135.5 マクベス
おれのやり方が情報部は気に入らなかったらしい。
砂漠は熱いし広い。駆け引きも、回りくどい情報工作も無し。その方が早い。
砂漠の民は大抵帝国軍が払い下げた作業用の『シェル』を改造して装備していた。
9回もやれば慣れる。
「だからって正面から、武装解除をしろと言って回るなんて……」
「上手くいった。それも9回も」
それで、10回目。
部族については嫌な情報があった。
「ガーゴイルを崇拝? そんな人……」
「それがいるんだよ。だから正攻法は無しだ。警戒していく。セオリー通りに」
情報部の紙の資料を、ちゃんと読んだ。
『休眠中のガーゴイルが一体』
異論はしなかった。
「待ち伏せだー!!」
四方から部隊へ銃撃。
おびきよせられた。
セオリーなんてクソ喰らえだ。
「アズラマスダ卿の顔を立てて、南部支部に情報収集を一任させたのはマズかったですよね!?」
「それ今言うこと!?」
「じゃあ、ガーゴイルの情報源はどこからか聞いていいですか!?」
「だから、それ、今言うなって!」
「黙って仕事しろ、お嬢さんたち!!!」
テスタロッサさんならこんなミスはしなかった。
あの人優秀だったんだな。
銃撃はギアに乗らせないため。
どちらにせよ、この砂漠でギアを稼働させるには時間がかかる。
動力炉の安定に欠かせない冷却はダイダロス基幹任せ。
「通信で救援を呼べ」
「ダ、ダメだ。対策されてる!!」
「どうするの? 天才君!?」
「ここは、正攻法の正面突破で」
「「「いつもそれじゃん!!」」」
包囲網で釘付けにされている間に、敵のギアが迫っている。
型式は古そうだ。砂漠仕様のピンク塗装された『オーム』。戦闘用ではなく、レース用の計量モデルだ。
どこから流出した?
援護を受けて、一か八か『カスタムグロウ特式』を搬送する
車両にたどり着く。
冷却が使えないなら短期決戦。
魔法動力炉のスムースモーションで戦うしかない。
「うわわ」
銃弾が掠める。
ギアの砲撃が届いた。
車体に命中。
ギアが投げ出されてしまったが、砂をまき散らした。おれはその砂煙に乗じた。
魔力を投下して、機体を動かす。
すでに集中砲火の的だ。
ナックルガードを展開してカメのように防御した。
「くそ……!」
ムーブフィストを射出。
岩を掴んで引きずられるように移動した。
こちらに注意が向いている間に、他の隊員もギアに乗る猶予ができる。
「よし……みんな乗ったな」
だが、活躍の機会は与えない。
標準装備のS14バリスタを構える。
「一機につき一発ずつ」
見晴らしのいい砂漠で遠距離武装を持たないのは無謀だ。それにおれは割と上手いほうだ。
順番は近いやつから。
砂丘の影に出た頭部にヒット。
狙いを変える。
岩場の影に隠れた機体へ。乗り出した瞬間にヒット。
真っ直ぐ走ってくる機体へ。ヒット。
最後だ。
小高い岩山の上にいる機体へ。
避けられた。
「ん?」
《下手くそ》
《逃がすなよ》
《行くぞ!! 三体一だ》
「待った!! 違う……」
岩壁を降りてくる機体の動きは並みの『オーム』じゃない。
「ガードだ!!!」
《ぐっ!》
《なっ!》
《あっ!》
『カスタムグロウ』が三機同時に狙撃された。
銃撃が一回に聞こえるほどの早業、一撃で戦闘不能にする正確無比な射撃だ。
「そこまでです。動けば、命はありませんよ」
一機、足蹴にされている。
アンカーボルトで串刺しできる位置。人質か。
「ここまでセオリー外の最速最短の電撃作戦を貫いてきた。それがここにきて、付き合いの浅い情報部員を信じた。それが君の敗因でしたね」
指向音声……。
4、50代の男。いや、もっと上か?
