82.最恐のドライバー
81、最恐のドライバーを改稿し、『80.5 スカーレット IV』『81.事情聴取』『82.最恐のドライバー』へ内容を加筆修正して投稿しております。
『クーガー』
二人乗りのごつい足回りをしたオフロード車。
ベースになっているのは移動用の軍用装甲車だ。
特に悪路でも進めるよう足回りが強化されている。ギアの関節サスペンションを参考にしたようだ。
「どうよ」
「正直、これでガーゴイルを討伐できたとは信じられません」
技術者たちの空気がピリ着いた。でも、忖度はしない。
「言うじゃねぇか。だが、その通りだ。いくら速く改造したところで、乗りこなせる奴がいなきゃ意味ねぇからな。討伐の時乗ってたのはあんな三流貴族のボンじゃなく、本物の機士だった」
「なるほど。でも、今回のテーマは機士以外でもガーゴイルを討伐できるようにですからね」
「そんなこと可能なのか?」
可能ではない。
ギアより高性能のマシンを要求されているのと変わらない。
原作の『ギア×マジック』に『クーガー』なんてマシンは無い。
というか、ギアに代わる対抗手段など存在しない。
「やるなら、勝負に勝って試合に負ける感じですかね」
「あ?」
「要するに、『クーガー』の実用性を証明さえすればいいんです。なら、ガーゴイルを倒すことに固執する必要はない」
「おう……」
「例えば……」
整備班と設計班と共に、『クーガー』の可能性を模索した。
支援機としての道を。
そうして三日が経った頃だった。
「誰だ、おい!」
「いや、ドライバーは全員ここに」
「何だと? そいつを止めろ!」
走行テスト場のコースを『クーガー』が一斉に走り出す。
一車を追っているようだ。
しかし、猛追するその他との距離はぐんぐん開き、コーナーでさらに差が開いた。
上手いな。
「いるじゃないですか、マシンを扱える人」
「いや、心当たりねぇが……」
そのクーガーはまるで感触を確かめるように走った後、こちらに戻ってきた。
「貴様、どこの部隊だ!! 名を名乗れ!!」
彼女は車体から降りると、呼び止めた軍人を無視しておれの首に手を回した。
「こんな玩具に夢中になって。私より大事なの?」
「えぇー、なんで!?」
歓喜と恐怖と共に首が締まっていく。
重力魔法で逃れようにも、いい香りがして引きはがせない。
まさに天国と地獄。
予定調和をぶっ壊すそのイレギュラーはおれの疑問に答えた。
「遅いから迎えに来ちゃったわ。ねえ、うれしい?」
「は、はいー! とっても!」
「そう、良かった。私はお前が、遅いから、ここに居る……この意味がわかるな?」
「えぇーっと。ぼくのことが気に入っていると?」
首が締まっていく。
「ギアを早く造れ……と」
首が解放された。
「ふふん、いい子ね。さぁ、こんな玩具で遊んでないで、早く私の新専用機を造って、ねぇ?」
「ですが、殿下。今はギアの存続が……」
「冗談だ。マリアから聞いている。スカーレットが兵学校の代表らしいな。だから私がこの玩具で出てやろう」
「いえ、殿下、その……ドライバーは機士以外からという前提条件がございますので」
「グリム、お前は時々本当に馬鹿だな」
「いえ、そこそこ天才のはずなんですが」
「ヘラーは機体の有用性さえ示せればいい。あの軟弱者たちを出して計画が立ち消えるより良いだろう?」
マリアさんは試すなら、本気で試したいわけだ。
妹がこの戦いに加わる資格があるのかどうか。
皇族として、意志を託すに値するのか。
そして、妹の前に立ちふさがる、帝国最強の機士。
大人気ないお姉ちゃんたちだな。
「手を抜くなよ、グリム」
「それは、無論です」
おれも人のことは言えないか。
コンセプトはギアの支援機。
ガーゴイルの誘導と足止めさえできればいい。
メカニックとドライバーが話し合う。
「もっと、速くしろ。敵を翻弄して引き付ける機動性が要る」
まず、ルージュ殿下のスペックに見合う速さ。
車体の重量を減らすことから始まった。
座席を減らし、兵器を減らし、無駄をなくしていった。
「ある程度のパワーは要るだろ。支援機なら、例えばギアを運ぶとか。実用性を無視してはいかん」
用途の方向性から求められたのは汎用性。
地形や天候の影響をものともしないタフさを追求する。
軽量金属と特殊ポリマーの二層構造でボディをつくり、タイヤは特許技術を駆使して特別頑丈なものにした。
「支援機は、主力兵器がピンチの時さっそうと援護してくれるのが定番。装備のバリエーションによって個性を出したいですね」
「……」
「……」
皆にはいまいちピンと来ていなかったが平気だ。
特殊兵装を搭載した。
機械兵器が嫌がる、兵器だ。
「よし、できた!」
1週間後。
新たな『クーガー』が完成した。
これにスカーレット姫が勝てばギア不要論は吹き飛ぶだろう。
いや、これに勝てるか……?
◇
会議から二週間後。
対戦当日。
『クーガー・カレラ』で兵学校に現れたルージュに一同が騒然とした。
「お、お姉さま!」
スカーレットが口元を押さえて紅潮する。
好きなアイドルを見つけたみたいな顔だ。
君の姉だよ。
「スカーレット、相手は私だ」
「ルージュお姉さまが?」
おおう、睨みよる。
「そこまでして勝ちに来るなんて。グリム、この裏切り者!」
「まぁまぁ、姫。この勝負に勝ったらぼくがどんな願いも一つだけ叶えて差し上げますから」
「本当に? ガーゴイルのいない世界にして下さいな!」
「勝ってから言いましょうね」
「此度、機士の代表はお前だスカーレット。敗ければお前は全てを失う。機士としての未来、信頼、グリムとの約束。全てだ。全てを賭ける覚悟をしなさい」
沈黙するスカーレット。
だが、彼女の後ろには仲間がいる。
「やってやりましょう、殿下!」
兵学校の訓練生たちが応援する。
「また、馴れ合いか」
「いいえ、お姉様。これは馴れ合いではありません。『結束』ですわ」
「フン、言うようになったわね」
「私は勝って全てを護る。覚悟しておきなさい、グリム!!」
「楽しみです、姫」
対戦が始まった。
兵学校のレース場で、両機が対峙し、そして動き出す。