125. ストップ&ゴー――天才たちの饗宴
活動報告でもお伝えさせていただきましたが一部加筆修正話を差し込みました。ぜひご確認ください。
107.整備革命――なんでも『わかる君』から数話分、新規書下ろしとなります。諸々補足的なエピソードとバランスを取るためのゆるゆる回など、いろいろ書きました。
※話数が所々ズレておりますが、おいおい修正します。
メアリー先生と買い物したり、お菓子を作って配ったりしている内に数日が経っていた。
「あーグリム君だけお休みズルい!!!」
グウェンがやってきた。
「なんで来たし」
「なんで追い払うんですか!!」
皇宮に大荷物でやって来て門前払いされているところを呼び出されて行ってみると、大荷物で泣いている女がいた。
おれの未来のお嫁さんとか言っていたので不審者扱いされていた。
おれが知らないというと大泣きしたので仕方なく保護した。
「まぁ、一人で列車に乗って来られて偉いですわ」
「あの、私これでも大人ですよ~!」
一人でというのは正しくない。
グウェンには護衛が付いている。表向きは世話係と顧問官だが、ウェールランドの軍警察たちだ。
彼女は暗号解読の手がかりを握る重要人物。
一番安全なのはウェールランド基地内だからあの警備網、顔見知りが多くクローズドな空間から出てほしくなかったのに。
護衛から連絡があって引き留めるように言ったが聞きやしない。
「それで? 仕事をサボって帝都にまで押しかけて来た理由を言い給え」
「グリム君にずっと会ってなくて寂しくなっちゃって」
……わかる君でやりとりしてるじゃん。
「グリム君、思ってたより元気そう。もっと思い詰めてるんじゃないかと心配してました」
「じゃあ、これで会えたね。帰ろうね」
「いやー!! ひどいー!! 私も遊びたいですー!! 久しぶりの帝都ー!!」
遊びに来てるじゃないか。
「しょうがないな」
その前に、皇宮に来たのだから方々にあいさつだ。
◇第二皇女ルージュ居殿
「だ、だれだ?」
「ひどい!」
ルージュ殿下は彼女が誰か見ても分からなかった。
「グウェンですよ、殿下」
「うへへ、私です殿下~」
殿下は腰の剣を抜いた。
「私の記憶と違うぞ。もっとボサボサとしていた」
「えー!!?」
「いえ、殿下。時々パーティとかで見たことありますでしょ。まともな方のグウェンで――」
いや待てよ?
おれも護衛が何も言わないから本人で間違いないと思っていたが、偽物の可能性もあるな。
フェルナンドが、この長旅の中何もしてこなかったとは思えない。
「グウェン、疑うわけじゃないけど……応答信号から魔法発動までの遅延をゼロに近づける因果律のごまかしをどう説明する?」
「あえぇ? 絶対疑っている!!」
「いやいいからいいから」
「信号のプリアブルを先読みして記録補助の増幅パターン選択から投機的実行し遅延をオフセットしてます、よね?」
全く淀みなく明瞭な答えだ。
「なるほど、本物です」
「ふーん。じゃあ、すまん」
「『じゃあ』って!?」
ルージュ殿下は剣を納めた。
「ははは、冗談だ。見違えたぞグウェン」
半分冗談じゃなかった気がする。
「ま、がんばっているのは本人じゃなく世話係の方でしょうけど」
そのために護衛につけたんじゃないけど。
「だが、グリム妙だぞ」
「そうですね。護衛チームがいたとはいえ、誘拐のそぶりもないなんて」
「いや、なるほどな。これがグウェンと気づかれなかったのかもれん」
「なるほど。確かにこれは変装だ」
「さっきから、他に言うこと無いんですか? かわいいときれいとか……」
真面目な話、フェルナンドはグウェンを狙っていない可能性が高くなった。
メアリー先生やグウェン、レイナさんなど狙われる可能性のある人はたくさんいる。
だがおれに近しい人で、フェルナンドが狙ったのはスカーレット姫とマリアさんのみだ。
フェルナンド自身が良く知らない人物は狙わない。
奴らしい、なぞの美学というやつか。
「まぁ、それならば陛下にも謁見できるだろう」
「そうですね。これじゃないときはだめですからね」
「え?」
良い機会なので皇帝陛下にもご挨拶をということに。
◇玉座の間
皇帝を前に、挨拶をしたグウェン。それとメアリー先生。
おれとルージュ殿下は臣下の位置に並ぶ。
宰相ヘラー伯爵が告げる。
「グウェン・ツヴァイドライ、並びにメアリー・クライトン。皇帝陛下より恩賜である」
