0.1クール終幕
絶対的力を持つガイナ帝国。
その支配に抵抗する反乱勢力。
彼らは当初、ガイナ帝国の圧倒的軍事力を前に成す術なく敗れていた。
しかし、ある時からその力関係に変化が起きた。
反乱勢力は帝国が開発した革命的機械式甲冑である『駆動装甲機』を使い始めた。
戦況は膠着し、反乱勢力はついに帝国随一の『ギア』使いである皇女を追い詰めた。
『まさか、ここまで手こずるとは思わなかったよ。さすがは姉さんだ』
『フェルナンド、貴様……』
『ごめんよ。ルージュ姉さん』
反乱勢力の指揮をしていたのはガイナ帝国の皇子、フェルナンドだった。
彼は帝国の圧政から植民地の人々を解放するために立ち上がった。
『な、なぜだ? どうして……』
『父上の私利私欲のために苦しんでいる人々がいる。だから、ぼくはぼくの責任を果たすためにここにいる』
『違う! フェルナンド!』
『命乞いかい? 姉さんらしくないな。姉さんさえいなければ、東部方面軍は瓦解する。他の属州も立ち上がる。ごめん、大義のために死んでくれ』
ルージュは反乱勢力に囲まれた。孤立無援、単騎。まんまと誘い込まれた。
属州民を脅かす悪女討つべしと、数十機の『ギア』から弾が発射される。
『卑怯な……このルージュを正々堂々討ち取ろうという機士はおらぬのか!!!』
『無駄だよ。あなたの武勇は良く知っている。『串刺し皇女』』
『まさか……こんな……』
数十機の『ギア』に囲まれた彼女に活路は無い。
戦略、武力でルージュを圧倒したフェルナンド。
彼は姉を手にかけた。
ここから、フェルナンドの真の戦いが始まる―――
確かこんな話だった。
◇
おれは記憶を辿り、好きだったアニメのストーリーを思い返す。
『ギア×マジック』
その1クールのラストシーン。
勝ち誇る主人公フェルナンド。
追い詰められるルージュ。
今まさに、おれの前であのシーンが繰り広げられていた。
「まさか、ここまで手こずるとは思わなかったよ。さすがは姉さんだ」
「フェルナンド、貴様……」
「ごめんよ。ルージュ姉さん、大義のために死んでくれ。『串刺し皇女』に近づくな。遠距離から攻撃しろ」
ルージュのギアは吹き荒れる弾丸の雨の中、傷一つついていない。
「銃弾が逸れていく?」
重力シールドで弾丸を曲げている。
「ば、馬鹿な。50ミリACPR弾だぞ」
異変に気付いたギアが一機、突如はじけ飛ぶ。
「何だ、この威力は?」
「ギアが一撃で……どこからだ!?」
「射程外からの超長距離魔法攻撃だ!! 逃げろ! 狙い撃ちにされるぞ!!」
驚きを隠せない敵軍。
それもそうだろう。
『超重力爆撃砲』はまだこの時点では開発されていない。
原作では。
「まさか、ここまでとは。グリム、お前の言う通りだった」
ルージュから余裕が垣間見える。
依然として敵軍の規模は数十倍だ。
「ええい!! 逃げるな!! 数はこちらが上だ。ルージュへ突撃せよ!!」
彼は不測の事態でも嫌味なぐらい的確な判断をする。
それは知っていた。
「たとえ最新機といえど、近接戦闘に持ち込めば……」
近接戦はルージュの得意分野だ。
機動性、反射性、パワーで敵のギアを圧倒。
「噂に違わぬ超絶技巧……!」
「くそっ、なぜ魔力切れにならん! 情報と違うではないか!!」
「あり得ない! あれがギアの動きなのか!!?」
「駄目だ!! 機体性能も機士の技量も違いすぎる!!」
勝利を確信していたフェルナンドはルージュの思いがけない抵抗に面食らう。
「まさか、ここまでの隠し玉を用意しているとは―――退却する!!」
この時を待っていた。
「フェルナンド皇子。ここまでです」
「誰だ?」
「あなたと同じ技師ですよ」
「……君か、グリム・フィリオン。やはり、君だったか……」
おれはグリム・フィリオン。
絶体絶命の皇女を助けたわけだが、機士ではない。
原作ではモブキャラである。いや、原作では登場しないからモブ以下か。
「ノコノコと人質になりに来たのかい?」
「いいえ。最後ぐらいは自分の手で、と思いまして」
おれは手にしていたボタンを押した。
敵軍の動きが止まる。
「ぐぉぉ……これは……!?」
「『超重力場発生機』です。そのあたりに設置しておいたんです」
「馬鹿な……まさか、ぼくのこの戦略を読んだ上にこんな兵器まで……」
ルージュ機が崖の上まで飛んできた。
「……ギアが飛んで……ありえない。それはまだ2、3年は完成し得ないはず――」
「終わりだ、フェルナンド!!」
フェルナンドは討たれた。
皇子が主人公の物語はここで終わりにさせてもらった。
ズルだなんて言わないで欲しい。
大義はあるし、おれはこの日のために13年も準備してきたのだから。