7.実力主義
12歳。市民権を得たおれは嘱託職員として基地に勤務することになった。
何が今までと違うのかというと、職員用の宿舎に住めるということ。さらば廃屋。
そして、基地内の学校で教育を受けられるようになった。
基地内には軍人の家族もいて、その子供のための学校がある。この世界で一切教育を受けてこなかったおれはサインをするとき手こずって笑われてしまい、結構傷ついた。それを見た司令官の厚意で、仕事時間に通う許可をもらった。
「グリム君、もうすっかり文字は書けてますわ。とっても優秀です」
「ありがとうございます」
「では次は、歌のレッスンですのよ」
ちなみに先生は司令官の奥さん。
貴族の御令嬢。
なので、文字や基礎教養だけではなく、礼儀作法や歌や踊りまで仕込んでこようとするので少し困る。
「こらこら、メアリー。グリムをどうする気だ?」
「あらあなた。グリム君はとっても覚えが良いのよ。だから社交界で恥をかかない紳士に教育しているのよ」
「程々にな。グリムは整備士か開発者になるんだろう?」
「いずれにせよ、ぼくは一般市民なので、社交とは縁がないかと」
「まぁ、何をおっしゃるの? 皇帝直々に市民権をお与えになったのでしょう? ロイエン卿の後ろ盾もありますし……そうだわ。うちに養子にくれば」
「すまんな、グリム。このお節介なおばさんはこちらで受け持つ。ただちに退避せよ」
「了解!」
「ああ、グリム君! お夕飯には戻ってくるのよ!!」
おれには目標がある。
市民権を得たおれは軍管轄の国家資格である国家公認技師の資格試験を受けられる。
整備士の資格ならここでも取れるが、技師にならねば研究開発はできない。
そのために、まず軍兵学校に入り、軍事工学を学ぶ。
入学試験は筆記と実技。
筆記も大変だがおれには実技の方が課題が多い。
「おーい遅かったじゃねぇか」
「すいません、先生に捕まってまして」
「おれのことは先生なんて言うなよ? 教官だ」
「はい、フリードマン教官」
基礎トレーニング。
剣や銃の扱いなどを学ぶ。
「はぁ~、お前ってやつはフィジカルはからっきしだな」
「はい……」
我ながら才能を感じない。
普段から魔法で体力を節約しているから、基礎体力が無い。
『反重力』で身体を軽くしていたのをやめるとやたらと疲れる。おかげでメアリー先生やソリアの料理が美味くてしかたない。
「魔法は結構いい線いってる。そこを評価してもらえればいいが、実技試験の内容は毎年変わるからな」
仕事に勉強、トレーニング。
それ以外にもやることがある。
実験だ。
重力系の魔法をギアが増幅する過程を、他のギアにも搭載して扱えるようにする。
おれが使う魔法を兵器化する、そのための実験だ。
兵学校に入ってから始めては遅い。
一から魔法を物体に組み込むために、徹底的にギアとガーゴイルの素材を分析した。
魔法は信号として『記録晶石』に記録される。魔力が通ることで、特定の信号が発生し、それが魔法として発動する。
ガーゴイルの『記録晶石』を手本に、人工的に何も記録されていない『記録晶石』を造る。
金属とガーゴイルの血液、それに植物(無生物)に内包される純粋な晶石。
それらを加工することで『疑似記録小晶石』を造る。
小指の先ほどの小さな石ばかりだが実験なら問題ない。
大きいサイズはいずれ手に入るだろう。
『反重力』の作用、対象、強弱、持続時間を変えて試行錯誤を繰り返す。
これが難しい。
強すぎれば急激な重力の変化で人体に異常をもたらす。弱ければ浮かせられない。
とにかく数をこなして成功例を出すしかない。
「よし、【ケース68】、実験開始」