6・5 テスタロッサ
ウェールランド駐屯基地。
数年前の評価ではB。
司令官は有能だが、やや道義心に篤すぎる。
兵士の質は並。特筆するべき機士はいない。
そのはずだった。
カルカド要塞の奇跡。
データを見れば、一目瞭然。
三名の機士の働き。
情報担当官からの報告は興味深かった。
フリードマン大尉の接敵後討伐成功率は実に95パーセント。平均の3倍。標的をほぼ確実に討伐している。近距離機乗力【8/10】は皇族の親衛隊、その隊長クラスだ。属州駐屯軍の大尉は階級が低すぎる。
ソリア中尉の攻撃命中率は85パーセント。これはルージュ皇女殿下と同等の数字。さらに回避率72パーセント。接敵してこの数字ということは恐ろしく素早い。
クラウス少尉の狙撃成功率は98パーセント。
弾を無駄にしていない。常時駆動するギアは振動し続けている。その中で制動を完璧に制御するのは超絶技巧の一種。なんと優秀な兵士か。
皇室機士並みの働き。それも量産型ギアで。
この三人、一兵士としておくにはもったいない。
「テスタロッサ。貴族がうるさい。ウェールランドへ査察に行け」
3人に注目していた私に宰相閣下である第一皇女クラウディアは別の命令をしてきた。
「貴族のたわごとなど、情報部が聞く必要は」
「陛下からのご命令だ」
「皇帝陛下の、でございますか?」
「有能な人物がいるそうだ」
皇帝のサイン入りの書簡が2枚。
「グリム・フィリオン……?」
陛下が気にかけるほどの人物。
その名には見覚えがあった。
取り寄せた膨大な書類にある三人の共通点。
三人とも整備担当が同一人物。
12歳のウェール人。
後見人としてベネディクト・ロイエン伯爵。
「陛下は情報官の素質がありますね」
◇
実際に出会い、陛下が気に掛けた理由が分かった。
私と同じ分析型スキルの持ち主だ。
人には魔力がある。
一部の者に魔法を使う才が宿る。
さらに限られた者に、スキルが発現する。
スキルには身体強化、感覚強化、回復などに加え、物体、人物などの特定情報を読み取る分析型がある。
この分析型は他より希少だ。
一種の超能力とされる。
人によりその分析対象は変わる。
「君、分析スキル持っているだろう?」
グリム君は私の指摘でぼろを出した。
分析スキルを持っていることは確定。
「機体の改造レベルが高く、君の整備士の素質は高い。これをやったのは君だろう?」
私が機体性能とグリム君の適性を言い当てたら否定していなかった。
私に機体の改造度合いなど分かるわけがない。
人の才覚を見抜くこともできない。
私が分析で分かるのは相手の『警戒度』だ。話すことで揺さぶれば嘘もわかる。
私と話している最中、彼の『警戒度』は異常に上がっていた。
彼は機体性能も人物の適性も分析できるということ。
これは驚異的なことだ。
物体の性能を推し量る能力と、人物の才覚や能力値を概算する能力は全くの別物。
彼はその両方ができる。
それがあのギアと機士の相乗効果を生んだ。
大した子だ。
能力があるからじゃない。
その力を何に使ったかが大事だ。
彼はギアの改造が違法だと分かっていた。
それでもやった。
そうすることで戦果が変わる。自分には変えられるという自信があったのだろう。
そして、リスクを負ってもやるべきと考え実行する。
覚悟が要るはずだ。大人でも難しい覚悟が。
ひょっとしたら、皇帝陛下はその覚悟を見抜いておられたのかもしれない。
あのお方も分析型スキルをお持ちのようだから。