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THE SEA  作者: 狩夜
3/10

 朝礼が済むと、五年二組の生徒は波止場に集められた。

 皆服装は制服ではなく、既にダイビングスーツに着替えている。

 「んじゃ、今日の海探のマップ送るから全員確認しろー」

 生徒達の前に立って教官の小柴が声を張り上げた。

 途端、周囲に電子音が鳴り響いた。

 基本的に探査マップは各自が所有しているMDA端末に送られてくる。それに加えてデータがMDAに辿り着く瞬間のタイムラグはほとんどない。そのため、受信すると大抵大音量となる。

 「みんな届いたかー? 今日はB2区域を探査してもらう」

 生徒全員が真剣な顔になって頷く。

 「よーし! じゃあ全員乗艦!」

 「はい!」

 五年二組総勢二十四名の返事がこだまする。

 小柴は満足そうに頷くと、

 「よーし、行ってこい!」

 大声で生徒達を送り出した。


 だが、この中の誰も知らない。

 これから大事件が起こることを――


 異変に気づいたのは、刻也の方が早かった。

 潜水艦には普通、運転手とオブザーブ、二人一組で乗艦する。

 運転手は潜水艦を運転し、オブザーブはソナーのモニターを見ながら運転手に指示するのが役割だ。

 刻也達の艦では運転手を麻奈が、オブザーブを刻也が担当している。

 モニターを見ながら刻也が言った。

 「南に多数の金属反応があるぞ」

 「え? どれくらい?」

 二三秒ほどかけて数を数えて、

 「んー。多分百は下らないだろうな」

 首を傾げつつ、刻也は答えた。

 この答えには麻奈も、

 「おかしいわね……」

 難しい顔をして首を傾げた。

 B2区域には今までに少なくとも二度は来ているが、その時にはそんなものはなかった筈だ。

 「ねえ……これって物資だと思う?」

 「分からん。さっきからゆっくりだけどこっちの方に向かって来てるし……何かの部品が海に落ちてこっちまで流されてきたのかな?」

 「微妙なところだわね……」

 「まあ、でも危険物って事はないだろうさ。多分ほうっておいてもいいんじゃないか?」

 「………………」

 しばらく考え込んだ後、麻奈は、

 「そうね。じゃあ、そっちはおいておいて……もうちょっと深く潜りましょうか。燃料はあるわよね?」

 「ちょっと待って……おう、大丈夫だ。まだ五分の一も使ってないぜ」

 「それなら大丈夫ね……じゃあ、行くわよ!」

 そう言って、麻奈はレバーを“下降”へ押し込んだ。

 潜水艦はゆっくりと海の底へと向かっていく。

 途中で鰯や鮪の変異種にも出会った。

 それを見た時、二人は生態系を破壊する事の恐ろしさを改めて思い知らされた。

 狩る者と狩られる者の立場が逆転していたのだ。

 鰯が以前の二十倍ほどの大きさになっていて、以前とそれほど大きさの変わらない鮪を追いかけ回しているのだ。

 鮪や鰹などの捕食者達が乱獲され、捕食されなくなったため、栄養を過剰に摂取して巨大化し、餌となるプランクトンが減ってなくなれば共食いをして食いつなぎ、やがては肉食となり、人間をも襲うようになっていったのである。

 二人はその光景に自然の脆さと生き物達の逞しさをも思い知らされていた。


 ようやく海底が見えてきた。

 もう、かなりの深くまで潜ってきているので、日の光は殆どが遮られ、辺りは薄暗い。

 「麻奈、そろそろサーチライト頼む」

 「了解」

 モニターに映されていた海底の映像が明るくなる。

 少し下に二人が昔住んでいた大地や建物が光に照らされ、ぼんやりと浮かび上がってきた。

 海水に腐食され、すっかりボロボロになってはいたが、昔の姿を保っていた。

 その姿に二人は郷愁を覚えた。

 「…………」

 「…………」

 二人はしばらくの間黙り込んだ。

 そして、二人して、

 「「はあ……」」

 ため息をもらした。

 その時だった。

 『片桐、西澤、聞こえるか!』

 通信機から小柴の怒鳴り声が聞こえてきた。

 「な、何だ?」

 「どうしかしたのかなあ……?」

 わけが分からず、二人は首を傾げる。

 「何かあったんですか?」

 聞くと、

 『海賊だ! 南から百発以上魚雷をバラまきやがったんだ! お前ら今どこにいるんだ?』

 焦った声で小柴は答えた。

 その答えに、

 「じゃあ……」

 「あの金属反応って」

 「「魚雷だったのか!」」

 真っ青になって二人は叫んだ。

 『お前ら今どこにいる!』

 もう一度小柴に聞かれて、

 「えっと…………海深二百三十メートル地点です」

 慌てて刻也が答える。

 『燃料はどれくらい残ってる?』

 「あと半分切ってます」

 『分かった……海面まではフルバーストできないのか……』

 エンジンを全開にして航行するフルバーストなら海面までそんなに時間はかからない。

 ただ、フルバーストだと、燃料は普段の二倍近くかかる。今の場所まで来るのに半分以上の燃料を使ったということは単純計算しても、海面まで保たない。

 何か考えているのか、小柴が黙り込んでしまった。

 ――そして、十秒後。小柴は二人に決断を下した。

 『……フルバーストで海深七十メートルの所まで上がってこい。魚雷が確認されているのは、現在海深九十メートルから二百メートル地点までだ。そこまで来れば多分大丈夫だ。……だが、無茶はするな』

 顔を見合わせて、

 「「はい!」」

 二人は頷く。

 『……よし。健闘を祈る』

 その一言を最後に、小柴からの通信は途切れた。


 「3、2、1、フルバースト!」

 フルバーストの瞬間、二人の体を爆発的なGが押し潰した。

 「「……………………」」

 刻也も麻奈も歯を食いしばってそれに耐える。

 モニターに映る海深表示が、瞬く間に小さくなっていく。

 ――このまま行ってくれ!

 刻也も麻奈もそう願っていた。

 ――しかし、海深表示が八十になった瞬間。


 ドンッ!


 鈍い衝撃音が響いて、

 「「?」」

 二人の意識は刈り取られた。



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