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94.北部攻略編 前哨戦

ラスト改稿しました。



 軍警吏庁舎(軍警察署)に呼び出しをくらった。

 機体の報告書に不備があり、実機とちぐはぐな点からおれの整備不良が疑われた。


「だから、ちょっとした書類上のミスですって。ルージュ殿下の『クラスター』はあえてパワー型のミッションギアを外したんです。あえてです」

「貴様の整備不良のせいで、ルージュ皇女殿下の御威光に傷がついたのだぞ!!」



 この怒鳴っている丸メガネは法務官だ。

 丸メガネが危惧したのはルージュの不敗神話の崩壊。

 おれも彼女の不敗記録は抑止力として重要だと考える。だが、訓練中のことだ。実際訓練機に不良はない。


「そこまでだ」

「……あ、貴女様がなぜ?」


 取調室にレイナさん、マリアさん、そしてルージュ殿下がやってきた。

 丸メガネと軍警察が恐縮して礼を示す。


「グリムは連れて帰る」

「こちら、不備を訂正した書類です」

「訓練課程上の仕様である旨、複数の技師から証言を取ってあります」


 さすが、お仕事が早い。


「ふむ。ん? そこの事務官、どこかで会ったか?」

「……いえ、ナンパはよそでやってください」

「おい、うちの顧問官を口説くなよ? 丸メガネが」

「い、いえ決してそのような……」


 マリアさんに見惚れる丸メガネの視線に割って入るルージュ。


「失礼、気のせいでした」

「ではこれで」


 一先ず職場復帰した。


 おれは不問に処されたが、整備不良の噂を嬉々としてエカテリーナが広めたおかげで、基地を飛び越え帝国にも広がった。


「殿下の不敗神話に傷がついたのはグリムのせいだ!」


 はいはい。


「気にするな。お前が我が専属として仕事に専念できるならそれに越したことはない」

 

