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49.最終調整レース

 



 ウェールランド基地から山間部を抜け、ぐるりと一周の長距離。

 

 最終調整としてレースが開催されることになった。


 参加するのは12機。

 ウェールランド基地から6機。

 フリードマンをはじめとする精鋭。機体は各機、グロウ改良型。

 ルージュ親衛隊から2機。

 ノヴァダ、ヒルダ。

 両機ともに『カスタムグロウ』。

 パルジャーノン家から2機。

 新型フレームを搭載した、『通常動力炉搭載型グロウ』と、『大型動力炉搭載型グロウ』。


 マクベス機。ダイダロス搭載型実験機『カスタムグロウ特式』。

 ルージュ機。『ハイ・グロウ』。


「これだけのギアが並ぶと壮観だね」

「スクショしたい」

「グリム語出た。あ、なんか人集まって来てますぅ!」


 おれ以外にもわらわらと少年の心持つ同志たちが集まってくる。

 軍人だろうと研究者だろうと貴族だろうと何だろうと関係ない。

 撮影会が始まった。

 

「新型の卸し立てピカピカ装甲の輝きがまぶしいですな」

「改良型の重厚な塗装禿げも良いものです」

「さすが、グリム殿、よく分かっていらっしゃる」

「『ハイ・グロウ』、ワンオフ機のこの蒼が映えることっ!」

「これがですね! この蒼を出すためにですね!! ぼくはね――」


 語ってしまった。錆防止と放熱、さらには装甲板の強化を兼ねた特殊塗料について。


「機能美から来る、様式美……天は美しさの中に真理を隠されたか」

「私は量産機の現地オリジナル迷彩グリーンが」

「激しく同意」

「右に同じ」


 ミンナ、ナカマ。


「……内部フレームのチラリズムは如何に?」

「装甲展開時に一瞬見える動力パイプこそ至高!!」

「脚部圧力シリンダーに勝るものなし!!」

「装甲板固定半自動スクリューロックもお忘れなく!!」

 

「失礼します、支部長?」

 

 盛り上がっていたらマリアさんが呼びに来た。

 急に熱が冷め、口をつぐむ同志たち。


 さようなら。そんな恨みがましい眼で見ないで。


 レースはウェールランド市を挙げた祭典となった。娯楽と熱狂に飢えた現地ウェール人も熱が入る。

 

 コースの周辺にこぞって人が集まっている。

 レース周辺にある観測ポイントには視覚装置を用いた中継装置を完備。


 今回の調整には中央管理庁や軍中枢からも視察が訪れている。

 お披露目というわけだ。


「殿下の機体には『ダイダロス基幹』を搭載しなかったみたいね?」

「提案してみましたが、要らないと言われました」

「フフ、あの子らしい。悪い癖ともいえるけれど」

「殿下の単機駆けは筋金入りですね」


 対するダイダロスは実質群れだ。

 一機のギアに対し、複数人のサポート。


「グリム支部長、まずこの遠隔視覚装置を説明してください」


 レイナさんに呼ばれた。お役人へのプレゼンか。


「モニターと言います。バイザー大きくしました」

「いえ、そんな大雑把な……!」

「視覚装置を信号増幅装置を用いて無線接続したものを、受信し投影しているのです。視覚装置で得た光情報を光魔法の記録補助装置で再現し――」


 マリアさんがてきぱきと答えてくれた。

 レース開催の準備は何から何までお任せしてしまった。

 軍事演習による周辺植民地への牽制と現地民との融和を兼ねる意図があるとかなんとか……


「ところで誰が勝つか賭けましたか?」

「殿下が参加される試合で不敬ですよ、支部長?」


 賭けを推奨したのはマリアさんのくせに。普通に金儲けまで考えていらっしゃる。


「殿下は帝国一の機士。殿下がいては賭けになりませんなぁ」


 お役人たちの下馬評はルージュ一択。


 いまいちダイダロスの性能は伝わっていないようだ。



 おれたちはオペレーションルームで観戦する。

 整備ドックの中には殿下を応援するメイドさんたちと、マクベス君を応援する現地民軍団、フリードマンたちを応援する団体で固まっている。



「マリアさんは誰に賭けます?」

「それはマクベスでしょう」



 意外だ。ルージュ殿下の方かと思っていたのに。



「先日のカルカド要塞での戦い。レポートは読んだかしら?」

「えぇ」

「彼は『グロウ』で戦況を支えたわ。特別な仕様でも何でもない、ただの『グロウ』で」

「相手は『紐付き』だったらしいですね」



『紐付き』

 ガーゴイルの中に極まれに現れる装備拡張型だ。

 全身に帯びる防御特化の『テンタクルタイプ』や、強力な一本を持つ中距離戦闘特化の『テイルタイプ』、射出する遠距離特化の『ローピングタイプ』。

 どれもギアの動きでは対処が難しい。



「でも結局、討伐したのはルージュ殿下です」

「『紐付き』を通常タイプのグロウで倒すには集団で遠距離砲撃しかないわ。それを単機で、それも近距離で渡り合い足止めする技能。彼は間違いなく、ルージュと肩を並べる実力者。さすがはあなたの切り札といったところかしら」




 マリアはやはり存在感が違う。地味な事務員の制服を着ていても周囲からの視線が集まっている。

 まるで切削加工された金属の彫像。

 澄んだ小川のごとく流麗な光を静かに放つようだ。

 厳かで神秘を秘めている。


「マリアさん、支部長代わりませんか?」

「私は目立つわけにはいかないのよ」

「手遅れですよ」

「え?」


 彼女が周囲に視線を移すと皆視線を逸らした。

 すでに十分目立っている。


 この人にお茶を淹れられたりするの嫌なんだが。


「あなたは命の恩人なのだから。肩だって揉むわよ」

「やめてください」


 本当に肩を揉まれると、お前何様だという視線を感じる。これって殺意では?

