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39.密談しよう そうしよう

 


 おれとグウェンはメアリー先生の家に向かった。

 大事な用事だと意味深に伝えると誰も深くは聞かなかった。

 護衛のマクベスと三人。支部を抜けてきた。


 大事な話をするには、メアリー先生の家に限る。

 基地の塀で囲まれた居住区。ガイナ人文明が再現された限定的空間の中、ひと際大きな邸宅。

 その庭でおれたち三人はテーブルを囲み、話し合うことにした。


 ここなら誰の耳も眼も無い。



「まぁ、グウェンさん。そんな髪で淑女が出歩くものではないわ」

「だ、ダイジョウブです~」

「ほら、その話し方も」

「え、遠慮いたしますわ」

「遠慮なさならないで。さぁ、こちらにいらっしゃいな。メイクもして差し上げますわ。もうそろそろ自覚を持ちませんと」

「うぅ~、結構でございますわ」



 一人消えたんだが。


 メアリー先生に連れていかれ、グウェンが席を外した。



「お茶が美味しいね、グリム君」

「黒幕がさ、たぶんもう動いているから」

「あ、もう始まるんだね」


 状況の整理。それからこれからの方針を話し合う。



「黒幕が行うのは、三つだ」

「【混乱を生む】、【情報をリーク】、【スカウト】、この三つだったね」

「そう。今帝都では旧覇権貴族が蜂起している。騒乱って言った方がいいかな」


 原作通りなら、フェルナンドは製造管理権を持つ貴族を襲わせる。

 持たざる貴族たちを唆して、混乱を生み、情報の流出を謀っている。



「わかっていたなら止められたんじゃないか?」

「そこが難しいところだ。マクベス君は目の前の命を救うと、後に数百万の命が犠牲になるとしたらどうする?」

「意地悪だな」

「でも、そういうことを考えないといけない。黒幕を一時的に止めることで、後の悲劇を完全に止めるチャンスを失うことは避けたい」

「向こう見ずな君が慎重な理由は分かった」


 帝国各地で起こる騒乱を止める力はおれにない。政治工作タイプか諜報タイプだったら役に立てただろうが……

 それに火をつけたのはフェルナンドでも、この既得権益に不満を持つ者たちの暴挙は時間の問題だったように思う。急速にギアが発達したことで起こった貴族間の優劣と摩擦は確かに存在する。


 マクベス君と確認したいのは黒幕の動きというより、現状おれたちがするべきことだ。


 直接的に関係するのは二つ。

 情報リーク=ギアに関する情報流出。

 スカウト=黒幕からの接触。


 皇室の力の根幹をなすもの。それがギアだ。

 だからそれを失えば、帝国の支配力はがた落ちになる。

 

「……ギアに関してはグウェンを待とうかな」

「そうだね。グウェンもだいぶまともになってきたよね」

「心を鬼にして本当に良かったよ。まぁ、一時的なものだと思うけど」


 グウェンのあのズボラな性格があまりにひどいので調べてみた。

 彼女以外にも、長年ガーゴイルの解体業をしていたせいで、精神を病んだ前例があった。

 それで他者の評価について無頓着になってしまったのだろう。

 ガーゴイルに触れていないおかげでかなり良くなってきているが、時間がかかる。


 しばらく話していると二人が戻ってきた。

 

「お待たせいたしました。さぁ、ごゆっくり密談なさって」

「……(タ・ス・ケ・テ……!)」


 知らない人が口パクでエマージェンシーを告げている。



「うわ、グウェン、見違えたよ!」



 グウェンだったか。

 まるで貴族の茶会に参加するお嬢様みたいなドレス。髪も巻いてもらっている。化粧をすると別人だ。

 もはや原型が無い。


 ぎこちない姿勢と歩き方、礼をする。

 ああ、本物だ。


 早く座れよと思っていたらメアリー先生がまっすぐおれを見ていることに気が付いた。おれの脳内にプログラムされたレッスン【268】貴婦人のエスコート・テーブル編が再生され、身体が動いた。


