表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

160/166

114.英雄の光と影

 


 帝都の通りを歩いていると、道行く人たちがお辞儀してこちらに礼を示す。

 中には歓声とともに駆け寄り、花束を差し出す人も。


「帝都を護ってくださってありがとうございます!」


 若い女性は皆、メロメロだ。


 マクベスに。



「はっ……いい気なものですな、英雄さんは」

「いや、なんか困るよ。注目されちゃって」

「やっぱり顔ですか。世の中、単純だな」

「ひねくれないでくれよグリム君。ほら、君にもファンがいるじゃないか」



 おれの方に興奮した様子で駆け寄ってくるのはいかにも玄人とわかる技術屋か、役人の類だ。

 おっさんばかり。


「グリム氏、観たぞ! 立派な働きだ!!」

「あ、ども」



 なぜこうも違う。

 リザさんに言いつけてやろう。



 ――皇宮前広場でのテロから一週間が経った。

 目まぐるしく忙しい日々がようやくひと段落付き、帝都の様子も落ち着きを取り戻しつつある。

 そうは言っても、異人であるおれたち二人がこうしてテロの後に出歩いて安全なのには理由がある。



 メディア戦略だ。



 二人でカフェに入る。

 テスタロッサと待ち合わせ。緊急事態で呼び出した。


 そのカフェの二階席からも戦略的メディア映像が見える。


 公共の壁に設置された巨大バイザーモニターによる放映。

 以前スカーレット姫のCMなどで利用した設備だ。



 高解像度で映し出された記録晶石の録画映像。

 そこには大手新聞社からインタビューを受けるマクベスの姿があった。


 映像が始まるとその下で女性たちが歓声を上げる。

 ちっ……!



「全く、すさまじい効果ね」



 テスタロッサが現れ、席に着いた。今回は一般人の変装はせず、軍高官の制服を着たまま。

 さすがの彼女も肌に疲れが出ている。

 一連の事後処理でてんやわんやなのだろう。

 呼び出して申し訳ない。



「こう、専門的なことは分からないけれど、マクベスは黙っていてもずっと見ていられるのよね。顔が良くて」

「やっぱり、男に大事なのは顔ですか。そうですか」

「何をふてくされているの? まぁ、これは仕方が無いでしょう」


 おれとマクベスの顔を比べ、はっきり言うテスタロッサ。


 映像のインタビュアーも心なしか、見惚れているように見える。


「そんなこと言って、これは君のアイデアじゃないか。おれだって嫌だったんだよ?」


 だって仕方が無かった。


 皇宮の襲撃をしたテロリストの主要メンバーはスタキア人だった。

 この事実は隠しようがなく、ガイナ人と非ガイナ人の分断と対立を深めてしまう。


 それを少しでも緩和するには、この戦いで活躍したスタキア人のヒーローが必要だった。



 映像は続く。



《――では第二皇女ルージュ殿下の密命を受けて、ヴェルフルト要塞に参戦し、第三皇女スカーレット殿下と共に戦ったのですね?》

《はい……》

《ここで、当時の様子をなんとこのお方に語っていただきました》


 映像に現れたのはスカーレット姫。

 すると野郎どもの動きがピタリと止まる。

 何見てる。働け。


《そうね、マクベスとは兵学校からの付き合いよ。レースで勝負したりね。一言で言えば天才よ。要塞でも彼がいなければ要塞ごと焼失していたかもしれないわ》


『ネメシス』による高熱源体攻撃を防いだ『ウルティマ』の操作。

 あれは荷重移動の最適解を感覚で把握しているマクベスにしか扱えない。


《実はマクベスさん、テロリストに立ち向かったのはこれが初めてではなく、違法ガーゴイル解体業者の摘発で活躍されたとか》

《いや、あれは流れで……》

《当時を知る軍関係者に聞きました》


 情報部の実行部隊所属機士が映った。


《何度か仕事したが、頼りにしていた。背中を安心して預けられたからな。実際、ピンチを救われたこともある。あいつがいなかったらおれも今こうしてここにいなかったかもしれない》


 テスタロッサの仕事を請け負っていた時の話だ。


《まだあるんです。カルカド要塞でもご活躍だったとか。現地では有名だと聞きました》

《いえ、そんなことは……》

《特殊なガーゴイル個体との戦闘で、マクベスさんがいなかった際の被害予想がこちらになります》


 もはやインタビューというより宣伝番組だな。



《そして、この度のテロにおいて、マクベスさんの活躍の様子が記録されていました。ご覧ください》



 広場での『カスタムグロウ特式』の映像が流れた。


 巨大なギアを相手にムーブフィストを軸に派手な戦闘を繰り広げている様子が映し出された。

 これは各機の視覚装置をオペレーションルームで記録し、編集した映像だ。

 戦闘中のあらゆるシーンが様々な角度で再現されるハイライト。


 ギアの戦闘の様子はセンセーショナルで歩く人々を釘付けにする。



「これだけのはっきりした活躍。それにこのルックス……意識を塗り替えるには十分ね」

「カッコイイのは『特式』でしょう! ギアがすごいんですからね!」

「グリム君、ギアと機士は両方大事だって言ってなかった?」



 映像を眺めていると女性店員さんがサービスでいろいろもってきてくれた。マクベスの前に。


「帝国を護ってくださってありがとうございます!」

「はぁ、どうも」

「あの、今お付き合いしている方は……」


 おれは割って入った。


「いますよ!! すごい美人が!!」


 店員さんは残念そうに戻っていった。



「完敗のようね。まぁ、あれでは仕方ないわね」

「ぐぅ……」


 映像が切り替わった。

 そこには、ガタガタに震え、しどろもどろになっている情けない人が映っていた。

 何をしゃべっているのかわからない。そもそも会話が成立してないんじゃないか? どこ見ている? なんだその愛想笑いは?