「遅くなったが、その方らの功績を評価せぬわけにはいかぬ」
その言葉から始まったのは、2人の功績についてだ。
「グウェン・ツヴァイドライ。そなたの構築した暗号通信は軍略を大きく変えた。そしてグリム・フィリオンを補佐できる数少ない稀有な頭脳の持ち主である。よって、皇室預かり軍事顧問官に任命、準男爵の地位を授ける」
「は、ははー!!」
準男爵、名誉貴族でほぼ平民だ。
しかし、これは……
グウェンは皇帝陛下に認められた技術者だという明確なラベリングだ。
これで彼女が突拍子の無い事を言っても、無下にはできない。
「メアリー・クライトン。よくぞグリム・フィリオンを国士に育てあげた。その分け隔ての無い慈愛と献身は帝国の模範となるべき貴族の在り方である。よって、クライトン男爵領の納税を30年免除とする。これからも無垢なる可能性を潰えさせぬよう、その働きに期待する」
「身に余るお言葉でございます陛下。ご期待に沿えますよう誠心誠意努めます」
皇帝はおれの方を一瞥した。
「これは新型を完成させたお前への褒美というわけだ」
ルージュ殿下がひっそりと口を開く。
「ぼくに、ではなくですか?」
「お前が金や権力を欲していないことは陛下もわかっておられる」
確かに、間接的にではあるがおれの働きで恩義に報いることになるなら、うれしい。
これも親孝行というわけだ。
挨拶と褒賞の授与が終わった。
◇皇宮――庭園テラス
翌日、朝食を食べ終えたところ、メアリー先生から改まって話があると言われた。
「ウェールランド基地にある手習い所が再建されたの。オズ君覚えているでしょう?」
「ええ、私塾のころから先生が面倒を見ていた……」
おれが現れる前からメアリー先生は私塾でウェールランド人の身寄りのない子らの世話を焼いていた。
手習い所が基地内にできてからは人数も増えた。
自爆テロのとき半壊したが、再建されて、オズ君もそっちにいる。
「ああ、あの子ですねー。ちょっとグリム君に似てる」
「そう。オズ君を養子に迎えようと思います」
「ええ、いいんじゃないでしょうか」
皇帝の期待。それが後押しとなったのだろう。
ウェールランド人を養子にしても、他の貴族らからバッシングを受けることはない。
「ああ、じゃあオズ君はぼくの弟になるわけですか」
「……」
先生は目を伏せた。
「え?」
「グリム君、ちがうっぽいです」
「ななな、なんで!!?」
養子になるなら、まずおれでは!?
「陛下に背中を押されましたわ。爵位を上げるのではなく、租税の免除。クライトン家の力ではグリム君、あなたの能力を支えきれません」
「そんなことは……」
「グリム君、私はあなたに与えられてばかりでした。希望をいただきました。だから、他の子にもチャンスを与えられるようにしたいのです」
「それが、オズ君なのですね」
「ええ。彼は間違いなく帝国で立身出世できる才能があります。けれど、そこに至るまでの道筋はきっとグリム君より難しいでしょう」
「そうでしょうか……前例があるのだから」
彼なら放っておいても能力一つで成り上がれると思える。役人も夢じゃない。
「あなたと違い、他人と接するのが苦手なのですよ」
おれとグウェンは首を傾げた。
オズ君の印象は知的で、結構人懐っこい。
数字の問題を出すと嬉しそうに解いて、こっちに問題を出してきていた。
「あなたやグウェンさん以外とは話が通じませんわ。私も時間を掛けてようやく慣れてもらえたくらいです」
「そうでしたか……」
メアリー先生が前に悲しそうな顔をしていたのは、これを言おうとしていたのか。
ここに来たのも……はじめから。皇帝陛下はその意図を察して……
「先生、ぼくは先生に多くを学び育てていただきました。どういう形であろうと、ぼくは先生を本当の家族以上に思っています」
「私もですよ。それはこれからも変わりませんわ」
貴族にはしがらみもある。
おれの事情に先生を巻き込むわけにはいかない。
これでいい。
「ぼくも協力します。いつでも相談してください」
「ありがとう。きっとあの子も喜ぶわ」
先生のおかげで、おれはある可能性に気付いた。
「ま、大丈夫ですよ。どこかの養子にならなくても私となら結婚できますからね」
「ありがとうグウェン。今まで本当にありがとう」
「どういたしまし、て? え、用済み!?」
「冗談だよ。でもたった今、グウェンの代わりになる人を見つけてしまったよ。どうする?」
「いやいや、私もまだまだ本気を出してないだけです」