 不評が広まったおかげで忙しかった表の仕事は落ち着きを見せた。


 その時間を有効利用し『グラヴィウス』は3割まで完成。

 装甲と『オーバーコート』はまだこれからだが、基幹部はできた。

 難航していた特殊なサードミッションの追加と調整も完了した。


 こうして、準備を着々と進めていたある日。

 その時はやって来た。



 ◇



《始まりましたよ。北部ウィヴィラ属州が独立を宣言するとともに帝国に対し宣戦布告しました》


 テスタロッサからいち早く報せが届いた。


 戦後初、ガイナ帝国が敗北した。

 この情報は数日遅れで世界中に広まるだろう。


 ウィヴィラは大雪でインフラが止まった時を見計らい、ゲリラ戦法で各基地を襲撃。

 事前に通信網を破壊。

 各地の情報官を殺害。

 それにより情報が途絶。

 大雪によるものという油断と、連携せず失態を取り戻そうと報告を怠った軍のせいで後手に回った。


《全て、読み通りですね》

「本当にやったのか。フェルナンドは……」

《それで、情報官の情報を流した者についてですが》

「どうせ、身代わりを用意したんでしょう」


 いくらなんでも情報部の機密に直接アクセスするのはリスクが高い。

 できるというだけで容疑者にされる。


《法務局の人間でした》

「テスタロッサさん、その人近いうちに自殺すると思うので、その前に……」


 その前に……


 ん? 情報部の情報を流した者は法務局の人間……


 この前、法務官が来た。偶然、いやーー




「マリアさんだ!! バレた!!」

「……! あの丸メガネか!」

《え?》


 法務局にまで手が回っているなら、タイミング的にあの取り調べは探りと考えるべきだ。

 あの時、マリアさんを見て見惚れていたんじゃない。困惑していた。丸メガネは気付いて報告したはず。

 普通なら他人の空似でも、局内に奴のシンパがいたなら話は違う。


「グリム、通信装置でマリアに連絡だ! テスタロッサ、切るぞ!!」

《あ、え……》


 マリアさんに……いや違う。連絡先が。


「あ、マクベス君?」

《緊急?》

「マリアさんは?」

《見てるよ。言われた通り》



 彼女は今、子供たち相手に手習い所で授業中か。

 こういう時のために、おれの身の回りの大切な人には護衛を就けている。


「近くに怪しい人いない?」

《ああーうん、いるね。…………あのぉ、身分証を、おっっと……》


 雑音がひどい。


「我々も向かうぞ」

「はい!」



 手習い所の館に駆け付ける。

 男がマクベス君に拘束されていた。

 マリアさんは無事だ。

 子供たちも避難している。


 ルージュが駆け寄る。


「油断したわ。あの法務局の男ね」

「そのようです」


 皇族親衛隊の何人かが廊下でのびてる。このグレイの髪の男、相当な手練れだったようだ。


「フフフ、雁首揃えて愉快だな……」


 失敗したのになんだこの余裕。

 状態検知してみた。


「マクベス君、ジャケットの下だ!!」

「――! 何だ、これ」


 爆弾だ。

 服の下に巻き付けた爆弾のタイマーが起動している。


「第一皇女、第二皇女、お前たちは革命の邪魔だ。ここで死んでもらう」

「逃げろ、みんな!!」

「無駄さ。半径50mは吹っ飛ぶ」


 なぜ即起爆しない……?


「グリム・フィリオン。悪いな、お前だけは殺すなと言われていた」


 おのれ、フェルナンド……


「解体しろ! グリム!」


 ルージュが指示する。


 タイマーを止めるラインさえ分かれば。


 ■状態検知

 構成 

 ・感応板:品質【〇】精度【〇】感度【〇】

 ・機械式時計:品質【△】精度【△】状態【△】

 ・雷管:品質【〇】威力【△】状態【〇】

 ・ライン:品質【〇】精度【〇】状態【〇】

 ・魔力モーター:精度【△】反応【〇】状態【△】

 ・水:品質【△】状態【△】純度【〇】

 ・粘土:状態【〇】品質【〇】密度【〇】

 ・リン:状態【△】品質【〇】純度【△】

 ・ガラス管:状態【〇】品質【〇】強度【△】

 ・乾燥剤:状態【△】品質【〇】

 

 

 専門外過ぎて全容が分からない。

 だが、この機械式時計と雷管の間にあるラインを切断すれば。

 いや……なら魔力モーターは何だ?

 この寸法と形。構造はシンプルなはず。考えられる組み合わせは……

 魔力モーターを使った遠心分離、それを感応板で動かすことで水とリンを分離? リンの純度が低いということは化合物か? いや、とにかくラインをいじれば感応板から奴の魔力が断たれ、遠心分離が止まり、リンの化合物と水が反応して起爆。リンの化合物を安定……いや、乾燥剤がある。かなり不安定、湿気だけでも起爆の恐れがある。ならおれが魔力を流して……いや、魔力モーターの回転次第ではガラス管が割れ、水が漏れる構造かもしれない。本人以外には安定させられない。


 つまり、この爆弾は止められない。


「みんな伏せて!!」


『重力場シールド』で男を囲った。


「ギア無しの魔法ごときで防げはしない。最後にお前たちの恐怖で引きつる顔が見られてよかったよ。じゃあな」


 爆弾が爆発した。


 その爆発で手習い所の館が吹き飛んだ。




「グリム、どうやった?」


 目を覚ましたのは医局のベッドの上。

 幸いかすり傷程度で済んだようだ。

 みんなも無事だ。ベッドの上だけど重傷者はいない。


「シールドをVの字に傾けて、上空へ爆風を逃がしました」


 スラスターの火力をコントロールする過程で得た知見、成形炸薬効果を応用した。爆風と衝撃波は下から上へ集束される。


「さすがだな。助かった」

「いえ……」

 

 やってくれたな。前哨戦のつもりだろうが、一歩間違えれば手習い所の子供たちも死んでいた。

 目的の人間を始末できれば誰が死のうと構わないっていうのか……


 ああ、お前はそういうやつだったな、フェルナンド。


 いいだろう。

 おれも初めから正面切って戦う気はない。


「マリアさん」

「ええ」

「一緒に死んでくれますか?」

「いいわよ」


 フェルナンドはマリアさんが目障りだから殺そうとした。だがおれは殺したくなかった。


 お前の望み通りにはいかないと示そう。




 その日の地元新聞に基地で爆発事故が起きたと載った。

そこには死者4名と書かれた。 

 

 身元不明者1名。

 スタキア人1名。

 先端技術開発所ウェールランド支部所属、顧問官マリア、支部長グリム。


 3日後、その記事は帝国中の新聞に載った。


 おれとマリアさんとマクベス君はその記事を緩衝地帯にある無人観測所で読んでいた。

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― 新着の感想 ―
マリアの存在がバレてしまったか、おのれフェルナンド厄介なやつだな
いよいよか… ドキドキしながら読んでます!(^o^)
マリア様の正体に気づくなんて、流石の主人公補正直感力
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