 レイナさんからも感じる。殺意だ。


「ふぅ~、私も準備とかで肩凝ってるんでお願いしますぅ」


 何も知らない馬鹿は能天気でいいな。


「グウェンさんは若いから大丈夫ですよ」

「私グリム君より年上なんですけど!?」

「そこまで凝っているようでしたら、メアリーさんに診てもらいましょうか? 呼んで参りますが」

「ひぃやぁ!! いいですぅ!!」


 さすが、変人の扱いにも慣れていらっしゃる。



 ◇



 レースが始まった。


 開始と同時に、二機が飛び出した。

 パルジャーノンの大型動力炉搭載型に乗るジルとマクベス。


 コースは基地を抜けてすぐ直線が少ない山道となる。


 モニターに各機の走りが映る。



《先頭のジル、見事な足さばきです! スピードを落とさず華麗にコースを読み切った動き!》



 そもそもこのレースに生半可な機士はいない。



《後続のマクベス機も早い! ぴったり後ろについて離れない!!》



 まだ本領は発揮していない。

 複座に座る機士は何もサポートしていない。


 ただ感触を確かめているだけだ。



 後続もほぼ塊で、置いて行かれているものはいない。デッドヒートだ。



 遠くから現地民と軍人たちの地響きのような歓声が聞こえる。



 立ち上がりは『ターボ』を搭載する大型動力炉が優位。

 その後の山道のコーナーワークで、細かい制御が可能な従来型も追い上げる。


《おっと、ここでジル機がやや失速か!》



「大型は扱いが難しい。求められる集中力が違う」

「曲がりくねった山道では大型動力炉は言うことを聞かない駄馬ね」

「たった一つの操作ミスが機体の連動性を奪う。関節可動域の解放と制御を間違えば、全身の骨が折れる。その恐怖が積極性を失わせる」

「けれど、前に出ている機体があるわね」



《マクベス機、ここで加速だ!! 鮮やかな超絶技巧!! 難なく難所を突破していく!!》


 その後ろには『ハイ・グロウ』が迫る。



「生きるか死ぬかの局面で躊躇なく前に出られる。あの機体は機士を選ぶ」

「全く、量産には向いていないわね」

「えぇ。ですが、ダイダロスは違います」



 そろそろか。


 ルージュ機はマクベス機の作った地面の溝へアンカーボルトを沿わせ、片脚ドリフト加速。


 並んだ。



「ダイダロス起動です」



 おれの号令に、サポート要員たちが各々返事をする。



「まずは、ダウンフォースエッジの管理を代行」


 複座の機士が魔力を込める。

 専用バイザーを被り、視覚を共有。

 装甲板から展開するダウンフォースエッジの出し入れを管理することで、コーナーワークをサポートする。



「続いて、機体内冷却」



 高温を発する動力炉を持つギアの中は灼熱。

 冷却は吸気と放熱、循環水冷却が用いられ、籠った熱を機体外へ逃がす。



《おっと、並ばれたがマクベス機ここでさらに動きが冴える冴える! 巧みな位置取りでルージュ機を前に出させない!!》



 腕のいい機士は発想力がある。

 複座の冷却担当が放熱のタイミングを計った。


《これは、狙ってやったのか!? 複雑な経路を走行中、不意の蒸気!!》


 蒸気が一瞬ルージュ機の視界を覆う。


「いいぞ、グッジョブ」


 複座席の機士とグータッチを交わす。



「たったこれだけのサポートで、これほど違うものなのね」

「まだまだ序の口ですよ」



 後ろに張り付いたルージュ機を引きはがす。



 コースはより険しい下り坂へ。


 マクベスから通信音声が入る。



《グリム君、そろそろ慣れてきたよ。行こうか、全力で》

「よし、やろう。スキルコンボ用意。ライン形成変更」



 おれの号令で、サポートメンバーのドークスやグウェンが操作する。



「Aライン接続解除完了です!」

「ツーシートオンライン!」

「おっし、再接続開始だ!」

「Lライン接続変更異常なしっス!」



 複座席の機士がスキルを発動した。


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― 新着の感想 ―
マリアさん有能スギィ!
[良い点] ミンナナカマ 趣味の前に人種も身分も関係ないのだ!
[良い点] 後に彼らと再会した時、 塗装剥げの人、現地オリジナル迷彩の人、動力パイプの人、圧力シリンダーの人、スクリューロックの人って呼ぶやつー
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