100.原始系『ネメシス』
第一陣による攻撃から3日後。
雪も止んで、緊張感が薄れていた。
それは突然現れた。
「敵襲だ! 正面からだと!?」
「確認急げ!!」
「防御壁が砲撃されています!!」
「分かってる!! 敵戦力は!」
「……例のグロウもどきが10機、それに、先頭にいるデカ物……あれは、見たことの無い機体です!!」
要塞内では白昼堂々の襲撃に混乱が起きた。
「ば、馬鹿な……何で?」
おれも動揺した。
雪が降っていないこの状況で戦力を投入するなんて悪手。
『アリアドネ』とリザさんやマーヴェリック少尉との正面切った戦いで勝てる戦力があちらにあるとは思えない。
あれ以外は。
「まさか、本当に?」
おれもすぐに戦況を確認する。
視覚装置からの映像をバイザーで見ると、そこに映っていたのは、白銀に輝くギア。
「待ってたぜ、『アイスマン』」
「待って、マーヴェリック少尉!」
以前、威力偵察で少尉の部隊を壊滅させたというギア。
原始系ギアだ。
「罠か?」
おれは原始系をここで使うとは思っていなかった。
あれは帝国に勝利したウィヴィラの切り札。
あれが無ければ、再び占領されるのは目に見えている。
「要塞を突破できなかった時点で役目を終えたと考えている。それよりも、要塞側の戦力を把握し、要塞にダメージを与えることを優先する。あの男はそういう男だ」
「ですが、クロードさん……」
「確かに、最良の選択ではない。でもそれはあなたという不確定要素があるからこそでは」
クロードさんが予めこの襲撃を予測していた。
だから、あれの情報と対応は共有している。
「あの『白銀』には接近禁止、氷漬けにされるわよ!」
姫の指示を聞いてないやつが一機正面から飛び出した。
少尉だ。
「少尉、命令よ! 戻りなさい!!」
《やつは遠距離攻撃だけじゃ止まらねぇ。おれが奴を釘付けにしているうちに、ご準備を》
「はぁ……誰か奴に魔力供給。それと防衛射撃用意」
姫の号令で、防御壁にギアが配置されていく。
見通しが良い今なら、出ていく意味はない。
敵は的だ。
「『スカーフェイス』、あれの準備を」
「了解!」
スカーレット姫が中心となり、砲撃を開始。
その途端、防御壁が大きく揺れた。
「なんだ?」
氷の楔が防御壁に打ち込まれている。
まるで壁を侵食するように氷が広がっていく。
おれは敵機を目視した。
■状態検知
・適合率 89%
・出 力 S+【2800/5000馬力】
・速 度 S+【時速0-150km】
・耐 久 A 【3500/3500HP】
・感 応 S 【0.10秒】
・稼 働 E 【5分】
「5分か……」
やはり時間制限がある。
『原始』系ギア。
『アイスマン』と呼ばれているが原作では『ネメシス』として登場済みだ。
また、氷柱による攻撃が壁を襲った。
「なんて質量だ!!」
「あれが、ギアの力なのか?」
「土魔法修繕班急げ、壁を破られるぞ!!」
敵グロウ系が足止めで前衛を担い、その間に壁への攻撃に集中する算段か。
《撃ち合いは望むところよ!!》
壁の上からスカーレット姫の『烈火』が氷柱を溶かした。
火柱はそのまま『ネメシス』まで届いた。
『ネメシス』は氷魔法で対抗。
そのまま火柱をかき消し、防御壁に冷気がのびる。
《フン……!!》
『烈火』の火力が増した。
ダイダロスのサポートと、魔力で一気に逆転。
爆発的な蒸発が発生し、辺りを覆った。
《……ブリーフィング通りね》
この策も把握済みだ。
姫はターゲットを敵グロウ系に集中。
機関砲、大砲、ガトリング砲の斉射で、『ネメシス』との連携を寸断した。
これで、マーヴェリック少尉を足止めできなくなる。
そして、彼の得意な接近戦に持ち込む。
《氷漬けにされないでよ!?》
《イェー姫様!! 愛してるぜ!!!》
《あと3分よ! 攻め続けなさい!!》
蒸気を放出しても、雪上では足跡が残る。
そして、『全体把握』と『弱点看破』を持つマーヴェリック少尉からは逃げられない。
蒸気で戦況が見えないが、『プレデター』の発破機構の音が聞こえる。
接敵した。
渡り合っている。
奴は機体性能に頼った接近戦を駆使し、その穴を補うため蒸気の中に隠れる。
つまり――
《やっぱり、中身は素人さんだぜ! 姫様、ちょっと誘い込むんでよろしく!!》
《えぇ》
蒸気から『ネメシス』が飛び出した。
『アリアドネ』からの容赦のない殲滅射撃が襲う。
たまらず、『ネメシス』はマーヴェリック機と距離を詰める。
『ネメシス』はすさまじい運動機能を見せるが、その攻撃は当たらない。
氷柱が地面から生えるが、『クイックターン』で躱す。
襲撃に対し、優位に事を運ぶ。
「よし、いける……!」
だが、要塞内がざわつき始めた。
「なんだ、気温が急に上がったような……」
「上だ!!」
要塞の上空に太陽とは別にもう一つ高熱源体が出現していた。
『ネメシス』は『アイスマン』ではない。
氷を単に操るだけではなく、周囲の熱を奪い、それをエネルギーに変換して圧倒的機動を得る。
そして、その熱による魔法攻撃を可能とする機体だ。
「あんなのが当たったらひとたまりも無いぞ!」
「指示はまだか!!」
「誰か、どうにか――」
「『スカーフェイス』、『ウルティマ』起動だ」
《了解した》
防御壁の頂上にギアが降り立つ。
全身が塗装されず、特殊な金属プレートで覆われた琥珀色に輝く機体。背中に無数の剣山のような突起物を持つ異様な見た目をしている。
アズラマスダ家が極秘裏に開発していた、ダイダロス基幹対策用信号戦略機体『ウルティマ』。
「姫!!」
『ウルティマ』起動の意味を悟り、スカーレット姫が皆に号令を出す。
《一時、通信、サポートが途絶する!! 全機、近接戦闘準備!!!》
防御壁の外延部より、『ウルティマ』が全身の射出口から無数の砲弾を射出した。
砲弾は中空で、破裂四散し、無数の細かい金属片をバラまいた。
直後、上空から迫る、高熱源体が動きを止めた。