「それはよかった」
どうやらグウェンも先生と話していて気づいたようだな。
フェルナンドが無敵の暗号通信システムを打ち崩せる可能性を。
◇地下工房
メアリー先生がウェールランドに帰った後、グウェンに新型を直接見せた。
「この機体は20年先の技術の集合体です。勝つ方法があるとすれば一つ」
「そうだ。この機体の奪取……いや、機体廻しに介入し、機動を邪魔されるだけでも厄介だ」
「でも、現行の暗号通信を打ち崩すには私の造った数式を短時間で解かなければならない」
そう。
ダイダロス基幹は応答信号を発し、それに応じて暗号化された信号を解読変換し魔力として受信、魔法として発現を可能とする。
この暗号は信号内容や応答信号、位置の座標の補正値によって変化する。
暗号は生み出すより解く方が難しい。
つまり、グウェンよりはるかに天才の数学的権威か、秀才たちを何十人も集めたチームで解析しない限り、システムに介入する術はない。
「おおよそ可能性がありそうな大学教授や管理局の計測室の人間はマークしてあった」
「だから、安心してましたけど……盲点でしたね」
上を見ていて下を見ていなかった。
そう、下の世代を。
「オズ君みたいな子は順当に役人になっていると思っていたけど、違うみたいだ」
「はい。メアリー先生のように気に掛ける人がいなければ、属州にはそれなりに……」
天才的な頭脳を持つ子供たちを集めれば――信号を解析して、ギアの駆動に干渉できる可能性がある。
「考えすぎかな?」
グウェンはよく見慣れた方の、陰気な笑みを浮かべる。
「いやですよ~グリム君。私たちに考えることを止めるなんて、無理に決まってるでしょ~」
「だよね~」
もう十分休んだ。
それに、タネが分かれば対抗策を打つぐらい、2,3日あれば事足りる。
それに、どうやらグウェンにもアイデアがあるようだし。
「そうと決まれば、やることは一つだ」
「ですね~」
おれたちは頷き合った。
「対抗策は明白――」
「はい~。せーの……」
同時に答え合わせだ。
「思考による信号感覚制御で防御だ!」
「逆位相信号生成で干渉先を攻撃です~!」
「「え?」」
全然違った。
「いや、逆位相で信号生成って送信は機体がするんだからすごい熱負荷がかかるじゃないか……」
「むぅ、グリム君こそ、思考で制御だと機士の負担が増えますよ~!」
「『メガ分析君』とのリンクで脳のスキル演算領域の拡大は応用可能だよ」
「それを言うなら、機体の熱だってルージュ殿下なら処理できますよ~だ。それに、感覚での制御にするなら装甲にシグナル探知の感覚器を増設ですよ。大変ですよ~!」
「いや、熱処理を変換器や増幅装置までやるならそれこそ基幹システムとの思考領域へのリンクをしなければ制御できないだろ。これは『メガ分析君』とギルバートの義体で実証済みなんだから!」
「熱処理技術だって殿下自身のパターン認識のアルゴリズムを記録補助に組み込めばできますってば! 魔法制御の記録と自動化は『アリアドネ』の『フラッシュミラーリングアシスト』でやったじゃないですか!」
「はっ、グウェンのアイデアは短慮だよ。機体の摩耗消耗が激しくて、ランニングコストを考えていないんだろうなー!」
「それを言うなら、グリム君のは大仰なんですよ。現実的な費用対効果も計算に入れてください、そろそろ!!」
「ぎぃー! 余計なんだって! 守りを固めればいいの!! 思考制御を併用すれば全体の操作性バランスも良くなるんだから!!」
「ふぃー!! 攻撃こそ最大の防御なんです!! 大体ギア廻しの感性もないグリム君にバランス云々言われても説得力ないですぅ!」
「なにをー!」
「なんですかー!」
はぁ、はぁ……
よし、ちょっと落ち着こう。
おれたちは大人だ。
「……え、ぼくが製造管理権を持っているんですけど?」
「さっき準男爵になりましたよ。皇帝陛下はこういうの見越してたんじゃないかな~?」
「権威主義とは! 堕ちたなグウェン!!」
「特権を振りかざすグリム君に言われたくありませんよ!」
「ああもういい!!」
「こっちこそ!!」
対立したおれたちがやることは決まっている。
どちらの案が有用なのか。
「じゃ、両方やって」
「確かめましょ~!」
おれたちは競うように作業に入った。
2巻書影が解禁となりました。発売は1月30日、もうすぐです。
詳しくは活動報告をご覧ください。よろしくお願いいたします。




