129.ストップ&ゴー――セキュリティシステム
おれとグウェンでは作業に対するスタンスが異なる。
グウェンは作業に入る前に、洗いざらい工程を逆算して自分にしか読めないメモを山のように書く。
散らかすだけ散らかす。
そして作業自体は大雑把だ。
研究畑の人間だから製造技術は人並み。ここは性格がでる。
そのくせインスピレーション次第でアドリブを利かせるから事前の構築から逸れていく。
だからそれを汲んで動ける優秀な技術者が必要だ。
『わかる君』での遠隔整備に参加するのはドークス。
カナン主任他聖域の研究者、アイゼン侯、マークス、カール王ら友情出演。あとは『アルビオン』の整備を担当した皇帝直轄の技術者たち。猫の手でネフィー、極秘裏のため最低人数だ。
《一々勝手に変えんな!! 何のための事前会議だ!!!》
「だってぇ~」
問題はグウェンに合わせて動ける人間が、面識のあるドークスだけなのだが、純粋に技術屋である彼とは相性が悪いという点だ。
なので結局こうなる――
「グリム君……あの、ここのライン形成どうしましょ~」
グウェンは、あの言い争いを無かったことにしたいらしい。
「あと、疑似記録晶石造るので、グリム君に生成して欲しいなぁ……」
「あれれー結局ぼくに頼るんだねー? あれだけ自信満々だったのにねー?」
「うぅ、グリム君のいじわるー!!! バカ―!!」
グウェンが半泣きで離れる。
対するおれはスタンダードなスタンス。
脳内で構築した図面を一気に反映する。そのために周囲に指示出しを並行して行う。
テスト、微調整を製造したパーツに施す。
出来不出来は組んで発覚する場合もあるから、最高の組み合わせを見つける感覚に――
「あれ?」
信号を体感でキャッチし、思考で受信をシャットアウトする思考制御には、鋼鉄のボディに神経を張り巡らす手術が必要だ。
シグナルをキャッチする感覚機と無数のライン形成。
本体の装甲と関節可動域の計算をしているところに配線が加わる。問題は重量だ。バランスが崩れるのを避けたい。だから感覚機の追加数と位置は最低限にしたい。配線でぐちゃぐちゃになるのは避けたい。
三次元的な信号有効範囲の計算、公式の応用……
おれは黒板に数式を書き込む。
インナーフレームの感覚機、感応板の拡大解釈、全方位からの信号の方向、強度、波形を伝達するにはウルティマの応用……
いや、全身感応板で覆ったウルティマは超重量と化した。
あれの発展型のシステムを構築するには、最大効率で必要最低限を……
黒板が足りなくなった。
書いては消しを繰り返す。
「グウェン~、さっきはごめんね。ちょっと神経質になっていただけだよ。さぁ、ライン形成見せてごらん? あとね、楽しい数式があるよ。息抜きにやってみて欲しいなー」
「はぁん、今更問題に気が付きましたか~!? 常に動くギアをアンテナに見立てて正確な情報を得るなんて、土台無理なんですけど~!!」
「無理? 誰に言ってるの? あるわけないでしょ、そんなもの!!!」
いいや、それとなくウィシュラに聞こう。
《お前ら……マジか》
おれたちはそれぞれが作業した。
「あのさ、競うの止めなさいね。それね、皇女殿下の機体なわけよね」
様子を見に来たガウス先生に怒られた。ドークスがチクったらしい。
おかげで正座だ。
「君らの実力を発揮するための道具じゃないの。意地とかプライドが邪魔なら捨てようね、そんなもの。責任ある立場になった自覚をもって働こうね。大人になるってそういうことだからね」
「「すいませんでした」」
「何が? 適当に謝られても困るけどね」
普段穏やかな人が怒ると怖い。
「君たちが遠慮知らずに使っているその記録晶石やらラインやらがどれだけするか知ってる? その資金どこから拠出されているかわかる?」
「「すいませんでした」」
「とりあえず謝っとけば許されるとか思ってる?」
エンドレス。
説教が終わったころ、脚の感覚がなかった。
「怒られちゃいましたね」
「そうだね」
いつもならこういう時グウェンのせいにする。
