4.生きるということ
親方はおれ以外の現地民からも金を預かっていて、かなりの額をため込んでいたらしい。女に入れ込んで使い込んだとかいう噂も聞いた。
工場は閉鎖された。
おれは工場から派遣されていただけなので、せっかく得た基地での仕事も失った。
仕方なく他の工場に行ったが、すでに失業者で溢れていた。
「あ、あいつだ!! いたぞ、捕まえろ!!」
後ろ盾がいなくなったことで前にもまして襲われるようになった。
目的は金か知識か、いや両方か? あるいはただの憂さ晴らしなのか。
ギアの整備のために買った工具なんかは金になる。まだおれが金を持っていると思っているのか。
おれは闇魔法を使い何とか逃げるが、もはや限界だった。
「街を出なければ」
ここにいても、もうどうしようもない。
とはいえ、おれたちに移動の自由はない。
ここから逃げれば逃亡者生活だ。
そんな奴が皇女に近付けるわけがない。
人生を諦めかけたとき、廃屋に誰かが訪ねてきた。
「お前がグリムか?」
召使いや兵士を引き連れていかにも貴族。
「うわぁ!!」
とっさに『加重』で足止めして逃げようとした。
「ほう、闇魔法か」
しかし、今まで相手にしていた連中とは違う。
兵士たちは何のこともなくおれを捕まえた。
「落ち着け、グリム。おれだ。ギアを受け取った時、駐屯基地で会っただろう」
「あ……」
親方が話していた司令官だ。
「大丈夫だ。危害を加えに来たわけじゃない」
身なりのいい貴族が近づいてきた。
「私はベネディクト・ロイエン。父、カール・ロイエンの遺品を繕ってくれたと聞いた」
「あ、はい……」
おれはようやく事情が呑み込めてきた。
「グリム、すまなかったな。遅くなってしまって。工場が閉鎖され、お前が基地に来ていないと知ったのが最近でな」
「え?」
「基地所属の技師が勝手にお前をクビにしていたんだ。我々にバレないようにな」
「どういうことですか? バレないようにって何が?」
「工場の親方から金を盗み、彼を殺したと自供したよ」
おれは落ち着いて事情を理解した。
親父さんはおれを裏切ってなどいなかった。
基地にいた整備士はおれが仕事にありつけるように面倒を見る代わりに、親父さんをゆすっていたらしい。
しかし、おれの仕事ぶりが評価されると嫉妬からか、大金を要求するようになった。
そのことで争いになり、殺してしまい、金を盗んで逃亡したように見せかけたらしい。
おれのことをロイエン卿が訪ねてきたことで、基地内におれがいないことを知った軍人たちが整備士を問い詰め事が発覚した。
ここのところ、ずっと付け狙われていたのは口封じのために殺すためだった。
「犯人は本国に連行し、処罰される。そして軍が工場を再開する。だがお前は基地で整備に従事せよ。その腕を帝国のために使え」
言い方はあれだが、貴族とはそういうものなのだろう。
わざわざ遠い本国からここまで、おれに会いに来てくれたんだ。そして、基地で働けるように取りなしてくれた。
「感謝します、ロイエン卿、皆さん」