1.『ギア×マジック』
帝国に侵略される前はフィリオン家もまぁまぁの家だったらしい。
今では一家離散し、廃屋が残っている限りだ。
朽ちたの廃屋に身を寄せ、物乞いをしていたおれはある日、目覚めた。
廃屋の地下に隠されていた『駆動装甲機』―――通称『ギア』を見つけた瞬間、前世の記憶が蘇った。
「ここって『ギア×マジック』の世界だったのか」
『ギア×マジック』
大人気アニメ、またはそれを元にしたゲーム。
おれはどっちもファンで、かなり入れ込んでいた。
半人半機の化け物ガーゴイルの脅威がある世界。
人々は魔法と工業の力を駆使して人類の生存可能域を護っていた。
そんな中、巨大な軍事力を持つ帝国が革新的装備、『ギア』を開発し実戦に投入した。
駆動装甲機。
魔法を動力にし、各部機械を動かす特殊な機械式鎧甲冑だ。
帝国はギアを用いて他国を侵略、次々と植民地にし、領土を拡大していった。
圧政に苦しむ人々を解放するために立ち上がるのは帝国皇子で、自らが開発した新型ギアを使って帝国を崩壊させるというストーリーだ。
「ま、まずい」
感動より先に危機感を抱いた。
近い将来、皇子が帝国を崩壊させる。
しかし、それはガーゴイルとの全面戦争を引き起こし、皇子はやむなく解放した植民地を再び軍備増強のため統治することになる。
皇帝の意を曲解した皇子の暴走で無駄に人が死ぬ。
「だからっておれに何ができるっていうんだ?」
さびたギアを眺めてしばらく茫然としていた。
すると、ギアの状態が何となくわかった。
「まさか、分析型スキルか?」
ゲームで見ていた能力値や改造段階、タイプ、武装、特殊攻撃など……パラメーター画面が見える。
おれは自分の両手を見てみた。
すると自分の魔力量や適性魔法、タイプ、適性職業などがわかった。
「エンジニアタイプで、闇属性魔法の適性……これなら……いけるかもしれない」
突飛な考えかもしれない。
望みはかなり薄い。
でも、可能性はある。
アニメの流れを考えれば、最悪を防ぐタイミングがある。
帝国が反乱勢力によって致命的な損害を与えられるのは皇女ルージュの死がきっかけだ。
1クールの最後。
主人公フェルナンドは仲間と共に『串刺し皇女』を倒す。そこで革命の成功を確信する。
だが、裏を返せば反乱勢力は彼女を殺してしまったことで引き返せなくなっていた。
皇帝が急速に領土拡大を図ったのは、ガーゴイルとの大戦争を予期していたからだった。
そのことに気が付いたころには時すでに遅し。
彼は自らの過ちを自覚しながらも、再び圧政を敷く。そして帝国軍残党、袂を分かったかつての仲間、そしてガーゴイルとの泥沼の戦いへと身を投じていく。
「なら、あそこで皇女が死ななければいい。いや、1クールで物語を終わらせればいい」
そのためのアイデア、いや、未来の戦いをおれは知っている。
剣やハルバート、銃弾や砲弾を装備し、陸戦専用に設計されたギアは、やがて遠距離攻撃魔法と空中戦が主力となる。
それを皇女のギアが先んじて装備していれば、いくら皇子が高性能なギアを開発して軍を出し抜こうと関係ない。
「でも、おれは植民地の原住民。どうすればいいんだ?」
計算してみた。
あの1クール最後の戦いは13年後だろう。
たったの13年。
「……まずは働くか」
自分にできること。
それは仕事に就くことだ。ここでは子供だからとかは関係ない。働かねば食べていけない。
何においてもまず、金が必要だ。