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83.5 コーディ・アルサロス

 


 私は軍事工学応用研究所の所長だった。


 財と権力を有し、間違いなく中枢に位置していた。

 その私の転落の契機は、国家公認技師の試験で、ウェール人の採点を0点にしたこと。


 その責を負わされ、私は職を辞することとなった。

 いや、私はそれ以外にも部下の手柄で出世し、アイデアを盗み、天才と呼ばれる者たちを食い物にしてきた。

 そのツケは追放という形で、フェルナンド殿下によって払わされた。


 重なった罪の分、私は打ちのめされ、身を焼かれ、骨を折られ、放りだされた。


 北限の地、属州ウィヴィラ。

 極寒の地で裸同然で放り出された私は、憎しみを糧に返り咲く気でいた。


 それも三日と持たなかった。


 寒さと身体の傷と、飢え。

 生き地獄にいた私は、品性を捨て、獣に堕ちた。


 物を乞い、盗み、草でもゴミでも食べた。

 そんな私を人間として扱ってくれたのはウィヴィラ教だった。


「大丈夫です。天はあなたに大きな役目をお与えになったのです」



 彼らは敵である私を手当てし、食事を分け、寝床を与えた。



 彼らの中で生きていくうち、私は目を開かされた。

 私は愚かで、下劣だった。

 人を蔑み、己を強者と偽っていた。


 私は己を恥じた。

 本当に尊いものは、金でも権力でもない。

 他人を慈しむ心なのだと。


 私は知識の限り、ウィヴィラの民に力を貸した。

 

 試練による変化こそ、私と同じく下劣で愚かな帝国の間違いを正せる。それが、私の償いと悟った。


 私はギアの弱点を広め、この北限域という土地を活用した戦略を提供し、車両を改造した。

 雪に脚を取られるギアに対し、滑走することで機動性を獲得し、対抗できると考えた。


 

 しかし、私の考えなどギアの圧倒的力の前には付け焼刃に過ぎなかった。


 ギアが必要だ。それも、高性能で民兵が乗りこなせるギアが……



 私は頭を悩ませた。つくづく私は凡庸な人間だったのだと自覚させられた。


 あのグリム・フィリオンならば、この状況を逆転させられたであろう。

 彼が帝国ではなくウェールランドの民のため立ち上がっていれば……いや、そうなれば、私はのうのうと生き、帝国で間違い続けていたに違いない。


 私は、天に祈る時間が増えた。


 一年が過ぎたころだった。

 他の地域のグループから接触があった。



「ギアを手に入れたですと?」


 仲間と共に訪れると、そこにはギアが並んでいた。


「これほどの数をどうやって?」

「無論、天のお導きでございます」


 しかも、単なる廃棄品ではない。

 新品に特殊な改造まで施していた。

 先端技術の全てを把握していた私ですら、未知の領域だ。


 そのギアはガーゴイルを圧倒した。


「これほどの機士がウィヴィラにいたとは……」

「ただの元民兵です。それに神官や、農民。基礎訓練を経たに過ぎません」

「ば、馬鹿な……」



 一機がそれぞれ、専用機レベルの性能を発揮する。


 その力の源はシンプルだった。


 ガーゴイルの増幅基幹をそのまま搭載していたのだ。確かにこれなら最小の魔力で長時間の大出力が可能だ。

 だが、これは模造ギアと同じ。


 精神的汚染は必至だ。


 私の懸念をよそに、纏手たちの言動にその気配は見られない。


「まさか、ガーゴイルの精神汚染を中和できているのか?」


 ギアにまつわる軍事工学的知識はもとより、魔法的な研究、さらにはガーゴイル研究の先端を走っていた。


 これだけの技術と知識があるとは。こんなことができる人間を私は二人しか知らない。


 私は天の存在を確信した。



「眼は開いたようだね、コーディ」



 その方は私の前に現れた。


 私は歓喜で、涙が止まらなかった。



「フェルナンド殿下……」



 皇族でありながら、この私の愚かさを正すため殿下は試練をお与えになった。

 そして、再び、この地で出会えたのだ。

 これが天の導きでなく、何だというのだ。


「私は真に帝国を救いたい。協力してくれるかい?」

「痛みは救い。苦しみは天の導き。帝国は一度、痛みを知るべきです。そのために私がお役に立てましたら」



 私はあらん限りの知識と技術で、ギアの整備に参加した。雪に適応した脚部滑走アタッチメントを開発し、ギアの雪上での機動性を獲得することに成功した。

 

