22.論功行賞
おれの前には満漢全席。
隣にはニコニコのお嬢様。
正面には、ベネディクト・ロイエン。
「いただきます」
違法ギア製造組織のアジトの制圧が完了し、前線からロイエン伯爵が戻ってきた。
おれは現在、ロイエン家の邸宅がある領都、カーディナル城市にいた。
前線から戻ってきたギアの整備を存分に見学、もとい体験させてもらいながら、マクベスとリザの帰りを待っているのである。
「あのマクベスという青年は君が見つけたらしいな」
「あ、はい。前は解体工してました」
「一体君はいくつの才能を持っているのだ」
「いやぁ~」
3つ? 4つ?
謙遜したいところだが、おれはロイエン家の没落を阻止した。
「ワタクシはグリム君自身の話が聞きたいわ」
お隣のお嬢様が口を開いた。
驚いた。人形かと思ってた。
ロイエン卿の娘でアリステラ・ロイエン。
「今、好きな子はいるの?」
「ええ、7,8人います」
「付き合ってるのは?」
「13人です」
「本当かなぁ?」
「どうでしょう」
おれの適当過ぎる返答にもニコニコとしている。
そして、距離が近い。というかゼロ距離だ。
こういうパーソナルスペースに入ってくる人嫌いなんだけど。
「そうじゃけんにするな。君のその才能、野ざらしにしていられるものではあるまい」
おれはスカーレット殿下の徽章を出した。
「所属と結婚はまた別の話だ」
「そう、ですか?」
結婚とか全く考えていないんだが。
そんなことしてたら、帝国崩壊するんだが。
「うちの養子になってスカーレット皇女殿下と結婚する度胸があるなら話は別だ」
「それだとぼく、死んじゃいますね」
親衛隊に。
ひょっとしたらスカーレット本人にも殺されそうだ。話題にするのも怖い。
「でもぉ、アリステラ嬢とぼくも釣り合わないのでぇ」
「クライトン家に養子に入ればいい。他でもいいが」
「そうよ。もう逃げられないのよ」
「えー、昨日初めて会ったのに」
真面目な話、身分関係なくおれはウェール人だからアリステラも結構なリスクを負う。
「実力があれば上の地位に行ける。そこが帝国の良いところだ」
「私はお父様にずっとあなたのことを聞かされていたから、会えるのを楽しみにしてたのよ」
◇
帰りの列車の中。
「戦場で成長する。貴殿の才覚には恐れ入った」
「リザさんのギア捌きこそ、無駄が無くてお手本にさせていただきました」
「ぼくのいないところで随分仲良くなったようですね」
敵組織壊滅後、二人は掃討作戦で手の回らない伯爵軍に代わりガーゴイルの討伐に参加していた。
「グリム君こそ、アリステラ様とはどうだったんだ?」
「どうって?」
「ロイエン卿が紹介したということはそういうことだろう。驚きはしない。君の働きからすれば」
リザさん、なぜ安心した顔を?
「別に何もないですよ」
逃げてきた。
おれにはやることがある。
「それより二人共、ぼくの働きなんてものは無かった。それが情報局の意向です。ぼくはここに来て二人を見送って、ただ傷ついたギアを直していた。いいですね?」
「そこまで隠すとは不気味だ。あの増幅信号装置の技術を隠したいだけではないな?」
リザさんににらまれるとついうっかり口を滑らしそうだ。
あれは単なる副産物。
ギアの飛躍。それにはあの信号増幅装置の本来の使い方を確立する。
アリステラと婚約などしたら、おれがここでやったことに勘付くかもしれない奴が一人いる。
第二皇子フェルナンド。
その洞察と先読みの鋭さは原作の主人公補正だとしてもあまりある。
異人が帝国で活躍すれば、彼が接触してくる可能性がある。
属州、植民地支配の解放運動まではまだ時間があるが、ロイエン家の婿養子にでもなっていたら絶対に勧誘してくる。
そういう奴だ。接触は危険。
「……あれは半分以上グウェンの功績なんですよ。ぼくが造ったかのような触れ込みは彼女に対する不義理です」
「ああ、それはそうか。彼女、単位が足りなくなるからこられなかったけど、それは本当ですよ。設計は彼女ですから」
「ふむ、そうか……では、アリステラ嬢とのこともグウェンのためか?」
急に何の話?
「今、アリステラ嬢の話してましたっけ」
「いや、同室で男女暮らしていて何もないのか?」
「グリム君はグウェンのこと、たぶん女として見てないよな」
「ぼくがあの人を人間と認めているのは、才能があるからです。無かったら、埋めてます」
「え?」
「ああ、おどおどしてるくせに、普通に飯盗むし、金借りて返さないし、掃除も洗濯もできないし」
「異臭の原因は大抵あいつ。おれが病気になったらあいつのせい」
「そ、そうか……だが、顔や容姿はいいだろうし、生活習慣さえ正せば」
「あ!! やってくれます!!?」
「リザさん……だめっすよ」
「え……?」
「スカーレット殿下のメイドさんにも嫌味言われるんで、そう言ってもらえてよかった!! 確かに、リザさんの方が適任ですね。ぼくなんかが彼女の生活習慣を変えるなんてできるわけなかった!! そうか、どうか、彼女を人間にしてやってくださいね!!」
リザさんは半日でグウェンを返却してきた。
彼女曰く、グウェンを娶ってくれる男は辺境の過疎地にもいないそうだ。
知ってた。