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130.ストップ&ゴー―――原始化

 


 完成した機体をルージュ殿下が纏う機動テスト。


 皆が見守る中、それは起きた。


 異常。

 警戒。

 危機意識、最高潮。


 突如、目もくらむ青紫の閃光が工房内を駆け巡った。


「ぎゃー眩しー!」

「ひょ? 眼が!!!」

「ま、まさか……」


 とっさに二人を『重力シールド』で囲む。


 シールドが揺らぐ?


「うわっ!」


 この光は熱反応によるものじゃないのか……?

 防げない。


《おい、ど うなってる!? サブ動力 炉 の回転数が――ぐぅ ぅぅぅ》


 通信が影響を受けている。魔力干渉。

 この光が、魔力そのもの?


「殿下!!」

《ぐっ、なん だ、こい つ私の魔 力を勝 手に……》

「殿下、停止を!!」

《私はま だ――》

「くそ!」


 クレードルに飛び乗った。ダイダロス基幹で接続。



「うっ!!!」



 魔力を根こそぎ奪われる感覚……!!!

 接続が弾かれる?

 おれのセキュリティか!!?

 来る、増幅された逆位相信号波が!!!


「誰が造ったと!!?」


 物理的に魔力の接続をシャットアウトし、バックドアへ信号を送信した。

『ネフィリム基幹』は重力魔法の暴走を防ぐためシャットダウンできる。ダイレクトで通信し、ライン接続を解除。

 

「いけるか!?」



 工房を照らした光が止んだ。


 何か現象に破綻が生じ、止まったのだろうか。



「グ、グリム君、今のって……?」

「わからない……」

「機体が光を纏っておった。光魔法と干渉したのか? いや、まさか、魔力そのものの可視化」



 目に見えない力、それが魔力だ。

 だが、確かにあれは魔力そのものが見えた感じだ。


 クレードルを降りた。


「ちょ、グリム君!?」

「止まれい、危険じゃよ!!」


 おれは煙を吹く機体に駆け寄った。

 装甲の一部が変質している。精錬後の金属のように赤く発光し、それが独特の模様を生んでいる。


「殿下!!」


 ハッチが開いた。

 下から様子を窺う。


 放心していたが、ルージュ殿下はすぐおれに気が付いた。



「殿下?」

「問題ない」


 普通に降りた。『状態検知』で確認したが、問題はなさそうだ。



「それより、今の現象に心当たりは?」

「……その」



 セキュリティシステムの拡張で起きた理由はわからない。


 だが、見覚えがある。



「一歩間違えば、機体が再起不能に。それに、殿下の機乗力が落ちるところでした」

「どういうことだ」

「今のは『原始化』です」



 ギア×マジックのゲームでかなり後になって実装された、初期機体救済システム――『原始化』


 レアリティが高く、改修段階を上げた初期機体が世代間格差で活躍できなくなったことを受け、運営側が設定したオリジナル改造選択イベント。


 大枚をはたき、運を使い、ようやく手にしたカンストSSR機体が役に立たないなんて!――という事態への救済策だった。


 機体を世代スペックから解放し『原始』シリーズの特徴である属性魔法に特化した力を与える。



 おれが『原始化』の概要について説明すると、ルージュ殿下、グウェン、ガウス先生、それに『わかる君』を介する各地の技術者たちは沈黙した。


「――ほぼグリム語でわからなかったが、要するに機体が『アルビオン』や『ネメシス』のように変質するということか?」


 ルージュ殿下が変質した装甲部分を指す。


「まぁ……大雑把に言えばそうですが」



 ゲームでは見た目とステータスが変わり、『原始モード』のオーバースペック状態が設定された。リミッタ―解放に近い。

 現象そのものの理屈は設定されていなかったが。

 実物を見て、わかった。


「特殊対装甲加工された武装を受け止めるほどの剛性と砕けない靭性……それが全身に波及、この意味がわかりますか!!!」

「防御力の向上……あと」

「それだけではありません!! 質量を抑えられる!! つまり、大幅なスピードの上昇が見込めます!!! さらに、パーツに起きる摩耗、消耗が著しく減少する……動力炉の回転数を大幅に上げられます!!!! これが『原始モード』の正体でしょう!!!」


 話していて、考えてしまう。

『原始化』が起きるなら、それを見越して機体をいじれば……


 だが、興奮してばかりもいられない。


「ただし成功確率はかなり低いです」


 この改造選択イベントはかなりハイリスクで、失敗すると育てた機士の能力が下がり、機体はパーツに戻されてしまう。


 要するに運ゲーだ。


「なんで、起きたんでしょーね? 勝手に動くってことは記録補助あたりの誤作動? ダイダロス基幹にネフィリム基幹、それに今回の熱制御ユニット……やり過ぎましたかね?」

「『アルビオン』のデータ、それに『ネメシス』の応用、未知の魔力制御システムの構築――複合的な要因による偶発的なものじゃろう」



 2人の言うとおりだ。

 偶発。たまたま。発生原因が不明。

 機体をこれからいじれば起きないかもしれないし、一度止めたから、いずれにせよ起きないかもしれない。

 または、ルージュ殿下が乗る限り起きる可能性もある。

 だからこそ、手に負えない。


「はい、偶然です。ですが、理屈がわからない以上、手を出すのは危険な領域です」


 ここは、不確定要素の多い『原始化』は避けるのがベスト。

 最大の要因であるセキュリティシステムの撤去を念頭に置くのが、技術者として現実的かつ合理的であり、道理だ。

 なにより、ルージュ殿下で実験するなどあり得ない。

 この方がいなくなったら、このレベルの機士が現れるまで一体何年かかることか……


 だめだ。

 絶対だめだ。


「グリム、顔に出ているぞ」

「え?」

「理性では、これが危険な賭けだと理解しているが、お前の本能は、歓喜している」



 そんなにわかりやすいだろうか?


