表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/160

2.錆取りの小僧、ネジをつくる

 

 物乞いはやめて、労働者が集まっている場所をいくつか訪ねた。

 掃除や下働き、雑用係。

 なんでもやる気だったがどこも5歳の子供は雇ってくれない。

 人さらいに眼をつけられ、逃げた。


 通りを見る。

 商売をしているのは目利きのできる老獪(ろうかい)な商人か、見眼のいい若い女。

 おれの分析は役に立たないだろうか?


 食い物が腐って無いか、旬かどうか、クオリティが高いか低いか―――おれには物の価値がわかる。

 分析スキルのおかげだ。

 しかしこれを役立てて商人になるのは間違っている気がした。


 愛想よく接客するのは無理だ。

 

 他の仕事といえば力仕事か。

 運搬に土建業。5歳のおれにできることじゃない。


 

 おれはエンジニアになるんだ。

 なら製造業がいい。

 工場を訪ねた。


「手は足りてる」


 だめだった。

 だが、工場の中がちらっと見えた。


 今度は準備して再トライした。


「グリムって言ったか? いいだろう。錆取りで雇ってやる」



 そこそこまともな工場に採用された。

 この世界は工業が盛んで機械製品が多い。

 金属加工業も豊富だ。

 ガーゴイルの身体が半分機械でできていることと関係ありそうだ。


 ともかく、工場では修理する機械製品、整備する物、さらに廃棄部品が集まる。


 そこに眼をつけたおれは工場に乗り込んでまず廃棄部品を二分した。分析スキルを使えばたやすいことだ。

 腐食し再利用できないものと表面の(さび)を取り被覆処理をして再利用できるものに分けた。

 そして再利用できるパーツの錆を落として見せた。

 錆を取る手はいくらあっても足りないと踏んだ。


 おれは手っ取り早く溶剤をクッキングしてみた。

 錆取り剤のレシピなど知らないが廃屋の地下にあったギアの錆を分析し、何がそれを分解するのか調べまくった。試しまくった。

 結果、酸っぱすぎて誰も食べない木の実の汁に効果が見られた。それを煮詰めて油を混ぜたものが使いやすい。

 ギアに試してみるとすいすい錆が落ちていった。

 このギアも直せば金になるかもしれない。


 おれはとにかく錆を落とし続けた。

 帰ってもギアの錆を落とし、部品を解体して構造を理解してながら直して過ごした。



「へへ、悪く思うなよ」



 甘かった。

 おれは溶剤を盗られてボコられ、路上に転がされた。

 もちろん、溶剤の作り方もしっかり話した。怖くて。

 物乞いをしていた子供がある日突然仕事を得ればおかしいと思う連中もいる。

 やり方さえバレればおれに居場所なんて無い。

 ボコられたせいで丸一日熱でうなされて苦しんだ。やっとの思いで工場に行くとおれの使っていたさび落としが流行っていた。


「馬鹿野郎!! おせぇぞグリム!!」

「え?」



 あきらめて帰ろうとすると工場の主人が声を掛けてきた。


 入れ替わりで錆取りをしていた連中が悪態をつきながらも追い出されていく。


「なんでですか?」

「お前の方が仕事が丁寧だ。職人の道具は盗めても技は盗めねぇよ」



 おれもそれなりに器用な方だ。

 何せエンジニアタイプだし、もうずっと錆取りしかしていなかった。

 だからって大人数人分も働けるわけじゃない。


「ありがとうございます」

「泣いてんじゃねぇ。クビにするぞ」



 元はと言えば子供が持ち込んだ溶剤には気づいていたわけで、それを奪えばおれを雇う必要は無かった。

 ほかの工場だったら実際そうなっていたかもしれない。



 ただ金を稼ぐためだったけど、おれは親父さんのためにも精一杯働くと決めた。



 おれは毎日誰よりも早く工場に出向き、一日もサボらずがむしゃらに働いた。

 その間、おれ以外の大人の仕事を食い入るように見つめた。

 削り出し、成形、解体、溶接。

 削り出し、成形、解体、溶接。

 削り出し、成形、解体、溶接。

 削り出し、成形、解体、溶接。


 上手い職人の技を観察し続けた。

 機械に関するおおよその知識も得て2年後、生活は大きく立て直せた。


「グリム、そろそろこっちやってみるか?」

「はい?」


 親父さんからネジ造りを教わった。



■状態検知

 精度:89%

 品質:中(傷:〇 表面:△ 長さ:〇 溝:〇 )

 材質:鉄:86% アロン鋼:12% 鉛:2%


「お……」



 作業をしていると分析スキルがより明確になった。

 どうやら、おれの分析スキルは『状態検知』。

 かなりレアなスキルだぞ。汎用性が高く、情報量も豊富だ。


 スキルは知覚、センス、神経、直感が魔力で最適化された能力。

 おれの場合、原作もゲームもやっているから、引き出させる情報が多いのかもしれない。



「おお、上手いじゃねぇか。いいぞ。上出来だ」

「はい!」



 錆取り係からネジ造りを任されるまでになった。

『状態検知』で常に最高品質を維持した。


 おれの作ったネジは好評で、工場では少しばかり話題になった。

 

 工場の評判も上がり、やがて軍の依頼が舞い込んできた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
***書籍発売のお知らせ***
小夜中のデビュー作となります!

『ギア×マジックの世界でエンジニアとして生きていく~転生者は悪役皇女を救いたい~』
[KADOKAWA エンターブレイン様より6月30日発売!!]
i976139
↑画像をクリックしたらAmazonの予約ページにとびます

パワードスーツタグなろう史上最高ポイント作品!!
ヤナギリュータ様の細部にこだわりぬいたメカデザインは必見です!!
随時情報はXにて更新中!
― 新着の感想 ―
油はどうやって入手したんだ?
[良い点] 努力型転生者、面白いですね。
[一言] 0話はぶっちゃけもうコードギアスにしか見えなかったけど、2話はオリジナルって感じで良いね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