13.天才のグウェン
おれは無事、軍兵学校に入学した。
周囲からの視線が嫌悪感に満ちている。
おれが軍事工学課の首席だという話がどこからか漏れて、結構な問題になったらしい。
試験を見た人はそりゃ納得しないだろう。ウェール人だからなおさらだ。
その鬱憤は意外な形で発散させられていた。
「お前の部屋はここだ。がんばれよ」
「あ、はい。どうも」
上期生に案内された場所は一般寮の部屋。
がんばれよの意味は入ってすぐわかった。
「うわっ、なんだ?」
突き当りの大部屋だから、雑魚寝を想像していたがちがう。
入ってすぐ積み上げられた何かが崩れた。
埃が舞い、薄暗い部屋の中には蠢く何かの気配を感じる。
足の踏み場もない。
状態検知の必要はない。
「人の生活する場所じゃないな」
来て早々やるのが大掃除とは思っていなかった。
おれはすぐ取り掛かった。
窓を開けて、ゴミをまとめてしまおうとした。
ゴミの中に人間がいた。
「ああ……死体?」
どこに埋めようか。
一瞬迷った。
その時、死体が動き出した。
「うへぇ……すいませ~ん。カーテン閉めてくださ~い」
「死体が、しゃべった……!」
「……死体じゃないです!! ていうか誰ですか!!」
立ち上がった彼女はおれを見下ろしている。
ボサボサ髪で隠れているが、この顔には見覚えがあった。
おれは記憶を巡らす。
「グウェン」
「はい……! あの、どこかでお会いしてました?」
ギア×マジックの原作アニメにゲーム。
彼女はどちらにも登場する重要キャラ。
天才エンジニア、グウェン・ツヴァイドライだ。
これは偶然か?
いや、時系列的にも状況的にもあり得ないことはない。
彼女はエンジニア。年齢的にこの軍学校に居て当然。
けど、ここで寝てるってなぜ?
「あ、もしかして相部屋の人ですか?」
「え? 相部屋……」
「はい、すいません」
いくら一般寮だと言ってもさすがに部屋は男女別だろう。
もしや、こう見えてグウェンは男?
「なんですか?」
「女性ですよね?」
「えっと、生物学的には、はい、一応そのつもりで」
「ぼくは男なんですが」
「……!! 出て行けってことですか!! すいません! 勘弁してください!! ここを追い出されたら行くところないんですよ~!!」
泣きつかれた。
おかしい。
彼女は天才エンジニアで作中で重要なキャラだ。
「なぜグウェンがゴミ部屋に……?」
「え? 何処にゴミが……?」
技師にとって整理整頓は基本。この環境は耐えがたい。
部屋は広いが、物に溢れている。
ここで暮らす?
なんて嫌がらせだ。
「片付けますね」
「あ、それは使います。それも、ああ、動かさないで」
どこで寝ろと?
どうやら、ここの主はかなり厄介者のようだ。
天才と変人は紙一重だ。