 おれだった。



「うわぁぁ! 違う、違うんだ! こんなはずじゃなかったのに!!」


 きっと機材トラブルだ。

 そうに違いないんだ。


「まぁ、インタビュアーさんがフォローしてるから、功績はちゃんと伝わるわよ」

「おれのときよりすごい褒めらているじゃないか。ほら『時代の寵児』、『現代技術を塗り替えた男』だって! かっこいいよ!」



 通行人が日常へと戻っていく。

 時折立ち止まるのはおっさんばかり。



 心の準備ができていなかった。

 何せ、この一週間は本当に忙しかった。

 スティルス村にウェールランドから迎えに来たのはフリードマンの部隊だった。

 それでもう大騒ぎだ。

 おれたちが生きていたことに驚き、皇帝陛下の前でマリアさんに求婚して……マリアさんは部隊とウェールランドへ。

 おれは陛下と共に帝都に戻るため、地下坑道で皇室特務部隊と合流。地下鉄が生きてるセクションへ。

 列車内で地下水に封じられたアルビオンらギアの発掘を手配。

 帝都に着いてルージュ殿下やマクベスと合流。

 敵ギアの検分。


 そして、皇帝陛下の健在を示し、混乱を最小限に収める策としてこのメディア戦略を提案した。

 属州出身者の活躍を報じ、市民の不安や怒りをクーデターを起こした軍閥や、反意を示した旧覇権貴族らに向ける。


 マクベスを出そうとしたら、テスタロッサがおれを推薦した。生存報告を広めることで少なくともウェールランド方面は落ち着きそうだ。



 だが、いざ自分が映ると思うと怖くなった。

 だってこれ帝国中に流れるんでしょ?

 緊張しない方がおかしい。


 しかもずっと残るなんて恐ろしい。



「変なところで落ち込むじゃない」

「女装してた人とは思えないよ」



 気落ちしていると、カフェのマスターがおれにケーキを差し入れてくれた。


「わー!」

「不器用な男は仕事で語ればいいのさ」



 マスターはおれを励ましてくれた。



「帝国の男は実直に、誇りを持って働く男を尊敬する。派手じゃなくてもおれたちはあんたの働きを見ているよ」



 マスターはテスタロッサと眼が合い、そのケーキはスッと彼女の前に移動した。



「さ、サービスです」

「あらうれしい」

「えぇ……」


 いい感じのこと言ってたのに台無しだ。

 テスタロッサはおいしそうにケーキを頬張る。


「……一口ください」

「欲しいなら頼めばいいでしょう」

「無いんですよ、お金が」



 忙しく働き、ひと段落ついて皇宮を出てから気が付いた。

 金欠。

 手持ちがないとかじゃない。

 おれとマクベスは死んでいたので口座が凍結されている。

 金が無い。



「……もしかして、通信機で私を呼び出したのはそれが理由?」


 銀行に行く前に役所に行く。

 役所に行く前に皇宮に行く。

 書類を作るための書類を作ってもらうための申請をする。

 死人が生き返るのは面倒だ。

 手続きとかできる立場のある人がいると助かる。



「ああ、いけない。忙しいのだった。ここの支払いはよろしくね」

「……」

「……」


 テスタロッサはカフェを出ていってしまった。

 冗談の可能性もあるので少し待ったが、冗談ではないようだ。



「えーっと次は……」

「グリム君、正直に言って頼もう。だまし討ちはダメだって」

「……うん」


 帝都で連絡して来てくれそうな人は限られる。



「あ、もしもしお世話になっております。グリムです。すいません、お金ないので迎えに来て欲しいんですが……はい、そうですよね。でも、じゃあ次に連絡するのがルージュ殿下で、殿下もダメなら陛下なんですけど……あ、はい。よろしくお願いします」

「誰にかけたの?」

「もう一人のぼく」


 カフェにやってきた女性はギロリとおれをにらむ。


「ありがとうございます、ネフィーお嬢様」

「すいません、ネフィーお嬢様」

「情報部を脅すな」


 彼女はテーブルに札束と保証人の書類を置いた。


「すいませんマスター、本日のオススメケーキ三人分ください」

「おい」



 役所と銀行の手続きを彼女にやってもらった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
***書籍発売のお知らせ***
小夜中のデビュー作となります!

『ギア×マジックの世界でエンジニアとして生きていく~転生者は悪役皇女を救いたい~』
[KADOKAWA エンターブレイン様より6月30日発売!!]
i976139
↑画像をクリックしたらAmazonの予約ページにとびます

パワードスーツタグなろう史上最高ポイント作品!!
ヤナギリュータ様の細部にこだわりぬいたメカデザインは必見です!!
随時情報はXにて更新中!
― 新着の感想 ―
やっぱ人間顔だよな!
テスタロッサへのヘイトが貯まる人いるね。 メディア戦略の裏で死亡状態の解除やってないのは無能だし、後々非ガイナ人差別なのでは?と見られるヤツ。 その辺解らず、ケーキ食って帰った無能って言われても仕方な…
テスタロッサの立ち去り行動って、ヤバくね?クーデター直後の時期に「死亡したグリム・マクベスを名乗る身元不明者の身柄を官憲が拘束」なんて残存内通者による身柄奪取の機会を作り出してる様な… ネフィーとか部…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