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111.グリム包囲網

 突如モニターが真っ白になった。

 爆発が起きたことはすぐにわかった。

『わかる君』で爆心地に直行。


「大丈夫ですか!!」


 そこには焼け焦げた男と、その後ろで氷に守られたルージュ殿下とフィオナの姿があった。


「そんな……」

「ギルバート……」


 黒煙の中、スーパーバイザーがギルバートの生存が絶望的であることを知らせる。


 無差別爆破。

 ギルバートが庇っていなければ、防げなかった。

 これは予見できなかった。


「二人共機体へ!! ギルバートは――」


 信号通信機で連絡し、ウェールランド基地の回復役を『クレードル』に。『ダイダロス基幹』を搭載した機体に入れればスキルコンボで自己回復を……

 いや……そんなことをしている暇はない。

 もうそんな段階じゃない。

 爆撃があちこちで起きている。

『わかる君』に当たってるのは弾か。

 このままじゃ、全員死ぬ。

 フィオナが叫ぶ。ルージュ殿下が引きはがそうとする。

 抵抗しギルバートの傍を離れないフィオナ。

 まずい。


「――……二人共、よく聞いてください。一か八かです」


 おれは唯一の方法をフィオナに提示した。

 彼女は受け入れ『クラスター』を纏った。


 状況は悪化していく。

 帝都守備部隊が機能マヒ。

 新型ギアの強襲。

 急いで『メサイア』のリミッターを解除。



「グリム、侵入者よ」



 さらに、この場所がバレた。



「どうして、次から次へと……!」

「何らかのスキルね……脱出するわよ」



 地下坑道には幾重にも罠が張られている。

 特定の場所からでなければ出入りは不可能だ。

 ギアの出入りすら制限し、目立たないよう努めていたというのに。


 


「仕方ない……か」



 このままでは負ける。

 それが分かっているからマリアさんもまだ考えている。この状況を覆す手段を。

 しかし、おれもマリアさんもギアはからっきしだ。

 遠隔機乗力が少しあるが、ギアは無人では動かせない。胴体部と脚部は機士の動きをサポートする仕組みだ。

 仮にギアで脱出したとしても――


「おそらく、脱出路の先で待ち伏せ」

「……そうね。抜かりはないはず」


 おれたちにできることはせめて、この開発途中のギア二機をガスボンベと火力インジェクターをつなげて爆発させ鹵獲を防ぐことくらいか。


「いや、ちがう」

「そうね、可能性があるとするならば……」


 おれとマリアさんは一縷の望みにかけて、準備を急いだ。

 二人で新型ギアを纏う。

 ハンドリング操作で、慎重にガスボンベを運ぶ。

 走ったりしなければこれぐらいできる。

 技術者が追い詰められて、ロボットを使いこなすというのはお約束だ。



「リンドン、リンドン……恐怖に怯える音が聞こえてくるわ」



 女が立っていた。その背後には複数のギア。

 気が付かなった。ギアの駆動音ならすぐわかるはず。

 音を操る魔法なんてないはず……

 いや、魔法とスキルの混合で発生するオリジナルスキル持ち。

 音、つまり振動を鼓膜内で増幅させ地下坑道の空気の流れを聞き取り地上から索敵。

 ギアの振動を低減して音を消して隠密行動を……。

 

 スキル持ちには気をつけていた。【リスト】に載せてテスタロッサに調べさせていたのに。

 どこに隠れていた?


