100.5.スカーレット
「一時、通信、サポートが途絶する!! 全機、近接戦闘準備!!!」
ネフィー……いえ、グリムの合図で、全体に号令をかける。
防御壁の上からマクベスの機体が、金属体をバラまく。
「よくも、あんなものを思いつくものね」
ついこの間、ダイダロス基幹という革命的装置を生み出したばかりだというのに。
その対抗策をもう作り上げた。
しかも、遠距離魔法攻撃を全面的に封殺できるなんて。
熱源体が消失した。
魔力の信号をあの宙を舞う金属片で反射させ、阻害。恐ろしいやつ。
光点滅信号で合図を送り、敵グロウ系へ一気に部隊をけしかける。
どいつもこいつも、ブーストクロスコンバットが得意だ。
あらかじめ、この不意打ちは織り込み済み。
スペック的に勝る敵グロウ系をいとも簡単に追い込んでいく。
「あちらはリザもいるから平気ね。問題は……」
あの『白銀』、マーヴェリックと互角。
グリムの改造した『クラスター』の動きはルージュお姉さまやマクベス、フリードマン大佐と遜色ない。
それなのに、野生の獣のような敏捷性で、決定打のタイミングで攻撃が躱されている。
「狙いが定まらない……」
私が介入したらかえって邪魔になる。けれど、援護射撃の照準よりも、二機の動きの方が速い。
不意に、地面が凍った。
「なんで?」
まさか、大気中の金属片を避けて、地面を直接凍らせた?
単機でどれだけの出力……いえ、そもそもグリムの話では、稼働時間に制限があったはず……あれは魔力制限のことでは無かったの?
「5分は過ぎているはず」
グリムの想定外のスペック……?
あいつが、出し抜かれるなんて……
機動性の強みを失い、何とかアンカーボルトで転倒を避けているマーヴェリック機。このままじゃやられる。
「悪いわね、マーヴェリック。なんとか避けなさいよ!!」
彼の『全体把握』に賭けて、光点滅でカウントした。
『アリアドネ』による、全砲門一斉射撃。
動きが機敏でも、リズムは同じ。
なら、先が読める。
「なっ!?」
読みが外され、全弾躱された。
さっきまでなら当たるタイミングで、動きが変わった。
氷上を滑走……独自形状のアンカーボルト、あんなものまで……
明らかに、先ほどまでと動き、反応が違う。絶対感応性能上がってるわよ、これ。
でも、今射撃を止めたら、マーヴェリック機がやられる。
《姫》
通信だ。
チャフの舞う中、『ウルティマ』の6基の背部大型ブレードアンテナによる信号照射で、通信を可能とする技術。
あいつ、本当に何でもありね。
《敵機の稼働時間が延びてます!》
やっぱりね!
「はぁ、はぁ……距離を取り過ぎるとマーヴェリックがやられる!! 弾も尽きるわよ!!」
《今から魔力を供給します!! 全力で『烈火』を放ってください!!》
どこに……あ、そういうことね。
まったく人使いが荒い!
防御壁の中段から飛び降りる。
リザ機から、光点滅で「後退」の進言。
分かってるわよ。そう毎回毎回大将が前進するものじゃないわ。
けど、あれと渡り合えるのは今マーヴェリックだけ。
なら、あいつを活かす。それが将としての私の役目。
全力で『烈火』を地面に放つ。
一気に氷を溶かし、マーヴェリックにチャンスをつくる。
《――いよっしゃ、姫様、愛してるぜぇ!!》
「調子に乗るな」
《うぉおぃ? 通信が!!?》
通信が回復してる。
これが最後のチャンスだ。
《決めるぜ!!》
『白銀』が路面状況の変化にもたついている間に一気に距離を詰めた。
スムースモーションから滑らかな動力シフト、『ニトロ』加速へ。
「速い!」
放たれる氷柱の攻撃をいともたやすく躱しながらさらに加速。
地面から氷柱が突きあがる。
でもそこに、マーヴェリック機はいない。
『アクセルターン』から『クイックターン』。
完全に背後を取った。
《これがスーパーマックス・マーヴェリックタイムだ!!》
ダサいけどさすが!
『プレデター』の両爪が『白銀』の脇腹へ。
決まった。
衝撃音。
「なっ、何今の音!?」
マーヴェリック機の方が吹き飛んでいる。
それに、『白銀』の装甲、あれは『プレデター』の傷じゃない。
まさか、自分で装甲を爆発させて、威力を殺した?
《今の、機士の反応じゃあり得ないぜ……》
マズい。
マーヴェリック機の肩、『プレデター』の衝撃とあの装甲爆発で動いていない。
守備部隊、リザたちは――
《敵の動きが変わりやがった!!》
《なんだよ、こいつら……》
《まるでガーゴイルだ!!》
さっきまで優勢だったのに、あの敵グロウ系にも隠された性能が?
マズい。
マズい、マズい、マズい……私が、何とかしないと。
私が……
いえ、私は凡人だったわ。
天才はあいつ。
こういう機体うんぬんのことで、あいつが出し抜かれるはずない。
「ネフィー、何とかしなさい!!」
《あ、はい》
この時を待っていたかのように、『ウルティマ』のブレードアンテナのターゲットが敵グロウ系へ。
直後、敵グロウ系は機能停止。
機士が中から発狂して飛び出している。
《敵グロウ系の汚染信号の中和を――》
「説明は後で! 」
あとあの『白銀』を……
地面から氷柱が突きあがってきた。
無差別質量攻撃。
イゴール達が巻き添えになり、ギアごと中空に突き上げられた。
「そんな……!!」
また、攻撃パターンが違う。
《ネフィー、このままじゃマズいだろ!! あれをつかわせてくれ!!》
マクベス……
グリムは迷ってる。
ここはやるしかない。
今度こそ私とこの『アリアドネ』で……!!