 手を引いて礼をし、椅子を引いて座らせた。

 メアリー先生は満足そうに屋敷へ戻っていった。

 良かった。どうやら間違っていないようだ。



「君たち、結婚でもするの?」

「マクベス君、目の前の命を救ったら、数百万人の命が犠牲になる。君ならどうする?」

「なぜ今その話をするんだい?」

「私と結婚したら犠牲になるのはグリム君だけのはず。責任取って下さーい!!」

「ダメだ。ぼくにはまだやらねばならないことがある。グウェン、人類のために独身でお願いします」

「私の独身は人類のための犠牲ってこと!?」



 話を戻そう。



「とにかく、今、やるべきことはやっている」

「ギアの情報は流出してしまう。だから、管理庁への報告を引き延ばしているんだよね」

「顧問官の人、報告いつも大変そうですよね」


 顧問官の方、本当にスイマセン。なんだか、顧問官の仕事以外もやってもらっちゃってるし。経営とか業者との交渉とか、パーツの買い出しとか……


「だから、彼女を大事に、労おう」


 やることが増えた。



「それから黒幕からの接触についてだけど……」

「絶対に、ルージュ殿下の傘下から出ないようにして接触を防ぐ。だったね?」

「だからグリム君、あんなに試験頑張ってたんですねぇ」



 まぁ、結局、正式に専属になる前に一度接触されてしまったが。



「今、奴は大きな動きを起こすための準備として人材を集めている。だが、これは殿下の元にいれば回避可能だ。そして、奴が取りそうな人材をあらかじめこちらで採用しておく」

「それで、わざわざ郊外まで出向いてあの四人を勧誘したんだね」

「どんな人ですか?」

「テスタロッサさん、マクベス君、グウェンがもう一人増える。あと有能な衛生兵も」


 全員後々、フェルナンドの主力になる人物だ。

 SSR級諜報タイプが一人。

 SR級機士タイプが一人。

 SR級技師タイプが一人。

 SR級回復タイプが一人。



「でも、誘いに乗りますか? 二人共手土産ぐらい持って行ったんですよね?」

「そこはエカテリーナさんの手腕次第かな。今、彼らへの同情を誘う噂を流させているから。労働力として搾取されている彼らを基地で雇用できるように根回ししてもらってる」

「いつの間にエカテリーナさんと仲良くなったんですか?」


 マクベスと目を見合わせた。

 組み伏せ、脅したとは言えないな。



「いろいろと意地悪したことを反省してくれたようです」

「嘘っぽいな。組み伏せて脅したんじゃないですか?」



 こいつ、盗聴でもしたんか?



「まさか」

「まさかまさか」



 あの四人はたぶん、事実を見据えたうえで堅実な判断をするはずだ。思想的理想論で動いていたわけじゃない。労働に対する正当な見返りを欲していた穏健派グループ。

 大事なのは道を踏み外すことが無いよう釘をさすことだった。


 正直、勧誘できる人材はもう彼らぐらいしか思いつかない。



「今の、内乱? が治まったら動き出すのかい?」

「そう。だから今は殿下の傍を離れず、こっそりとギアの開発を進めよう」

「その後は?」

「……トライアウトに参加する」



 近いうち、新型ギアのコンペがある。通称『トライアウト』。そこに『ダイダロス』を出して、コテンパンに落選させる。



「密談はまだかしら? そろそろ私も仲間に入れて下さらない?」

「えぇ、もちろんですよ、先生」


 ケーキを持って輪に入りたそうな先生を迎え、おれたちの密談は終了となった。

 話題は、マクベス君とリザさんの恋模様になり、将来についてメアリー先生の尋問を受ける彼をおれとグウェンは高みの見物。

 それがマクベス君の一言で、急速回頭。

 スカーレットから手紙が来ると聞くと、メアリー先生の眼の色が変わり、ロイエン家のアリステラ嬢と終わった話を蒸し返されると、完全におれへの取り調べが始まった。



「ちゃんと将来について考えなければだめよ」



 数か月先の未来の出来事に翻弄され、自分の将来どころじゃない。正直、そんなことは考えたことが無い。



「善処します」



 おれの本当の人生は始まってもいない。

 フェルナンドを倒すまでは。



 楽しいおしゃべりもそこそこに、おれたちはメアリー先生のお菓子をお土産に戻った。


 ミーティング通り、顧問官を三人で全力でヨイショした。

 だが、いつもと様子が違う。


 支部が静かだ。



 ルージュ殿下がいなくなっていた。


グウェンを待っている間の雑談


「すごい商売を思いついたんだけど、殿下のにおいのする香水出したら飛ぶように売れると思うんだ」

「不敬罪の極みだし、誰が買うんだよ」

「いや、おれは買ったけど」

「脳内で作って売って買ってるよ……」

「じゃあ、リザさんのにおいの香水でたら買わないの?」

「買わないよ。というか出させないよ? グウェンの香水でたらどうするの?」

「いや、そんなマニアックな……あ、戻ってきた戻ってきた」





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― 新着の感想 ―
グウェンがヒロインでもいいなぁ〜
[一言] 鬼しかおらんW
[一言] 人類の為に独身で居られる事を強いられるグウェインw グウェンの生活能力の無さを弄りつつも介護するの見ててほっこりのような愛情は無いけど情は見えてニヤニヤするw
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