「えーっと、そっちの彼がグリム・フィリオンね? 君は大丈夫。絶対殺さないようにと言われているから。そちらのあなたは誰?」

「そういうあなた、5年前に捕まった殺人鬼ね。確か『帝劇の刺殺魔』、処刑されたはず……」



 5年前……まだ【リスト】作成前か。



「その呼び方はやめてください。私は『帝劇のプリマドンナ』だったのよ。それにその死刑囚は死んだわよ。あくまで書類上はね」



 特殊なスキルを持つ犯罪者を囲っていた。

 公的には死人。

 おれたちがやっていることを、すでに5年以上前からやっていたのか。


「『帝劇のプリマドンナ』……ライバルや自分を酷評した批評家を次々と刺殺。『帝劇の怪人』の間違いじゃない?」

「あらあら? そちらの美人さん。この状況でも綺麗な心音ね……この感じ、ひょっとしてクラウディア皇女殿下かしら? フェルナンド殿下とそっくりね」


 マリアさんがハッチを開いて顔を見せた。


「よくわかったわね。私はガイナ帝国第一皇女にして、元宰相……クラウディア・リドル・ガイナ」

「うれしいわ。私、自分より美人な人嫌いなのよ」 

「フェルナンドの手下と認めたけれど……いいのかしら? 直接指示を受けているということはあなたが捕まれば、あの男は終わりよ」

「そんなことにはならないわ。この状況、覆せる?」



 女が、背後の部隊に指示を出す。



「残念だけれど、ここで死んでくださいな」

「ちょっと待ったー!」


 マリアさんが引き延ばしてくれたおかげで、最後のライン接続が終わった。



「動くな! 少しでも動いたら、天井ごと吹き飛ばすぞ!」



 ここは地下坑道だ。

 天井を爆破すれば、全員下敷きになる。



「おれたちは新型を纏っているから耐えられるが、そっちはどうかな?」



 向こうも原型は『サイクロプス』だ。落盤に巻き込まれてもできるのはせいぜい足止め。

 引っかかってくれれば時間稼ぎが……



「ドクンドクン、そんな度胸ないくせに。心音でわかるのよ」



 そうだな。できればやりたくない。いくらギアを纏っても二人共ただでは済まない。


 だから、決定権はマリアさんに渡した。



「ここにいるのは全員死人。選択の余地は、無い」

「くっ、この女!!」



 マリアさんは躊躇なく、起爆スイッチを押した。


 天井に設置した可燃ガスのタンクが火力インジェクターで爆発連鎖した。



 一瞬で坑道は闇に包まれた。




 ◇



 気を失っていたようだ。


 動けない。体中が痛い。


「ゲホッ、ゲホッ……」


 地下水が流れ込んでくる。

 真っ暗で何も見えない。


 マリアさんは……


 ハッチを開ける。動かない。


「グリム?」


 マリアさんの声がした。

 重力魔法でがれきに『反重力』をかけてハッチを開いた。

 がれきが動いた。


「無事ね?」

「マリアさんは……?」

「無事よ」


 マリアさんがいた。

 重力場シールドで爆発の威力を逸らした。

 


「どうやら成功したみたいですね」

「えぇ……」



 しかし、完成間近だった機体が大損害を受けた。

 それに、早くここから逃げなければ。



「チクタク、チクタク……命が消える音がする」

「え?」


 とっさに重力場を周囲を張り巡らせた。


 振り返ると血染めの殺人鬼が迫って止まっていた。


「よくもやったな。消えるのはお前たちの命だ」


 もう魔力が無い。


「あーっはっはっは!! その耳障りな心音を止めてやる!!」

「うわぁ!」

「えい」


 マリアさんががれきで殺人鬼の頭を殴打した。

 倒した。


「はぁ、はぁ……びっくりした……」

「出るわよ」

「はい」



 真っ暗闇の中、急いでがれきの山を進む。

 すると、前方から光が見えた。


 ギアが突入してきた。



「次から次へと」

「……やはり、分隊がいたわね」



 それに爆発の威力が足りなかった。

 下敷きにした敵ギアもがれきから這い出し後方を塞ぐ。



「……全員動くな! 動いたら地面に敷設した地雷を誘爆させる!!!」


 嘘だ。もうない。

 ギアは止まらない。

 ブラフも効かない。


「ここまでのようね」

「マリアさん、『反重力』で身体を軽くします。走って逃げて下さい」

「無理よ。走れないわ」


 後は、交渉か。

 おれを生かす命令があるのなら……


「わかった! 抵抗しない。ただ、彼女も一緒だ!! じゃないと後でフェルナンドに怒られるぞ! 疑うなら聞いてみると良い!!」


 一瞬の逡巡の後、ギアが一斉に銃口を向けた。


「くそっ、確認ぐらいしろよ!! それでも社会人か!!」


 追い詰められたその時、坑道に反響する音が伝わってきた。



 聞いたことのあるギアの駆動音だ。



 大気がぶつかるような炸裂音と共に、数機のギアがまとめて壁に叩きつけられる。

 純白のギアが坑道を疾走し、さらに数機が壁にめり込む。

 剣の一振りで、目の前に立ちふさがる者すべてがなぎ倒される。


 後には、水が流れる音とがれきが転がる音だけが反響していた。



「『アルビオン』……」

「まさか……」

「遅くなったな。クラウディア、そして……グリム・フィリオン!」



 おれたちは助けようとした皇帝に、逆に助けられた。




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― 新着の感想 ―
ギルバートが死ぬまでに広場を制圧して、ダイダロスに放り込む それが唯一の方法か 皇帝陛下カッコ良い………
94.北部攻略編 前哨戦でマリア狙いの自爆攻撃者を送りつけられてるのにルージュには直接手を出さないと思った理由が知りたいところですね。 メサイアの仕込みに気づかれ場合、ギルバートごとルージュ葬りに来る…
ここまで読まれてると、皇帝が単騎で助けに来ることも読まれてそうで怖い
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