8.悪逆皇女
15歳になった。
もう、タイムリミットまで3年しかない。
だが、おれも進歩している。
「ここが、帝都……」
ここはウェールランドではない。
おれはついに植民地から帝国へとやってきた。
「はは、完全にお上りさんだなぁ」
「フフ、ここで驚いていたら身が持ちませんわよ?」
「はい、メアリー先生」
司令官の奥さんであるメアリー夫人の一時帰国に合わせ、おれは帝国へやって来た。
同行者兼護衛はフリードマン。
入学試験を受けるためだ。
「おい、ウェール人だ」
「未開人が、いっちょ前にまともな格好してるぜ」
「気をつけろ。関わらない方がいい」
列車で帝都駅に到着するなり、白い眼で見られた。
「帝国でも帝都では珍しいのよ。気にしないで。私と一緒なら大丈夫ですわ」
「はい、すいません先生」
駅から馬車で数分。
郊外にある、軍兵学校へと到着した。
「何か御用ですかな、ご婦人」
「彼が今期の試験に応募しているので、手続きをお願いたしますわ」
「試験って……ウェール人じゃないですか」
受付から揉めた。
「彼はれっきとした名誉市民です。お疑いなのかしら?」
「ご婦人のことは疑っておりませんが……試験会場での動揺や騒動につながる恐れがありますので」
「おい、事前に審査は通っているはずだぞ!!」
「あ、貴方は?」
「ウェールランド基地所属、フリードマン少佐だ」
「あ、貴方が!?」
フリードマンは今や少佐。
帝都でもかなり有名のようだ。
「何か、手違いがあったのでしょう。ウェール人を兵学校に通わせるわけには……」
「夫はウェールランド駐屯基地の司令官、ダグラス・オースト少将です。それに、ロイエン伯爵からの推薦状もありますのよ!!」
先生が書類を見せるが受付の男は取り合わない。
「ご婦人、こういった圧力は問題ですよ。試験に合格させろとでも?」
「ち、違います! 試験を受けさせて欲しいだけですわ!!」
「おい、責任者誰だ! 呼んでこい!」
「ウェール人が兵学校の試験を合格できるはずがない。それなのに、貴族の名を出して試験を受けさせろというのは、忖度を要求しているようなものです! ここは帝国だ。植民地ではそのやり方が通用するのかもしれないが、実力で勝負できないものは軍には無用!! そちらのパフォーマンスにこちらを巻き込まないでいただけますか!」
少佐と先生がかけ合ってくれたが、受付で突っぱねられた。
「まぁ!! まぁ、まぁ、なんてことかしら!!」
メアリー先生はぷりぷりとご立腹だ。
当たり前か。
属州の人々のためにと良心に訴え、票や資金を集める政治屋のロビー活動だと思われたらしい。
おかしい。
「変だな。グリムの書類申請は通っているはずだ。クライトン家とロイエン卿の計らいもあった人間を追い返すなんていくら何でも……」
「あの受付の方がいない間にもう一度―――」
「いい加減諦めなさいな」
おれたちが入口で悶々としていると馬車から声がかけられた。
窓が開き、紅い眼をした少女がこちらを見下ろしている。
「蛮人が栄えある帝国軍兵学校に入ろうとするだなんておこがましいわ。それもこの私が入学する年に来るだなんて」
「あ、貴女様はまさか……」
メアリー先生が目を見開いて、膝を着いた。
フリードマンとおれもすぐに思い至った。
彼女は皇帝の数人いる皇女の一人。
『串刺し皇女』ルージュの妹であり、第三皇女。
『悪逆皇女』のスカーレット。