92.新型ギア製造
前話91「真実と距離」の前半を1000文字程度加筆修正しました。
表向きの仕事の合間に新型の製造に入った。
大体、朝から働いて、昼に働き、夜から明け方まで働く感じだ。
だからおれは事前にドークス達みんなに伝えた。
「おめでとうございます、皆さん。これからずっとギアのお仕事三昧。この世で最高の仕事をして、なんと給料まででます」
「グリム、人間は丸一日動けるようにできてねぇってのは知ってるか?」
騙されなかった。
そこで、スカーレット姫を引っ張ってきた。事情を察した姫。
「みんな、無理を言ってごめんなさい」
姫は真摯に整備班の一人一人に対話をした。
「どうか、みんなの力を貸して」
敬意の籠った言葉だった。
そのまっすぐな言葉に整備班たちが雄叫びで応えた。
「みなさん、この計画が終わるまでは抜け出せません。倒れても起こしますのでそのつもりで」
おれには怒号が返ってきた。
◇
作業はまず『ハイグロウ』の解体から。
「各部のアクチュエータの見直しを図るので、慎重に。摩耗したアブソーバは全とっかえ。常にカウンターウェイトのトルクを記録して、均衡を維持したまま……おっとこれはひどいな」
激戦の末、動力炉が焼き付いてしまった。
シリンダーヘッドの焦げ付き、バルブもだいぶやられている。
そのデータは無駄にはしない。
余すところなく、次の『アリアドネ』へとつなげる。
「姫の『カスタムグロウ』から汎用型インナーフレームを移植します。手順の確認を」
単純に一機新造するより大がかりな作業となる。
身体に馴染んだインナーフレームを活かすことで新型への適合率を初めから上げる狙いだ。
「さてと……」
『ハイグロウ』と『カスタムグロウ』以外に新造のパーツが山ほどある。
まずは『特殊対装甲ストリングス』。
主力武装である『FGタイプ05』製のワイヤーだ。
近距離でも打撃のように発射できるスラスター機構に対応し、中距離では鞭のような撓りで敵機を両断する。
「射出機構は『ムーブフィスト』とほぼ同じ設計なので簡単簡単!」
「どこがだ! おい、引退した兵装課のじじい共呼んで来い! 手に負えねぇ」
『アリアドネ』には当初これを一基搭載する予定だったが、姫の『クラスター』を用いた訓練での扱いが目覚ましく、興も乗ってしまい、たくさん搭載してしまった。
「4基はつけすぎだろ!」
「だってあったから……」
両腕、両脚に搭載した。
「全部搭載するな! 兵装の予備だったんだよ!!」
「確かに。これだけの『FGタイプ05』鋼材だけで、一体ギア何機分のお金が飛ぶんでしょうね?」
「そもそもなんでこんな特殊な鋼材がホイホイ手に入ってんだよ。なんで送られてくるんだよ」
マークスお坊ちゃんにおねだりした。
無論、タダではない。そういうのは友情関係にひびを入れかねない。
見返りとして、ダイダロス基幹を送った。
「兵装を内蔵する分、駆動系の衝撃吸収とミッション固定はハードにしますよ」
関節の強化と保護。
それにフレキシブルな体勢の両立。
これをしないと重量と動作の衝撃で関節部が捻じりきれる。
関節の動きを阻害しないよう強化しなければならない。
「簡単に言うけどな。これは効率化の問題だぜ。ってのは、つまるところパーツの品質に……」
「品質がなんですって?」
ドークスにちょうど特急便で届いた特別性のパーツを見せた。
「こ、これは!」
「基幹部品の強度、靭性は通常と比較になりません。どうです、元気が出るでしょう?」
「そりゃお前だけだ。だが、本当に耐久値が違うのか?」
ドークスが疑うので、シリンダー部品でテストした。
牽引力、衝撃吸収力、さらに、反応速度まで。
「通常部品の250%以上の品質ですね」
「いや、おかしいおかしい!! どうやった、教えろよ!!」
「ほら元気出たじゃないですか」
マークスにあげたダイダロス基幹を介し、おれが闇魔法で無重力化した状態をつくり、精錬を実施。
