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27.天才の狂気

 

 試験会場に向かいながら治療を受け、みんなに連れられ列車に乗り、会場に到着。


「同伴の方々はここまでです」

「受かりなさいよ」

「はい、行ってきます」


 スカーレットたちに見送られ、おれは会場入りした。


「ちっ、何だ、ウェール人か……しかもガキじゃねぇか。いや、お前、ちょ、だだ大丈夫か?」

「ふぁ、いってきま~す」

「どこにだ? あっちだぞ受付……」


 試験を受ける人は老齢な技術者が多い。

 その中で16歳のおれはかなり浮いていた。


「はい、グリム・フィリオン。論文は確かに受け取りました……あの、あなた大丈夫? 顔色が悪すぎるんだけど」

「ひぇいってらるぅ」

「そっちは試験官室よ。あなたの部屋はそこよ、そこ!」


 論文を提出し座学の試験を受ける。



「おい、君、大丈夫か?」

「るぅ」

「その状態で、受けても仕方ないと思うが、受けるんだな?」

「ぅ」


 もうみんなに心配されるぐらいおれはヤバいらしい。


 試験は個室。作業部屋のような設備が整っている。実技もここでやるのだろう。


 息が苦しく身体が重い。

 意識が飛びそうになるのを堪え、試験問題に食らいつく。

 問題を一問解くごと緊張の糸が解け、瞼を閉じそうになる。

 その度におれは自分の太ももをペンで突き刺して意識を保った。


 試験官がその度に何か言っているが、耳鳴りがひどく聞くに堪えない反響音とおよそ人が話すとは思えないおぞましい鬼の慟哭となっていた。


 試験は2時間ほどで終わった。

 激しい咳が止まらない。

 もらった特効薬をかみ砕いて無理やり嚥下した。

 何とか目が見えて、音が聞こえる状態にする。



「―――おい、聞こえるか? ダメだ……すぐに病院に連れて行こう」



 何がダメなのか。

 連れていかれそうになるのをおれは必死に抵抗し、居座り続けた。おれの言葉は言葉にならず、行動で意志を示す。すると試験官はあきらめたのか、何やら説明を始めた。


 内容は分からなかったが、目の前に置かれた機体を直せ、そう言っている気がした。


 それを見た瞬間、身体に力が湧いてきた。

 ギアだ。

 

 おれは部屋に置かれている工具を手に、機体を分解し、状態を目視する。

 

 スキルがギアの状態をつまびらかにしていく。



 ■状態検知

 装甲板

 ・パネル:強度【〇】品質【〇】靭性【〇】

 ・ジョイント:強度【△】品質【〇】精度【〇】


 ジョイント部品のナットが足りないな。ここはダブルナットだ。この状態では振動でパネルがはじけ飛ぶ。


 作業を開始した瞬間、少し頭痛が引いた気がする。

 ペンを持つとき震えていた手は落ち着いている。


 薬が効いてきたか。



 ■状態検知

 フレーム

 ・インナー:強度【△】品質【〇】精度【〇】

 ・アブソーバ:強度【△】品質【×】減衰力【×】

 ・マニュピレーター:強度【△】品質【△】精度【×】


 マニュピレーターの反応が悪い。手先の感覚で細かな操作を可能にする装置だ。一瞬の感度不良が命取りになる。

 アブソーバの衝撃吸収油圧ピストンの一つが妙に固い。クリアランスに誤差が生じている。一つの不良で装着者への負担は倍増する。

 シリンダーを極わずか削って抵抗を無くす。

 細かな作業で頭が冴えていくのが分かる。



 ■状態検知

 動力炉

 ・シリンダーヘッド:耐久【〇】品質【〇】耐蝕【〇】

 ・コネクティングロッド:耐久【〇】品質【〇】精度【〇】

 ・ピストン:耐久【〇】品質【〇】精度【〇】

 ・バルブ:気密性【〇】品質【〇】精度【〇】

 ・クランクシャフト:強度【〇】品質【〇】精度【〇】

 ・カムシャフト:強度【〇】品質【〇】精度【〇】

 ・魔力インジェクター:放出量【〇】品質【〇】耐熱性【〇】

 ・冷却装置:冷却【〇】品質【〇】容量【〇】


 問題はなさそうだがこれだけ見ても意味はない。

 動力炉が一基しかない。これで姿勢制御から動作補助、加速戦闘までこなすなんて無理だ。

 なるほど、部屋にあるメインシャフト、サブシャフト、ベアリング、ローター……あとはこれらを組み立てメイン動力炉に組み換え、サブ動力炉をこのV12圧縮魔力式熱動力炉に入れ替えなければならない。


 ひっかけ問題だな。


 当然ここを入れ替えればマニュピレーターの動力シフトラインも入れ替える。その上で切り替えのバランスを再調整しなければ超絶技巧は生まれない。

 

 自分の身体から熱が放出されていくのが分かる。

 調子はいい。

 やはりおれはギアをいじっている方が自然体でいられる。


 魔法増幅器のアジャスターダイヤルの微調整。

 感応機は高感度ラインの配線を束ねて整理。巻き込み防止だ。丁寧にいこう。

 バイザーの視覚装置がメイン動力ラインにつながっている。マニュピレーター操作から外して機士本人の眼の魔力に合わせて焦点が定まるよう、インナーフレーム頭部にある視覚付近に独立制御感応機を組み込む。ラインをちょいと変えて感応機の感度を最小に。


 こだわる点は他にもあるが、一先ずこれで気になる問題は解消されたはず。

 などと時間を忘れて作業しているといつの間にか試験が終わったらしい。


 おれの作業終了と同時に試験官たちが飛び込んできた。


「だ、大丈夫か!? いやいい、動かなくていいぞ!?」

「まずその手に持っている工具を置いて」

「誰か付き添いはいるか!?」

「ああ、なんてことだ……」



 どうしたんだろうか?

 邪魔しに来たわけではないようだ。なぜ慌てているんだ。


 外が真っ暗だ。どれぐらい時間が経ったんだろうか。もしかして、この試験は時間制限とかなかったのか?


 視界がクリアになっていくと段々、身体が再び熱を発し始めた。燃えているのかと思った。

 自分を見る。


 ■状態検知

 バイタル

 ・体温:【42℃】

 ・脈拍数:【199/分】

 ・意識レベル:【×】


 胸が苦しい。

 血だらけだった。脚は、何度も刺したから仕方ない。

 あとはどこだ? 鼻血と、口から出てた。


 視界が暗転した。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 最っ高!やはり、頭のおかしいやつはこうでないと!
[良い点] 普段は異人を見下すムーブをするモブの方々が慌てていらっしゃるwww
[気になる点] 個人的には根性で何とかするのはちょっと… 死んでしまったら意味ないし、無理していいのは引き際を弁えてる人だけだと思う。 そろそろ無理しても届かないような、痛い失敗をした方が良い気がする…
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