後。
ギアは革新を遂げる。
『シェル』の動力炉にもう一つ基本となる魔力動力炉を搭載することで、より実戦的となった。
『オーム』の登場だ。
本格的に軍の装備として採用され、帝国の力を象徴するものとなりオームのイエロー装甲はさながら警戒色のごとく、隣国を震え上がらせた。
装甲は分厚い盾。
固定砲台を腕に装備しながら、生身と同程度の移動が可能。
機士というギア専門の兵士が生まれ、機体操作テクニック『超絶技巧』が次々に考案された。
そのさらに十年後。
さらなる発展を遂げたのが『グロウ』である。
20年もの間活躍する傑作。
その強みは何といってもスピード。生身の人間をはるかに超える走力を獲得。
サブ動力炉で発生させた爆発的エネルギーを脚部に集中させる『ジャンプ機構』を搭載。
操作性も格段に向上し、ガーゴイルに対する安全圏を確立した。
『グロウ』は実戦の中で数多くの派生機を生んだ。
中古パーツを使いチューンを繰り返された『三式グロウ』
『オーム』外装パーツを用いた安定感重視の『グロウ・ベータ』
非純正装甲板を用いたスピード重視の『グロウ・デルタ』
高性能動力炉と純正オリジナル外装を取り付けた皇族専用機『カスタムグロウ』
しかし、グロウがギアの完成版と言われ20年。
テロリストやガーゴイルに対して徐々に優位性を失っていく昨今。
ようやく世代交代の時期が訪れた。
トライアウトだ。
三日間かけて行われる品評会。
新世代の軍正式採用機を決定する栄誉あるコンペティション。
個人として参加が命じられたおれはダイダロス基幹を引っ提げ帝都の皇宮にやってきた。
たくさん発表の練習をした。
マリアさんにそれは容赦なく仕込まれた。
その成果を見せるときがきた。
「では、ウェールランド技研グリム支部長殿。このトライアウトの意義、そして展望についてご説明を」
おれは解説役を押し付けられた。
参加者から降ろされた。
おれの『ダイダロス基幹』はトライアウトを経ずに承認され研究開発の継続が許された。
確かに、『トライアウトまでに完成させろ』と言われ、『出ろ』とは言われなかったけど。
「ギアの進化無くして、帝国の平和はありません」
「……なるほど、簡潔かつ的確ですな」
長々とギアの歴史から話すと思ったか? せんわ。
今日のおれは強気である。
面倒な会議は逃げるでおなじみルージュ殿下をマクベス君に頼んで捕まえておいてもらった。大捕物だったらしく、ボコボコにされて今はリザさんに介抱されている。うらやま。
そのおかげで、殿下はおれの隣に座っている。
ぷんぷんしているのですごい迫力だ。
ふてくされた殿下がふとボヤく。
「最終日だけ出るつもりだったのにな」
「まぁ、まぁ、マクベス君も悪気があったわけでは―――うごぅ!」
軍や貴族のお歴々が皇宮の中庭にある広場に勢ぞろい。
フェルナンドもいる。
手を振るな。友達ではない。
トライアウトの発表者も見た目からして癖が強い。
「変人ばっかりですね」
「お前がいうな」
いや、ケーキ手づかみで食べてる人とか、猫抱っこしてる人とか、すごい筋肉の人とか気になるだろ。
「ワクワクしますね」
「ヒヤヒヤするの間違いでしょ?」
まず新作を見て、その後発表。
最初の三機で暗雲が立ち込める。
『グロウ』の域を出ていない。
前回は10年前、『カスタムグロウ』でお茶を濁した。
また同じかと、ため息が漏れる。
「もういい!! 下がれ!!」
マクマード中将の一喝。
発表する時間も与えられなくなった。
ケーキ直食い、猫抱っこ、筋肉が消えた。
筋肉さんはマクマード中将に怒鳴られて泣いていた。
「どうせこんなことだろうと思ったわ。新たなギア開発研究を続けている者などごくわずか。軍が焦ったところでそう簡単に新世代機など出てくるわけがない」
「いやぁ、どうですかね?」
広場に新たなギアが現れた。
分かってる。量産機はグリーン。わかってるよ、これ作った人。
「『イマーゴ』です」
その動きを見てまたもや列席者たちからため息が漏れる。
『グロウ』と大差はない。前三人のリプレイだった。
「これは、如何か? グリム支部長?」
解説役として面倒な批評は全部おれ任せだ。
「深い緑の塗装がとてもいいですね」
場から困惑と嘲りの声が聞こえた。
「というのはジョークです。とてもいい機体だ。『グロウ』より遥かに」
会場がどよめく。
悪いわけがない。
名前は違うが間違いない。
こいつは原作の正当な第四世代機『クラスター』だ。