声から自信、いや、確信が伝わってくる。
「情報は嘘だったんですか?」
「いいえ、ガーゴイル信奉者の危険因子があそこにいるのは本当です。情報に真実を混ぜるのは常識です」
「なるほど」
「だからと言って、この状況を招いたのはあなただ。己の直感と嗅覚で危機を回避する。それがエースに求められる資質。半端に意見を曲げるお利口さんは隊を壊滅させる」
「親切ですね」
「違いますよ。熱稼働限界を待っているだけです。その機体は特別製だ。こちらは旧型なので不利な分、機体差を埋めさせてもらいますよ」
確かに、この状況はマズい。
一か八かサブ動力炉を廻すか?
いや……トップギアに入る頃には熱暴走で動力炉が爆発するか、おれが蒸し焼きになるかどっちかだ。
「待った、熱暴動のリスクはそっちも同じでしょう?」
「機体差が無ければ、機士として地力で勝る私が優位です」
《そいつはどうかな》
下敷きなっている『グロウ』がサブ動力炉を作動させた。
爆発させる気だ。
《帝国軍人なめるなよ》
「ほう?」
「よせ!!」
アンカーボルトが食い込んだ。
同時に、ギアの動力炉が爆発した。
「うぉおお!!!」
命と引き換えにくれたチャンス。
ムーブフィストを放つ。
敵は爆発でよろめいている。
ワイヤーに魔力を込め、角度をアジャスト。
一撃で決める。
乾坤一擲の覚悟を込めた一撃は、予想外の壁に阻まれた。
「なに!?」
その感触に困惑した。
銀色の膜?
腕についた流体がムーブフィストの衝撃を殺した。
新兵器?
この感じ、これが『神器』か?
間髪を入れず、敵の銃口がこちらを向く。
謎の兵装、接近はこちらも避けたい。
体勢を低く、動きながら、不規則な射撃。
そういう撃ち方ができると知ったなら、おれもやってみよう。
接近しながらこちらも銃撃。
最小限の動きで躱される。
ムーブフィストはラスト一発。
銃弾が尽きれば、あの兵装で接近するはず。
そこを至近距離で打つ。
砂塵が舞った。
不意の視界不良。
鋭い槍が突き抜け伸びた。
「『神器』は使えないんじゃ……!!!」
「使い方次第ということですよ」
変幻自在の武器。だが、威力はそこまでじゃない。
肩の装甲だけで済んだ。
これは本来の使い方じゃないのか……
なら恐れるに足らず。構わず突っ込む。
互いに距離を詰めた。
左右に機体を振ってフェイント。
左のナックルガードで殴りつけると、相手は銀の膜を使わず、腕でガードした。
続くムーブフィスト側でフック。
これは銀の膜で受け止められた。
跳ね除けられ、姿勢を崩した。
砂に手を付いて倒れ込む。
背後に襲い掛かるギア。
ここだ!
ムーブフィストを射出。その反動を利用し『ホースキック』を放った。
不意のカウンターで、初めて手ごたえを得た。
「ぐっ……やはりやる。今のは計算ですか?」
「はぁはぁ……いや、思い付き!」
再び距離が生まれた。
今ので決められなかったか。だが、ダメージはある。
それに、慣れてきた。
相手の兵装、銀色の流体が形を変えて動いている。
一度形を固定したら、数秒間変わらない。
銀の膜、槍、他にも形が変わるのか。だが、相手もサブ動力炉が使えないから、メインは防御。攻撃は射撃のみ。
「そろそろ、機体が限界でしょう 感応板の金属が皮膚に接し、焼けるように痛む。次第に肉が焦げるようなにおいがしてくる」
「それはそちらも同じでしょう?」
「いいえ。実は、私は水魔法を使えるんですよ」
機体が放熱している。気化熱というやつだ。
やられた……!!
水魔法で冷却できるなら……ここまでは消耗を誘う罠。
「嘘つきじゃないか!!」
「君が純粋すぎる」
銀の膜が鋭い爪に形を変えた。敵のサブ動力炉の音が鳴る。
「君の敗因は、情報を鵜呑みにする癖だ」
万事休す。
だが、突然敵機が動きを止めた。
遅れておれも気配を感じ取った。
視覚装置が鋼鉄の化物を捉えた。
4本足に、二本腕のガーゴイル。それに尾。
あれは紐付きか?
今まで見たことの無い存在感だ。
古代のガーゴイルってやつか。
戦闘離脱、通信を最優先にするべきだ。
そう、考える頃には、サブ動力炉を廻して走っていた。