 だが、試練はそこからだった。


 アジトが地方行政府に嗅ぎつけられ襲撃を受けた。


「なぜここが!?」

「バレるわけないのに!」

「逃げろ! 皆、逃げるんだ!!」

「いいや。違う。これからは、戦うんだ」



 フェルナンド殿下の言葉に、皆が勇気を奮いたてた。

 ここで、敵兵力を掃討しなければ全てが水の泡。

 それでも殿下は留まった。


 その想いに、皆が応えた。


 ギアとの戦闘経験に乏しい仲間たちは、苦戦を強いられた。

 彼らは機体性能に頼ったストレート型の戦法しかできない。

 それを察して、敵はカットバック型のターン技とステップワークで翻弄し、隊列を組んできた。


 その中核を担う一機が仲間をフォローし無類の強さを誇る。

 軍エース級の機士がいる。


 超絶技巧『クイックターン』からの両手剣の突き技。


 動きの緩急が強すぎて、眼で追うことすらできない。


 機体性能が上回っていても、超絶技巧で覆される。



「殿下……」

「この戦場に足りない最後のピースが分かるかな?」

「足りないピース……?」

「希望だよ」



 見知らぬギアが一機、突如として現れた。


 その白銀の美しいギアは、敵グロウ系ギアを瞬く間に粉砕した。

 聞いたことの無い静かな動力炉の音だ。

 敵エース級ギアが繰り出した高機動技に難なくついて行く。

 いや、通常動作で超絶技巧の猛威を掻い潜っていた。


 凍てつく冷気の中に消えた二機は、激しく火花を散らす。

 姿は見えず、動力炉の音は一機分しか聞こえない。


 不意に激しい戦闘音が響いた。


 やがて、冷気の霧が晴れると、そこには氷漬けにされ、氷柱で貫かれたギアがあった。


 白銀のギアはその身に一切傷を負っていない。


 それはギアの設計思想から大きく外れたものだった。


 そのシルエットには動力炉が入る余地がない。

 人間的なボディラインを形成し、生物のような滑らかな動きをする。

 一体動力源は何だ?

 アクチェーターは如何にして動作している?

 あれだけの氷魔法を使い続け、奪った熱はどこに?

 

 いや果たしてこれはギアなのか?

 私にはそれが定義できなかった。

 しかし、技術者として不明なそれを理解する目を私はこの地で得たのだ。

 



 これこそ、奇跡の御業。

 

 フェルナンド殿下は、ギア創造の立役者ガウスを超えられた。

 この御方こそ、この世をお救い下さる天の御遣いであらせられるに違いない。

 ウィヴィラの民とともに、膝を突き、その白銀の纏手と殿下に祈った。


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― 新着の感想 ―
こいつもう出ないと思ってたのにまさかの再登場かよ。 精神汚染を中和出来てるなんてそんな都合のいい話あるの〜?どうせ一時的とか最初だけとかじゃない? 目が開くってヴィーガンとかフェミニストとか反ワク…
原作での主力を先手を打ったクリムにことごとく奪われたから、今は別の人物達で穴補ってるんだな。
原作のチームとはマクベスとマーヴェリック少尉が入れ替わったのかな? マクベスは確実に逆サイドになったけど、マーヴェリック少尉は原作ではどのタイミングで帝国側になっていたのか今の所わからないので何とも言…
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