14.出る杭は打たれる
「ちょっとどういうことよ!」
おれは人気のないラウンジに呼び出された。
リザさんに言われてホイホイ付いてきてしまった。
「あの、ここは?」
「皇族専用ラウンジだ」
こういうところは権威主義の権化なんだよな。
「なんでそいつがいるのよ!!」
「殿下が、今年の軍事工学課トップの合格者をとご要望でしたので」
「その蛮人がトップ合格ですって!?」
呼びつけておいて不満そうだ。
「お呼びではないようですので失礼します」
「待ちなさい」
苦悶の表情を浮かべるスカーレット。
「私には専属技師が必要なのよ。なのに、お前がトップ合格のせいで、2位の者を選べと言うの?」
知らんがな。
機士課程の訓練生は自分のギアを整備する担当技師を自分で見繕うのが風習だ。
「そもそも、お前が本当にトップ合格なんて信じられないわ」
「そうですか」
そう思っているのはおれ以外にもたくさんいるだろうな。
「では、ぼくの同室のグウェンという上期生を担当にされてはいかがですか? 専属になっていないようですが、天才ですよ」
「天才?」
「連れて参ります」
面倒なことは彼女に押し付けよう。
あわよくば部屋を出て行ってもらう。
「な、なんで私が!?」
「ああ、その恰好で出て行かないで下さいね。まず風呂入って髪洗って下さい」
「うぅ、さよなら!」
逃げるグウェンを重力魔法で捕まえ、風呂場に引きずる。
「待って!! 自分で脱ぎます!!」
「ちっ、早くしてくださいよ」
「ああ!! もうお嫁に行けません!!」
苦戦しているとスカーレットのメイドさんたちが突入してきた。
惨状を目の当たりにしてメイドさんたちの顔が覚悟で険しくなる。
「ブラシ持ってきて。櫛じゃダメよ、馬用!!」
「きゃー」
「水魔法使える人呼んできて!!」
「ぎゃー!!」
「何よこの服、全部燃やしてきなさい!!」
「なんでー!!?」
お任せした。
出てきたグウェンは別人になっていた。
彼女を連れて戻ると再び怪訝そうな顔をされた。
「グウェン・ツヴァイドライ。軍事工学課4年の19歳。しかし、成績は下の下。落第寸前の落ちこぼれ。軍事工学課の厄介者」
落第?
いや腕は確かなはず。
「実力があればいいのでしょう? 試してもらえませんか?」
「試すまでもないわ。私には相応しくない。消えなさい」
メイドさんたちの顔が怖い。
おかげで面倒ごとを免れた。
どういうことかグウェンに尋ねる。とても彼女が落ちこぼれだとは思えない。
部屋に散乱していたゴミの中にはそれをうかがわせる資料が山のようにあった。先進的で開明的なアイデアに対する斬新なアプローチ。現実に即したプラン。
「課題をやっても理解してもらえなくて」
「えぇ……」
課題は動力炉の整備手順について。
それに対する解答がギアの動力炉の改善案。
彼女は頭が良すぎる。
ギアというのは各部専門の研究者が開発した先端技術の結晶だ。それに訓練生がケチをつけては誰も取り合わない。
そんな内容ばかりだ。要は出る杭は打たれるということだ。
「ギアの高機動を動力炉の改善、魔法の運動エネルギー転換、機士の反応速度向上によって実現する計画ですね」
「そんなちょっと見ただけでわかるんですか!」
「動力炉と魔法エネルギー転換は課題が多いですから、まずは機士の反応速度からが無難でしょう」
「はい、なのでギアの感応機の効率化を図ったんですが、現行の感応板に使われる金属の合金比率と魔力抵抗の基準を大幅に改善するには金属の精製過程を見直さなければならなくて……あっ、合金の結晶構造のムラを無くすにはですね――」
複雑怪奇な溶鉱炉の設計図が出てきた。話が飛び過ぎだ。
「いや、うん。機士の装備、インナースーツを見直しましょう」
「機士の装備、ああ!」
機士はギアに乗る際、革と合成繊維のスーツを着る。
安全性の問題で分厚いせいでギアに取り付けられた感応機への魔力供給が一瞬遅れる。
魔力が流れることでギアは動く。
その流れを妨げない反応のいい素材をスーツの各関節部位に埋め込む。
「抵抗を減らすことでよりスムーズな反応が期待できます」
「グリム君、天才です!!」
「一緒にやってみましょう」