無重力化では金属の合成にむらが出ず完全な合成が可能となり、強度がはるかに上がる。
この無重力特殊加工を施した鋼材で、工業都市バスタの腕利き職人に作業を依頼しておいた。
「なんだ? ハイホルン社はお前に借金でもあんのか?」
「何を手を止めているんですか? 本番はここからです」
「なに?」
ギアの心臓部である動力炉。
バスタで得た最高品質のパーツを基に、組み立てる。
動力炉には品質以外にも個性が出る。
こればっかりはいくつか組み立て、実際に動かすしかない。
「本当に休ませる気ないな」
「ギアの動力炉に手を抜く技術者がいますか?」
「くぅ~、おい、野郎ども! 行くぞ! 最高の動力炉を見つけてやる!!」
その間も作業は進む。
外部兵装だ。
新造するギアにはそれぞれ、外部兵装を考案してある。
『アリアドネ』には重武装の『ファランクス』二門とその弾薬を満載した、外装フレーム『オーバーコート』をドッキングする。
「関節可動域を損なわないギリギリがいいんだ。微調整の算出頼むよ、グウェン」
「はいはい、えーっと……」
計算されつくした設計バランス。それを導き出す方程式はすでにフラーヴァの技術者ウィシュラからもらっている。
このギアの外装拡張思想は元々原作でグウェンが研究していた分野だ。
「魔力モーターと増幅基幹を『オーバーコート』にも搭載しましょっか」
いきなり原作と違うんだが。
「うん、機体制御にズレが出るよね」
「接続ラインの効率化は『クラスター』からパクって……あとはグリム君のスペシャル鋼材を使ったら伝達速度は速く安定するはずですよ」
「なら、プッシュ式接続は駄目だ。伝達強度を上げるならスクリュー式に固定して……なるほど、この動作は魔力モーターで自動化できるから、記録補助もか」
「疑似記録晶石ならありますよね?」
「あるよ。中程度だったらいくらでもある」
興が乗って、補助システムを満載にしてしまった。
ニトロタンクを二基搭載。
背後に視覚装置まで。
「え、グリム君、姫の火魔法を攻撃だけに使うんですか?」
「グ、グウェンまさか……」
「違いますよ、これは、緊急バランス調整機構で……」
背面に噴出機構だと?
そうだった。
奇行ばかり目立つから、忘れていた。
彼女はグウェン。
原作屈指の天才だった。どうしよっかな。グウェンも入れてあげよっかな。鉄の友の会。
「え~、じゃあ、おれも姫の魔力の使い方考えてるんだけど」
「グ、グリム君、まさか……?」
「違うよ。これは、緊急魔力分配システムで……」
ダイレクト信号通信だ。
ダイダロス基幹が無くても、姫の魔力を部隊に分配できる。
中継局が潰されても、これで姫の部隊は姫の魔力で動き続けられる。
フェルナンドが欲しそうな解をぶら下げることも忘れてはいけない。
「え~、だったらあの~、この記録装置のストックをこっちにリレーしてですね……」
「そ、そんな……記録補助を?」
「あくまで補助ですって。 簡易的な超絶技巧の模写をクレードルの信号解析を用いて……」
一週間後、できたのは凶悪な見た目の巨大なギアだった。
「よっしゃぁ、見つけたぞ! パワー優先、魔力かっ込みに最適な耐久力と安定性もある動力炉だ!!……」
動力炉作業班が絶句した。
「……なんか、設計図と違くねぇか?」
「ドークスさん、その設計図は敵の眼を欺くための、いわばブラフ。そして、敵を欺くためにはまず味方から。まぁ、兵法ってやつですね」
「嘘つけ!! 調子に乗って設計してないもんをホイホイ追加したな!!」
「ひぃ、ごめんなさい。グウェンがやれって」
「えぇー!! またこのパターンだ!! 私はグリム君に言われたとおりに!! 言うがままに!!」
何はともあれ、機体は完成した。
「みなさん、これがスカーレット姫の専用機。支援特化型指揮官機、『アリアドネ』です」
みんなが歓声を上げて祝った。