おれはグウェンの苦戦していた配線処理を買って出た。
「グリム君……」
「計算の方は頼んだよ」
「わっかりましたー!」
作業は2人でどんどん進んだ。
「……あれ君たち、そもそも何作ってるのかな?」
説明してガウス先生にも協力してもらうことに。
「ひょ……!!! まさか……!!!」
「はい」
おれの思考制御ユニットの原型は『アルビオン』だ。
ギルバートの義体製造時に提供されたデータから発想している。
「ガウス先生の解析データのおかげです。原始系をよくぞあそこまで詳らかにされたものです」
「……思考制御はギルバート殿下の義体のために明かしたのに、ギアに応用するの?」
「はい」
「それはルージュ殿下も承知なの? 思考制御は機体側が人間に干渉する恐れがあるよね。魔力感知のフィードバックと同時に起きれば、耐えられないでしょ?」
「そうですね」
「……君ぃ、リスクを承知の上でやっているね?」
原始系が機士を選び、命を吸い取ると言われるのは、機体側からの干渉が強いからだ。
確かにリスクはある。
「ですが、ルージュ殿下が乗る限り、問題はありません」
「盲目的な信頼は、無責任と同じなのよね」
「いえ、これは論理です」
「自信があるんだね」
「ええ、原始系からの拒絶が起きる原因は、生体認証に引っかかるから」
「ふん……仮定として聞いてみようね」
「機乗の最低条件は、おそらく血筋と身体スペックが『最初の一人』に近い場合」
「なるほど『最初の一人』か」
「はい。ギアは機士がいて初めて機能する。機士がいなければ動かない。原始系もその例外ではない。ならば最初の一人に合わせて設計したはず」
「もっともらしい」
「最初の一人、つまり、ルージュ殿下の生体データに合わせて調整すれば『アルビオン』や『ネメシス』のような制限やリスクはかからない」
「筋は通っている。けど推測だね」
「ですが、成功例がある」
それこそ原始系の存在がある。
「確かに……」
「それに、原始系を造るわけじゃないです。ルージュ殿下に検証と調整に協力していただければハードルは高くない。決めるのは殿下。疑うのなら、殿下にお話ししていただいて構いません」
「ふむ……ん? なぜわしが? 説明して来ていただくよう頼むの、わしいやよ?」
「えー、でもガウス先生が『アルビオン』のデータをもってきたから」
「か、関係ないよ!!」
「わかりました。でも懸念があるのならぼくの説明に不備が無いか、立ち合いをしてください」
「うん? それならいいよ」
しめしめ。ガウス先生の誑し込みに成功した。
「いいぞ、任せる。全責任は私が取る。ただし、ガウス先生にも監修をしていただくのだぞ」
ルージュ殿下には2日間時間をもらった。
ガウス先生が立ち会ったことで、先生もいるならということで快諾していただいた。
「というか、そのために引っ張ってきたな」
「ひょ?」
「先生……こいつはこういう奴だ」
「ひょー、利用されたのわし!!?」
「まぁまぁ、殿下たってのお願いですから」
「わしにそういう感じで来れるのすごいね、君。説教された相手を……」
ガウス先生を戦力に加え、急ピッチで新セキュリティを組み上げていった。
実験と検証を繰り返し、ルージュ殿下に魔力の認識パターンを試してもらい、干渉する魔力のシャットアウト、サポートの魔力の感受に成功。
高精度の熱処理を実践してもらって記録した。逆位相の信号波も問題なく機能した。
そして、そのセキュリティシステムを新型へと実装した。
「これで、機体を奪われることも制御に干渉される心配もありません」
だが、おれは自分の認識が甘かったことを痛感した。
最初の起動実験で、事件が起きた。
いや、後にそれは奇跡と言われた。
地下工房に青紫の星が生まれ、おれはそこにギアの深奥を見た。
端的に言うとギアが発光した。
今週28日にまた更新します。
2巻1月30日(金)発売です。よろしくお願いします。
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