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113.5 テスタロッサIII

 

 私は帝都ではなく、ハーネット家領内にいた。

 予め機密情報を扱う管制拠点の設営がなされていた。

 有事、中央のクレードルシステムが直接乗っ取られることを想定した対応だ。


《テスタロッサ、陛下が出た! こちらは追えない! 援護に向かうのだ!》

「はい、すぐに先回りします!!」


 ヴィルヘルム様より急報。

 焦った。


 帝都での反乱よりも前だ。

 皇帝陛下が突如、『アルビオン』で発進。

 場所は東のハーネット領方面。

 つまりこちらだ。


 私たちと合流?

 違う。

 こちらにはもう一つ秘密の拠点がある。


 地下坑道、グリムとマリアの二人がいる独立した管制室が。



「まさか、居場所がバレた?」



 2人の救出は計画にはなかった。

 しかし、陛下が間に合うと私には確信があった。


 陛下は初めから『アルビオン』による長時間稼働を目指しておられた。


 暗殺計画を阻止する目的であれば、長距離の移動はない。

 しかし陛下がガウス様に命じたのは、機能制限(スペックダウン)による稼働限界の延長。

 さらに外付け推進機による長時間の高機動だった。


 地下坑道での直線的な機動。

 大気の壁を魔法で取り払い、推進機の噴出ガス圧で機体を前方に押し出す。

 スカーレット殿下のスラスターに似た原理だ。


 最初の計画ではこの『アルビオン』で暗殺に対抗し、フェルナンドの持ち込んだ『ネメシス』を打倒するはずだった。


 グリムが『ネメシス』の帝国入りとギルバート殿下の反乱を未然に阻止し、計画は変わった。


 しかし機体の運用と陛下の動きに迷いを感じない。

 それは目的の根幹がブレていないということ。


 陛下が救おうとしていたのは自分では無くーー


《テスタロッサ高等情報官、皇宮で緊急事態発生です!》


 グリムたちの元へ向かう途中、現場の情報が次々に入って来た。



 皇宮での爆発。

 軍部の反乱。

 ギアによる戦闘。


 これでも陛下は『アルビオン』を制圧ではなく、救出に使われた。

 グリムたちを自らの陣営に引き込まず、距離を置いたのは危険から遠ざけ、万が一の際には『アルビオン』で救うため。


 何がそこまで陛下を献身的にさせるのか。


 やはり、グリム……彼は帝国の未来に不可欠ということか。


 それを証明するように圧倒的な戦況が報告された。

 現場からの報告者は声を震わせていた。



《皇女殿下の部隊が、全て終わらせました。圧倒的だ……敵の巨大ギアは全く相手になっていない!!》


 全ての機体はグリムの手によるもの。

 グリムの技術は、フェルナンドの計画に勝る。



 だが、肝心のグリムに通信がつながらない。

 フェルナンドは『ウルティマ』の基礎理論を理解していた。

 ジャミングされていると考えるのが自然。

 そして、爆発音が大気を通じて伝わった。

 戦闘が起きている。やはり坑道だ。


「セクター4へ向かう」


 山を越え、四輪駆動車を走らせ続ける。

 夕刻。


 ウェールランドからの情報が入って来た。


《今、ウェールランド支部に連絡があったらしい》

「え? 無事? なら端末の番号を。わからない? じゃあどこ? 村に?」



 近くの村に直行した。

 到着する頃には占拠された中央司令室も解放され、事態が終息に向かっていた。



 そして最後に、朗報が現場から告げられた。


《報告は以上です》

「そう、わかった……」



 ◇



 スティルス村に到着し部隊と屋敷に駆け込んだ。

 守衛は泥だらけ。何かあったか?



 3人は生きていた。


「皇帝陛下、お迎えに上がりました!」


 まずは一安心。

 こちらの要人は全員無事。


 グリムは「間が悪い」とブツブツ文句を言っている。

 スティルス卿と夫人は「皇帝陛下!?」と発狂寸前だ。しかし私にはそこに配慮する余裕はない。

 魔力はまだ残しているが、四輪駆動車を走らせ体力的にも精神的にもギリギリだ。



「テスタロッサよ、状況を説明せよ」

「はっ……皇宮での戦闘は――」



 ギアによる戦闘後、幾度かの爆発があった。


 それに巻き込まれた者が多数。


 その中に――



「フェルナンド皇子がいたと……」



 戦いの幕引きは案外あっけないものだ。

 戦闘の最中、フェルナンドはそれを眺めていたという。

 そして、不利を悟ったスタキア人傭兵たちの自爆に巻き込まれ死亡。



 私は膝をついたまま顔を上げず、床に向かって声を発していた。

 陛下の表情はうかがい知れない。


 マリアは、浮かない顔だ。

 それは弟への同情か?


