121.『黒機士』――スカーフェイス2号
北部軍の穴を埋める、謎の『黒騎士』。
その活躍は目覚ましく、敵の計略を逆手に取って出し抜き、時に援軍として戦いの流れを変える。
破壊工作を未然に防ぎ、逃亡した凶悪犯を軍警へ引き渡すなど、各地で活躍。
その正体はギルバート皇子他、限られた者しか知らず、親衛隊の部隊長にも秘密にされている。
噂では、古から皇族に仕える陰の血族であり、帝国を裏で支配する暗黒面の皇に仕えていた。だが彼は幼き日にギルバートに助けられたことから、ダークサイドに堕ちる寸前で皇と対決し、その力を表の世界、自分を救ってくれたギルバートのために使うことを決意したのであった――
「という感じで、噂を広めましょう」
《――長い!! いるのか、その設定は!?》
「要ります」
《陰の血族? 知らん! 暗黒面の皇? 誰だ!!》
ギルバートと細かい設定の打ち合わせ。
『わかる君EX』で常にボディのメンテナンスも必要だ。
それに、量産型『ハイ・グロウ2式』も腕の『ハイパー・ブラスター』による自損が大きい。
そう、実はスカーフェイス2号の正体は帝都でリハビリ中のはずであるギルバートだったのである。
「機士としての復帰が絶望的だった皇子が、実は人々を護る仮面の騎士だった――これは譲れません」
《うん。お前が、私に何か譲ったことがあったかな? 一度もないんじゃないか?》
「いや、これは理に適っているぞ、ギル兄」
ルージュ殿下だ。スカーフェイス2号の正体を知る数少ない人物の一人。
スカーフェイスの仮面を被るのを躊躇していた彼の背中を押してくれた。
「おそらくフェルナンドの策謀に対し、イレギュラーとして効果的に機能している」
「そう、その通り!!」
「単純な戦力、作戦指揮では簡単に読まれる。だがこれなら遊撃要員として攪乱できる」
「そう、そういうこと!!」
《だが、混乱するのは我が軍も同じだ》
確かに。
『何者であるか! 我が戦場をかき乱すとは!!』
アラルサリド卿も手柄を取られたと怒っていた。
『ギルバート殿下の覚えめでたきは我なるぞ!!』
なんだかおめでたくはあったけど。
目の敵にしてるの、あなたの慕うギルバート殿下ですけど。
正体不明で連携するのは難しいか。
いや、いまはまだネームバリューが低いだけだ。
「混乱は最小限だ。元々指揮官不足で北部方面軍のまとまりは希薄。半端にまとまるより、自由に本領を発揮させ、ギル兄がフォローに回る方が効率が良い」
「そう、そうです。それがいい!!」
そうだったのか。
スカーフェイス2号にそんな利点が……
《……わかった。だが、グリムの台本に従う必要はないだろ》
「……」
どうしたんですか、ルージュ殿下。先ほどまでの饒舌ぶりが止まっていますが?
皇宮地下のモニター室のそばには工房がある。
今急ピッチでギアの製造作業が行われている。
その工作機械の稼働音が鳴り響く。
今はその音しか聞こえない。
聞き逃したか?
「殿下、ぼくの台本通りに進める理由、ありますよね? その方が何かいいんですよね? 何かありますよね?」
ない?
なくてもひねり出せるはず、あなたなら!
「ギル兄よ」
《なんだ妹よ》
「グリムのご機嫌をとっておけ。損はない」
《……ちっ……ちっ……》
画面越しにすごいにらまれた。
「なんやかんやと役に立っているだろう、その秘密兵器とやらも」
《ああ、だが連絡員を捕まえ損ねた。爆弾で消し飛ばされたからな》
先の戦闘でスカーフェイス2号は腕の『ブラスター』で敵を倒し、『ジャンプ機構』で連絡員を捕らえる寸前まで追い詰めた。
事前に人工眼とリンクした『メガ分析君』による、『空間把握』で位置を特定していたのである。
「追う必要はない。ギル兄が公然と活躍して何かあれば一大事だ。それに、フェルナンドは私を狙う。狙わせなければ奴の標的がブレる」
《そうか……》
ギルバートも妹の覚悟を損ねる真似はしない。
《だが、やはりこのマントは要らないだろ》
「なんですと!!」
仮面とマントはセットだ。
マクベス君が動きづらいと言って頑なに拒否したもんだから、今回は自動で収納展開できる機構をプロテクトスーツの首元に仕込んだ。
すごい手間がかかったんだぞ。
「いや、味気ないスーツに雅な装いが加えられて、売れると思うぞ」
《知らん》
「女性機士からも身体を隠せると評判だ。私も欲しい」
さすが殿下。
すぐ造ろう。
「……あの、仮面も造りますか?」
ルージュ殿下はにこりと笑った。
「仮面は遠慮する」
いっそ5人組とかにしようかな。
《おい、先におれの機体を直せよ。次の出撃が迫っている》
「仰せのままに!」
《返事だけはいいな》
◇
「よっこいせ」
『ハイ・グロウ二式』のメンテナンスなどが終わった。
クレードルから立ち、振り返る。
秘密の地下工房で蠢くモノたち。
「これが未来の製造現場か」
「ちょっと怖いですね」
「お前が造ったんだろ」
円柱型の機械があちこちで鋼鉄を加工している。
『ハイ・グロウ二式』もここで製造された。
他にも、『超重力爆撃砲』や『メガ分析君』など表に出せない製造物が並ぶ。
その中で中央を陣取るのは、塗装前、むき出しの基礎フレームでこちらを見下ろす新型二機。
ルージュ殿下とマクベスの専用機だ。
地下坑道から回収された新型は大幅に損傷していた。
精密機器を洗浄して、洗浄して、洗浄してから作業を――と思っていたが、いっそのことさらに改修を施してしまおうと考えた。
『ひょー、図面もないしいじったら戻せないでしょ、君以外』
ガウスはそのまま保管していてくれた。
おかげで踏ん切りがついた。
これらは『メサイア』前の機体だ。
ならこれまでより、ギアを進化させられる。
それだけの技術を手にした。
「思っていたより早く完成しそうだな」
「はい。みんな手伝ってくれてますから」
忙しなく『わかる君EX』が動き回っている。
各地のエンジニアたちの力を総結集させている。
「これを見るとやる気が出てくる」
「それは何よりです」