 おれは冷静だ。ギアを前に興奮するのは良くない癖だ。最大のパフォーマンスを発揮するために常に落ち着いて作業するよう心がけている。


 だが、今回湧き上がる感情がどうしても止められない。


 まだあった。

 ギアには、おれの知らない未知の領域がある。


 だからギアは面白い。



「グリム、さきほど確率は低いと言ったな」

「いえ、まぁ……はい」

「ふむ……不可能ではないと」



 ルージュ殿下は目線を上へ下へ巡らし、やがておれを見下ろした。



「体力が奪われていく感覚、これは耐える以外になさそうだ。それから集中力を削がれる感覚、肥大化した情報量に脳が追い付いていかない様子だった。これも慣れればいけそうだ」



 前向きな情報の共有。

 殿下は、判断材料をおれに与えてくれている。


 これは、ストップではなくゴーという意味か。



「魔力が抜けるのは、油断しなければ主導権を握れる自信がある。それで? 私に何が足りない?」

「殿下は最強で完璧でいらっしゃいます」

「最初の駆動テスト、好奇心と期待感が私の『覚悟』を鈍らせた。そう思う。他には?」



 おれはむしろ、機体の方に問題があると考える。

 そして、実証、試験、調整、それらの順序が『原始化』を念頭にするなら間違っている。


 改善点はある。


 成功する予感も。


 だが――



「グリム、私とお前たちは車輪の両軸だ。私は公務で、お前は私に遠慮をして機体製造の大半で揃わなかった。だが、今私は目の前にいるぞ」



 ごく普通のありふれた、機士と技師のやり取り。


 ストップでもゴーでもない。

 トライアンドエラー。


 初心、忘れるべからず。


 エラーアンドトライ。


 青紫の発光現象は、機体にも変化を及ぼしている。塗装が一部剥がれて、毛細血管のように……これを検証すれば……



「殿下、これは絶対に踏み込んではいけない運が作用する領域です!! ただ、いつものように命じていただければ、逆らうわけには参りません!!」

「うん」

「全責任を取っていただくことになります!! いいんですね!! ぼくには成功する予感があるだけですから!!! 絶対ではないですから!!!! でも殿下が決めることに、ぼくは逆らえませんから!!! ぜひ、慎重な、いや大胆なご決断を!!!」

「理性と本能がせめぎ合っているな」


 ルージュ殿下は、いつもと同じ。



「やれ、グリム。全責任は私が取る。むしろ、やらなければ専属から外す」

「えー、そんなそんな……ひどぉい」

「グリム君が言わせたんじゃん」

「殿下……リスクが大きいんだよね。ここは冷静にね」



 実際、『原始化』などなくても、この機体は十分原始系と渡り合えるだけのポテンシャルを秘めている。


 だが、おれはエンジニアだ。

 機士が望むのなら、その期待に120%応えるのが仕事だ。


 リスクがあるなら、それを限りなく0にする。

 してみせる。



「構わん。もしそうなれば、私はそこまでの器だったということだ。上に立つ者ならば、天運を引き寄せることも必要だ。そして、この状況はまさにそれだ」

「ぼくらにならできます。いや、逆に古代にルージュ殿下ほどの機士がいて、ぼくぐらいの技術者がいたんですね」

「誰かにできるなら、私たちにできない道理はない」



 おれは今日までルージュ殿下を試してきた。

 殿下も、おれを試してきた。


「殿下、ご希望があれば受け付けます」

「信じているぞ、我が専属一等技師」


 互いの性根、腹の内、もう隠し事は無い。



「そうなのね、わかりました、止めません。皇帝陛下には言うけどね」



 ガウス先生が行ってしまった。

 脚が速いんだよな、あの老人。



「さて、どう進める? この機体―――ああ、そろそろ名を与えても良いのではないか?」

「そうですね」


 おれの脳内ではすでに、『原始化』に向けた検証と駆動実験、適合率の上昇、機体の最終調整から、『原始化』後までの道筋が見えていた。


 機体がイメージされた。

 宙を舞うギア。

『熱』と『重力』を統べる超常マシン。

 凝縮されるエネルギーと発散されるエネルギーの均衡、その過程で生まれる強烈な青紫の光―――まさに一等星。



「青紫の星。天狼シリウス」

「『シリウス』か。いいじゃないか」




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― 新着の感想 ―
何故起きたのかはわからないけど、なんか色々機能を搭載した結果原始化して機体が強制的に騎乗者の魔力を吸収、その魔力を使って機体の装甲を変質させて超強化したって感じなのかな?その際に高密度の魔力によって起…
ちなみにシリウスの本来の意味は「焼き焦がすもの」 あ、ピッタリだわw
技師とパイロットの隠し事のない信頼関係か…フェルディナンドには一生できなさそう…だけど原作ではできてたんだよな 確率はめっちゃ低いけど不可能ではない感じかね?
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