15.化物
おれとグウェンはとりあえず二人でプロトタイプスーツを作成した。
高機動戦闘以外にもこのスーツには魔力制御の簡易化が期待できた。
「インナースーツにギアの感応機をリンクさせたのか。すばらしいよ、グウェン君!!」
「あ、いえ、これはその……!」
グウェンは落第を免れたようだ。
「本当にいいんですか? 私とグリム君二人で造ったのに」
「ぼくは単位足りてると思うんで。あの程度の実技でなんで落としたんです?」
「えっと……そのぉ……サボっちゃって……」
この天才がシーズン1に出てこなかったのはこのズボラな性格のせいだな。
しかし、整理整頓しなければ共同研究はしないと言ったら、片付けぐらいはするようになった。
「それにしてもひどいですよ、私の荷物全部捨てちゃって……」
「ゴミの中にあるものは全部ゴミなんですよ」
「ひどいぃ~。容赦がないぃ~」
彼女、グウェンとの出会いは幸運だった。
その才能ばかりでなく、おれに気付きをもたらしてくれた。
何も一人で事態を防ぐ必要はない。
彼女の協力があれば、3年後の悲劇はより確実に防げる。
ギアの機動力を上げるという発想はいずれギアの飛翔へとつながる。
「おい、誰だよあれ」
「さぁ、あんな女性、居たかな?」
「あのウェール人の女か」
グウェンが身なりを整えると周りが騒ぎ出した。
寮長も男女が同じ部屋なのは不謹慎だとか言っていた。
急になんだよ。
あんたが決めたことだろ。
「なんだか見られて落ち着かないです。何か変ですかぁ~??」
「ぼくがウェール人だからでしょう」
「え? ああ、そういえば!!」
「今気づいたのかよ」
悪目立ちしているのは自覚している。
講義や実習でも目の敵にされていた。
「新期生には上期生の手伝いをしてもらう。課題のギア整備は班のみんなでやるからな。しっかり指示に従えよ」
「「「はい!」」」
「特に、お前」
「あ、はい……」
「首席だからって調子に乗るなよ。整備はチームプレイだ。スタンドプレーをしたら最低評価にしてやるからな」
「わかりました」
いきなりこれだ。
しかし勝手をするなと言われても、ひどい惨状だ。
合格して入っているんだから頭はいいんだろうが、機械の扱いがなってない。
計器を見ろ。ずっと設計図を見ているが、それって意味あるの?
なんでその装甲をつけたり外したりしてる? 計器見ろや。
上期生と言っても基本的な設備の使い方を知っているだけで、手際がいいとは言えない。
はっきり言ってレベルが低い。
戦後30年だ。
ギアが実戦で使用され続けているとはいえ、ここは戦地から遠く離れた帝都。戦地で経験を積まなければ、ただの機械いじりに終始するのも仕方が無い。
そう思って黙っていたが、限界だった。
「あ、そのバルブはいじらない方が。あと計器見ません?」
「なにを知ったかぶってる!! お前は指示通りに動けよ!!!」
「いえ、そこは……」
動力炉を回しながらバルブをいじったら内部でバーストするに決まってるだろ。
「お前みたいな勉強だけの奴に何がわかる! 実習ってのは、こうやって……」
課題用のギアがうなりを上げた。
煙を上げて何かが弾ける音。
これは、3番パイプが根本から外れたか。
動力炉のエネルギーが機体内に漏れる。
「あ、あれ? えっと……」
「動力炉を切れ!!!」
「おい、何勝手に指示してる!! こういうときこそ冷静にだな――」
間に合わない。
「いいからどけっ!!!!」
おれは動力炉を動かしている奴を突き飛ばした。
そしてバルブをいじっている奴に『重力場シールド』をかける。
「伏せろ!!」
ギアが爆発した。
金属片が散弾のように飛び散る。
天井の屋根まで穴が開いている。
「はぁ、はぁ……」
そこに教官が飛び込んできた。
「何事だ!!……これはっ」
顔が青ざめる。
「要救護者確認」
兵士が来て、倒れたおれたちを倉庫から運び出す。
幸い、負傷者のみ。死者は出なかった。
「これは一体どういうことだ」
「それは……あのウェール人が指示を無視して勝手に動力炉を切ったのです!!」
「そ、そうです。私は突き飛ばされたんですよ!」
「あんな野蛮なものと一緒に作業なんてできませんよ!!」
勝ち誇った顔でおれを見る上期生たち。
同期も厄介払いできそうでうれしそうだ。
「愚か者どもが。動力炉を動かしたままバルブをいじればこうなることぐらいわかるだろうが!!! 誰が計器を見ていた!?」
「え? い、いや、ですから、あのウェール人がですね」
「問答無用!! ギアを大破させるとは……貴様らはもう一年基礎からやり直せ!!!」
青ざめる上期生たち。
必死におれへと罪を擦り付けようとするが教官は聞く耳を持たない。
「まさか、ロイエン家のお気に入りだからですか!?」
「そうだ、やっぱり、あいつ試験の時失敗してたのに合格なんておかしいと思ったんだ」
「こんな不正は許されませんよ!!」
ほとほと呆れている教官はおれの方へと視線を移した。
「すまんが、グリム・フィリオン。大破したギアを組みなおしてくれ」
「ぼく一人で、ですか?」
「そうだ。動けばいい。V2.5動力炉は取り換えろ」
「わかりました」
教官め。面倒でおれに投げたか。まぁ、組むだけなら別に誰だってできるだろ。特別な意味はない。
「馬鹿な。できるはずない」
「飛び散ったパーツを洗い出すだけでも一か月はかかるはずだ」
「動力炉を設置するなんて危険過ぎる」
ギアの飛散した部分を回収。重力魔法で重いパーツを運び、接続系統を確認。生きている部分以外を余剰パーツと交換。
あとは組み上げていくだけだ。
「できました」
5時間ぐらいかかった。
「そんな……一人で」
「闇魔法をこんな使い方するなんて」
「化物か……」
「グリム・フィリオンはウェールランド基地でギアの整備、改修を3年している。実戦で使うギアを扱っていたのは機士から信頼されていた証拠。貴様ら習いたての者と違い、彼には実績がある。お前たちが妬む気持ちも分かるが、排除しようとしても無駄だ。彼に学び、彼を目指せ。さもなければ使い物にはならん」
まるで当てつけのようだ。
おれは設備と研究ができるよう資格が取れればそれでいいんだが。
おれの意志とは関係なく、この一件は学校中に知れ渡ってしまった。