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0.1クール終幕



 絶対的力を持つガイナ帝国。

 その支配に抵抗する反乱勢力。

 彼らは当初、ガイナ帝国の圧倒的軍事力を前に成す術なく敗れていた。


 しかし、ある時からその力関係に変化が起きた。


 反乱勢力は帝国が開発した革命的機械式甲冑である『駆動装甲機(ギア)』を使い始めた。

 戦況は膠着し、反乱勢力はついに帝国随一の『ギア』使いである皇女を追い詰めた。



『まさか、ここまで手こずるとは思わなかったよ。さすがは姉さんだ』

『フェルナンド、貴様……』

『ごめんよ。ルージュ姉さん』


 反乱勢力の指揮をしていたのはガイナ帝国の皇子、フェルナンドだった。

 彼は帝国の圧政から植民地の人々を解放するために立ち上がった。


『な、なぜだ? どうして……』

『父上の私利私欲のために苦しんでいる人々がいる。だから、ぼくはぼくの責任を果たすためにここにいる』

『違う! フェルナンド!』

『命乞いかい? 姉さんらしくないな。姉さんさえいなければ、東部方面軍は瓦解する。他の属州も立ち上がる。ごめん、大義のために死んでくれ』



 ルージュは反乱勢力に囲まれた。孤立無援、単騎。まんまと誘い込まれた。

 属州民を脅かす悪女討つべしと、数十機の『ギア』から弾が発射される。



『卑怯な……このルージュを正々堂々討ち取ろうという機士はおらぬのか!!!』

『無駄だよ。あなたの武勇は良く知っている。『串刺し皇女』』

『まさか……こんな……』


 数十機の『ギア』に囲まれた彼女に活路は無い。


 戦略、武力でルージュを圧倒したフェルナンド。

 彼は姉を手にかけた。

 ここから、フェルナンドの真の戦いが始まる―――


 確かこんな話だった。



 おれは記憶を辿り、好きだったアニメのストーリーを思い返す。


『ギア×マジック』

 その1クールのラストシーン。 

 勝ち誇る主人公フェルナンド。

 追い詰められるルージュ。

 今まさに、おれの前であのシーンが繰り広げられていた。


「まさか、ここまで手こずるとは思わなかったよ。さすがは姉さんだ」

「フェルナンド、貴様……」

「ごめんよ。ルージュ姉さん、大義のために死んでくれ。『串刺し皇女』に近づくな。遠距離から攻撃しろ」


 ルージュのギアは吹き荒れる弾丸の雨の中、傷一つついていない。


「銃弾が逸れていく?」


 重力シールドで弾丸を曲げている。


「ば、馬鹿な。50ミリACPR弾だぞ」


 異変に気付いたギアが一機、突如はじけ飛ぶ。


「何だ、この威力は?」

「ギアが一撃で……どこからだ!?」

「射程外からの超長距離魔法攻撃だ!! 逃げろ! 狙い撃ちにされるぞ!!」


 驚きを隠せない敵軍。

 それもそうだろう。

超重力爆撃砲(ファウスト)』はまだこの時点では開発されていない。


 原作では。



「まさか、ここまでとは。グリム、お前の言う通りだった」



 ルージュから余裕が垣間見える。

 依然として敵軍の規模は数十倍だ。


「ええい!! 逃げるな!! 数はこちらが上だ。ルージュへ突撃せよ!!」



 彼は不測の事態でも嫌味なぐらい的確な判断をする。

 それは知っていた。



「たとえ最新機といえど、近接戦闘に持ち込めば……」


 近接戦はルージュの得意分野だ。

 機動性、反射性、パワーで敵のギアを圧倒。


「噂に違わぬ超絶技巧……!」

「くそっ、なぜ魔力切れにならん! 情報と違うではないか!!」

「あり得ない! あれがギアの動きなのか!!?」

「駄目だ!! 機体性能も機士の技量も違いすぎる!!」


 勝利を確信していたフェルナンドはルージュの思いがけない抵抗に面食らう。


「まさか、ここまでの隠し玉を用意しているとは―――退却する!!」



 この時を待っていた。



「フェルナンド皇子。ここまでです」

「誰だ?」

「あなたと同じ技師ですよ」

「……君か、グリム・フィリオン。やはり、君だったか……」


 おれはグリム・フィリオン。

 絶体絶命の皇女を助けたわけだが、機士ではない。

 原作ではモブキャラである。いや、原作では登場しないからモブ以下か。


「ノコノコと人質になりに来たのかい?」

「いいえ。最後ぐらいは自分の手で、と思いまして」


 おれは手にしていたボタンを押した。


 敵軍の動きが止まる。


「ぐぉぉ……これは……!?」

「『超重力場発生機』です。そのあたりに設置しておいたんです」

「馬鹿な……まさか、ぼくのこの戦略を読んだ上にこんな兵器まで……」



 ルージュ機が崖の上まで飛んできた。



「……ギアが飛んで……ありえない。それはまだ2、3年は完成し得ないはず――」

「終わりだ、フェルナンド!!」



 フェルナンドは討たれた。

 皇子が主人公の物語はここで終わりにさせてもらった。


 ズルだなんて言わないで欲しい。

 大義はあるし、おれはこの日のために13年も準備してきたのだから。



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― 新着の感想 ―
ルルーシュ思い出した(笑)
[良い点] 60話まで読了、シリアスとコミカルのバランスが良い。 登場人物に個性があり魅力的。 読みやすい。 [気になる点] 序盤スカーレットが登場する際にルージュと勘違いしてしまう。 1話が物語と噛…
[一言] 物語の主人公がいる話は良い国を作る話じゃなくて泥沼になる話でしかないものね。 じゃないと盛り上がらないもの。
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