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7.5.メアリー

 

 天才。


 これまでの人生で見てきたどの天才とも彼は違いましたわ。


 文字を書かせればすぐに習得し、かと思ったら本を読み、計算を覚えていましたのよ。


 大抵のことは一度見ればできてしまう。

 他の子がじっと机に座っていることも難しい中、彼は一日中でも集中し続ける。



「グリム君、良くできてますわ」

「ありがとうございます」



 それが当たり前かのように褒めても喜びもしない。

 少し、不気味な子という印象でしたわ。



 私は夫と共にウェールランドに赴き、教師をしてきました。基地内の他のご家族の御子様はもちろん、ウェール人の子供たちへの配給と簡単な読み書きを教える私塾をしてましたの。



 ですからウェール人の子供とも良く接していましたわ。

 その私から見て、彼は異質でした。

 困ることも。


「『オーム』のボディに使われている特殊防錆塗装の鮮やかな黄色の髪に、ゴーレム合金についた錆のような青い瞳、まるで旧型マイナーチェンジを繰り返して軽量、最適化されたような、女性」

「なんですの、その化け物は?」

「メアリー先生」

「あなたには私がどう見えてますの!?」



 人物の総評や社交の場での常とう句を教えても、グリム君の表現は独特で、よく分からない言い回しをしてました。



 グリム語ですわね。



 ですがそれ以外は優秀そのもの。

 まず言葉遣い。

 彼の周りには彼のような丁寧な話し方をする方はあまりいなかったはず。一体だれを手本にしたのか。

 行儀、作法。

 これは一朝一夕で身に付くものではありませんわ。


 歩く、座るだけでも、頭の先からつま先まで、自然に振舞いながら礼節を感じさせる動き。


 極めつけは食事。

 食べ方が美しい。

 手づかみで食べる子もいますのに。


 魚料理を出したとき、彼はキレイに食べました。

 基本的に器用で賢い。


 私はグリム君を配給と私塾へ連れていくことにしましたわ。

 彼が手本になるように。



「これはおれの飯だ!!」

「てめぇ、横入りすんじゃねぇ!!」


 その日は特に荒れた日でしたわ。

 軍人もいるので私たちに危害が加えられることはありませんが、住民同士の争いは日々絶えません。



「グリム君、下がってらして」



 その時、叫び声がして場が騒然となりました。


「お、お前が悪いんだ!」

「何をしている!! 動くな!!」



 原住民が他の原住民の方を刃物で刺すという事態に。

 辺りは血の海。軍人方が犯人を取り押さえようとしてそれに反発した人々が暴れはじめました。



「み、皆さん落ち着いて!」

「うるせぇ!! 帝国の女が!!」

「おれたちを見下してんじゃねぇ!!!」

「やっちまえ!!」


 憎悪は一気に膨れ上がり、その矛先がこちらに向きました。



 こういうことが起きると予期していなかったわけではありません。ですが、いざとなると身体が竦み、私は言葉を失いました。



「先生、どうします?」

「え?」



 グリム君が私の服を引っ張って指をさしました。



「逃げるか、あの人を助けるか」



 そんな選択肢があるなんて私には思いもよりませんでしたわ。

 逃げて隠れる場所は無く、刺された方は暴動の渦の中心。


「ぼくは『加重』が使えます。10秒。それで、逃げてもいいですし、あの人を助けるでもいいです。でも、あの人をもし助けられなかったら……」


 こわばっていた私の身体はとっさに暴動の方へと向かいました。



「その方を看させて下さい!! 助かるかもしれませんわ!!」



 グリム君が魔法を使いました。

 本当に暴動が止まりました。


「グリム君、君は逃げなさい」

「手伝いますよ」



 腹部を刺されていながら幸い動脈や内臓は無事でした。

 グリム君は的確にその場で必要なものを見つけて用意してくれました。おかげで傷の消毒と閉塞ができました。



「そ、そいつ生きんのか?」

「あんた……襲われたのに助けてくれたのか……」

「なんで、そこまでするんだ?」


「分かりませんわ。ただ、助けたいと願うだけでは何も変わりませんから」



 そう気が付かせてくれたのは12歳の子供。



「うぉぉ!! アンタは天使だ!!」

「女神さまだ!!!」

「ありがたやー!!!」

「え?」



 私は硬直しておりました。

 誰よりも早く行動に移したのは彼。

 そして、実行するだけの能力がありましたわ。



「救われたのは私の方です」



 本当に。


 グリム君はその日から私の希望となりました。

 助け合えることが当たり前になる。そんな日が来るという証。



「妻を助けてくれたと聞いた。グリム君、ありがとう」

「さぁ、グリム君、お礼にグリム君の好きなものたくさん作りましたのよ」

「あ、はい」



 その日以来、食卓には彼も同席するようにしました。


「グリム君が、本当に息子だったらよかったのに」

「こらこら、勝手に養子にしたらベネディクトに眼をつけられるぞ」

「裏じゃ呼び捨てなんですね」

「あ、言うなよ」

「もう、グリム君はそんな小さなことしませんわ」

「だが、なぜメアリーに医術の心得があるとわかったんだ?」

「心得は知りませんが、先生は【回復タイプ】なので」



 でましたわ。グリム語ですわね。



 あの一件以来暴動は起きず、配給の時もとても和やかで、みなさん助け合って下さいました。



「おう、メアリー先生様を困らせんなよ! おれの命の恩人だぞ! おい、そこ、横入りすんなよ!! 並べ!!」

「子供は先に」

「うんうん、そうだよね、グリム君!! おう、子供はいいんだよ!! 先に食わせてやれよ!!」



 グリム君はあれ以来ずっと配給に付いてきてくれて、皆さんからも人気に。

 彼の姿はいいお手本になりましたわ。



 それから三年。


 旅立ちの時はあっという間でしたわ。




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― 新着の感想 ―
今の所軍人も貴族も良い人しか居ないし植民地の平民の為に配給もしてるしでとても圧政をしてるとは思えないんだけどほんとに圧政を敷いてるのか?
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