 マリアが口を開いた。


「御前試合という体裁。反乱を仕掛けておいてあの場にフェルナンドが居続けた目的が分からなかった。まさか反乱の成功後、首謀者が自分だと名乗り出るつもりだった? いえ、あの場にいたのは目的があったはず」


 背筋が凍った。

 次に、とてつもない疲労感が全身を襲い、めまいがした。


「ギルバートは死ななかった。皇族の血が流れない。それでは、この混沌は世界に波及しない。だから、自らの血でもってその役割を果たした」


 そうだ。

 通信では爆発に巻き込まれたと言っていた。ならば本人かどうかの特定は難しい。



「奴は生きている。死は、偽装よ」



 否定したいが、反論の言葉が出ない。

 戦いは終わっていない。


 グリムたちと同じことをしたわけだ。

 なぜ気付かなかった……!?


 厄介だ。死人になることで、我々は完全にその動きを見失うことになる。



「グリム・フィリオン、テスタロッサ、マリア以外は退席せよ」



 4人だけとなった。




「テスタロッサよ。これより帝都に帰還する。部隊到着まで待て」

「はっ」


 陛下は淡々としておられた。


「恐れながら陛下、フェルナンド皇子の計略に乗るのは早急に阻止しなければ……メディアを通じフェルナンド生存の報を発信するべきでは?」


 一刻も早くフェルナンド捜索に乗り出さねば。

 私には情報を運用する責務がある。


「うむ……余は逆だと考えていた。どうだ、クラウディア?」

「はい。遺憾ながら、混乱が大きければ奴の思う壺です。偽情報、誤情報、憶測が混ざるだけ、陛下の予知は正確性を失う。それより、私はグリムの作戦に賭ける」


 そうだ。

 常にフェルナンドの想定を超えて来た者――


「あ、はい。ぼく?」


 グリム。

 フェルナンドの死、そしてそれが偽装と分かっても、驚きもしていない。

 最初からグリムは言っていた。確信めいていた。


 フェルナンドを倒せるタイミングは一つだと。

 それを成せるのはルージュ殿下であると。


 確かに、ルージュ殿下は今回の戦いで部隊での連携を駆使し、敵を圧倒していたという。あの孤高で単騎駆にこだわっていた殿下が。

 フェルナンドはそれを間近で見ていた。

 奴にとって、想定を超えたのはグリムだけではなくルージュ殿下も……


 ならば、グリムがずっと言っていた通りになる。


 グリムがルージュ殿下を救い、殿下は世界を救う。


 原点回帰か。


「この物語の変更が可能なのは第1クールの最終話ですから」

「第1クール?」


 これだ。

 グリム語はよくわからないが、よく分からない理屈で物事の流れを把握している。

 我々はこの予言がなぜ当たるか理解できないが、もはや疑うこともない。



「余らは、第二期からの危機に備えるため全てを投じてきた。それまではすべてが前哨戦である」

「第二期?」


 ただ、皇帝陛下もグリム語を使うのは謎だ。予知にまつわる共通言語なのだろうか?


 いや、なぜグリムも驚いている?


「ぼくは万引きとか許せない人なんですが」



 急に語り始めた。

 いや、これは秘密の作戦を示唆しているのか。


「現行犯じゃないと捕まえるの難しいから、万引きGメンが店外まで張り付いてようやく捕まえられる」



 いやグリム語の癖が強すぎて全く分からない。

 万引き? Gメン?


「こちらが勝利する条件はあちらが勝利を確信した瞬間にのみある」


 陛下にだけ伝わっているようだ。

 いや、なぜグリムも驚いている?

 陛下を試すな。


「それで、どうするか……ぼくらは勝利に酔い、先に進む」

「もはや新技術は隠す必要がない。あえて世に示す」

「その技術の進化をぼくが越える。はるか先へ」

「フェルナンドはグリムの虚像と戦うことになる。いけそうね」



 何もないスティルス村。

 世界の命運を左右する作戦がこの場で決定した。



 もはや口を挟むことはない。

 私は、柄にもなく安堵していた。



「さぁ、そうと決まればテスタロッサさん、ぼくの今回の活躍を情報官として聞きたいでしょう。いいでしょう、お話ししましょう」


 グリムに着席を促される。


 ギアを動かして戦ったらしい。

 身を挺してマリアを護ったとか。

 暗殺犯を仕留めたとか。


 彼は私が分析スキルを持っていると忘れたようだ。


 私は我慢して彼の武勇伝をうんうんと聞くことにした。


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― 新着の感想 ―
最終的に最も長く振り回されたヒロインレースを勝ち取りそうな皇帝が出てくるとは、このリハクの目をもってしても(ry
皇帝は何度も違う世界線の未来でグリムと共闘した結果を予知して来たから、グリム語の意味もある程度理解できるようになってるんだね。 そしてグリムと同じ結論に達してて、フェルナンドを倒せるタイミングもそこだ…
どんなに危機的状況であっても常に光明が見えていてグリムがおどけた態度でいるからどんなにシリアスであっても鬱展開にならずずっと面白いままなの良いね
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