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15.5 教官

 



 さてどうしたものか。



 今年の新期生、軍事工学課首席のグリム・フィリオン。

 彼奴は実技と座学でとんでもない成績を叩き出し、基礎体力と魔法試験の失点を帳消しにしてしまった。

 入学前から議論の的だった。


「いやぁー、しかしウェール人ですか」

「試験問題が漏れた可能性は無いんですか?」

「やはり、権威ある帝国軍兵学校には相応しくありません」

「あの実技試験の結果を無視するのか?」



 おれはこの道30年。

『オーム』が実用化された初期からギアに携わってきた。

 そのおれにはわかる。

 グリムが見せた長距離砲S12バリスタの整備。あれは整備士見習いのガキの仕事じゃねぇ。

 一種の芸術だ。



「確かに、S12の命中精度はダントツでしたが」

「命中精度だと? 奴の仕事はそんなものじゃない」



 こいつら機士課程の連中は相変わらずだ。

 何もわかっていない。



「奴はバレルのゆがみを直し、余った時間で装弾機構をバラして組み立てなおしやがった。発射の衝撃を分散するピストン制御が滑らかで次弾発射時の台座のズレが格段に少なかった」



 奴の整備したS12の地面だけ圧倒的に荒れが少なかった。

 これはギアにマウントしたとき、腕部への衝撃負担が少ないことを意味する。



 あの短時間でやってのけた。

 あんな仕事を他の誰にできる?



「あの、グリムの試験受付の時揉めたという話ですが、皇女殿下の他にフリードマン少佐がいたそうです」

「なに? あのカルカドの英雄、『スレッシャー』か!?」

「なんてことだ。帝都に来ていたとは。会いたかった」


 フリードマンか。

 ギアの性能を引き出す近距離機乗力【8/10】に加え、超絶技巧であるアクセルターンやドリフトターン技を完全マニュアル操作でこなすという実力者。

 技術屋としても会ってみたいという気持ちはわかる。



「いや、問題はそこではありませんよ。わざわざグリム・フィリオンの付き添いにウェールランド基地から来たということは、なにがしか意味があってのことなのでは?」

「聞いた話では皇帝陛下の御意向で名誉市民に格上げされたらしい。わざわざ情報部の高官を派遣してのことだったそうだ」

「試験の手続きはロイエン家が根回しをしている」

「あの伯爵家の?」


 結局会議はグリムの合格を認めざるを得なかった。

 座学の試験問題、整備実技は歴代最高得点。これはあの天才フェルナンド皇子を超える結果だ。



 入学してすぐ、おれは奴を試してみた。


 やはり並みの整備士のレベルでは無かった。


 それだけではない。

 奴は常時魔法を駆使して整備に当たっていた。

 あれは闇魔法系統の『重力操作』。

 あれで魔法実技に落ちるわけがない。

 ギアの整備は体力がいる。魔力量も相当だ。


 グリムは難しい基幹部品の扱いまでこなした。

 専門家でも窮する仕組みを、スラスラと理解して形にしてしまう。


 

 貴族の子息子女など皆学ぶ機会があっただけのボンボンだ。

 対して奴は実戦の中で培われた本物。


 これ以上ない手本だが、ウェール人だから舐められている。その上技量が高過ぎて力量差が分かっていない。



 案の定グリムを意識するあまり上期生たちが事故を起こした。



 同じ訓練課程に混ぜない方がいい。参考にならん。


 ギアを一から組むこともできる。

 こいつにさらに知識があれば……




 一からギアを創作することも可能かもしれん。



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― 新着の感想 ―
なるほど。教官は主人公曰く「本物の天才」が作り上げた芸術を間近で見て、脳を焼かれながらも食らいついた本物ってことか。 そりゃボンボン子息の面子だの、現場を見ない姿勢なんてのを許すわけないか。
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