「ネフィー、私を勘定から外すんじゃないわよ!!」
氷魔法は私の火魔法で抑え込める。
接近して、中距離まで近づければ、こちらにもまだ見せていない秘密兵器はある。
特殊対装甲ストリングス。
狙いは、マーヴェリックを引きはがすために犠牲にしたむき出しの脇腹。
一撃目、ガードされた。
なんて速応性……!!
「っ、機体が凍って……」
接近すればするほど、奴の間合いか……
「この『アリアドネ』がこの程度で、止まるか!!」
『オーバーコート』のパージ。
張り付いた氷ごと引きはがし、マニュアルスラスターで加速。
攻撃が来る。
氷で足止め? 氷柱の突き上げ?
正面に氷塊だ。
「ぐぅぅぅ!!!」
『ジャンプ機構』で加速&、急速回避軌道。
『アクセルターン』で躱した。
そのまま、ストリングスを打ち込む。
腕でガードされた。
なら、四肢を落とす。
左腕を弾いた。
右脚刈り取る。
態勢を崩した。
いける……!!
右腕のガード。
脚部から放った鞭が地面を這い、ガードを避けて脇腹へ。
「獲った!!」
《いや、まだだ!!》
背後の要塞側で蒸気が立ち昇る。
さっきの高熱源体による範囲攻撃。
今度は直接中の人間を焼き殺す気?
でも、どうして、止まらないの?
仕留めたはず……
人間に視認できるスピードでは無かったはず。
まさか、避けたというの?
グリム、クラウお姉さま……みんな……
「化け物……」
この距離。
やられる。私も氷漬けになって終わり……
《おらぁぁぁ!!》
「え?」
イゴール機がナックルガードで『白銀』を殴り、大破した。
《ぐぅ、これで最後かよ、くそがぁ!!》
あの攻撃を喰らってよくぞ動けたものね。でも、なぜ攻撃が通ったの?
「イゴール、離れて!!」
いや、機体が限界を超えている。
冷気を火魔法で阻害する。
《俺様が、足手まといだと……》
《いや、よくやった、イゴール》
グリムの声。
伝わる。大丈夫だと。
スーパーバイザーに表示。
クレードルシステムからの魔法信号送信あり。
これを……
「撃てばいいっていうんでしょ!!」
迷うことなく機体操作で放った借り物の魔法。
それは氷魔法だった。
「は?」
まさか、これで要塞冷やせってことだった?
違った?
けど、敵『白銀』の動きがおかしい。
熱放出で『氷結』を防いでいる。
こいつ……氷魔法を使わない。
いえ、使えないタイミングがある?
高熱源体放熱攻撃。
吸熱による独特な機体の駆動。
それに氷魔法。
この三つ、同時にはできないのか。
さっきのイゴールの攻撃が通ったのもそれか。
グリム。さすがね。
あの一瞬で、見抜くなんて。
でも、だからってなぜ氷魔法が効く?
通常発動を、二点間誘導へ。
やっぱり効いてる。
やっぱり、機体分析であいつを出し抜けるわけないわよね。
三点間誘導へ。
威力が増大していく。
両手で二重発動。
抵抗が一気に無くなった。
私にはわからないけれど、あれほどまでに手の付けられなかった敵『白銀』はあっさりと氷漬けになり、完全に停止した。
「はぁ、はぁ……どういうことよ?」
《熱変換効率の偏りが機体駆動を優先にした放熱制限によって発生し――》
「あ、後で聞くから……」
要するに、『アイスマン』の弱点は氷だったってことね。
ご報告です。
本作の書影(表紙絵)が解禁となっております。(XでKADOKAWA様よりツイートされており、『ギアマジ』ででます。各出版社様のサイトも随時、公開される予定です)
第1巻、6月30日発売となります。
昨年の真夏、編集様にお声がけいただき、ここまで準備してまいりました。すでに校正、特典SSの執筆も完了しております。(特典等の情報も活動報告で随時ご報告させていただきます)
まずイラストレーター様を見つけられるかという課題がありましたが、編集様のお力でヤナギリュータ様という素晴らしいイラストレーター様に巡り合わせていただきました!
ヤナギリュータ様とは会議で、入念にデザインを検討いただきました。書籍化未経験で、しかもメカデザインの進め方を知らない私の無理難題に応えてくださいました。
作中、メカデザインについてはほぼ言及しておりません。
それが、WEB形態では最適であるという判断でしたが、書籍化にあたり、ヴィジュアルイメージは一からヤナギリュータ様に、機体性能や設定の解釈、世界観との調和、様々な角度から創造していただきました。もちろん、キャラクターデザインも一切手を抜かず、何パターンもご提案いただき、感謝感激でした。(キャラデザ等はまた改めてご報告させていただければと思います)
編集様とは200回近くメールと会議のやりとりをさせていただき、初書籍化の私に懇切丁寧にお付き合いいだきました。
また校正様にも入念なチェック、ご提案、鋭い考察をしていただき、デザイナー様におかれましては妥協無く調整に調整を重ねていただきました。
この度の書籍化、私はかなり運が良く、素晴らしいプロの方々に恵まれたと思います。
そのプロの方々のお仕事に恥じぬよう、誠心誠意取り組んだつもりです。
長くなりましたが、改めまして、本作『ギア×マジックの世界で生きていく~転生者は悪役皇女を救いたい~』を今後ともよろしくお願いいたします。