第18話 再会のディスクシステム
「コンプリート率97%、それでは『デルタの剣風伝』ワールドへ行ってらっしゃいませ!」
古代遺跡群の受付からワールドへ転送されるまでは数秒間、のハズなのだが…。
「長い……、妙に長すぎる……」
もう1分間以上も狭間の空間、真っ暗な中を漂い続けている…。まさか転送中にシステムトラブルでも?
その様に思い始めた時、目の前に何やら黄色の物が浮かんだ。
「ん? あれは……、《《ディスくん》》ではないか!!」
『デルタの剣風伝』はファミコン・ディスクシステムのゲームだ。フロッピーディスクが使われた事によりカセットの約3倍の容量となりデータセーブも出来る様になった。今ではセーブが出来て当たり前なのだろうが当時は画期的なシステムだった。
だが、すぐにバッテリーバックアップ機能でカセットにセーブが出来る様になるとディスクシステムに滅亡フラグが立ったわけだが…。
その専用の黄色いディスクをモチーフとしたマスコットキャラが目の前にいるディスくんだ。自身の身体の中に手を突っ込んでは何かを取り出そうとしている様だが?
「おぉ! ディスくんが着替えさせてくれるのか」
全アイテム入手済みな俺のプレイデータはディスくんの中にある、という事らしい。主人公ランクが持っていたアイテムを一つずつ俺のアバターに装着してくれている。右手にミラクルシールド、《《左手にはミラクルソード》》。
「そっか、ランクって左利きだったな~~」
って、待てよ……。まさか中の人が右利きだろうと左利き縛りプレイを強要されるのではないだろうな?ふと、そんな嫌な予感が脳裏を過った。
何せ没データが野放しにされている様な古代遺跡群。生成AIが忠実にレトロゲームをフルダイヴ化したが故の理不尽プレイ環境を放置しておくのだってない話ではない…。
剣と盾を持ち替えられるか試してみる。意外と…、出来る様だ。意外となどと思ってしまう事がいかに俺が運営を信用していないかの表れではあったのだが…。
「でも、折角だからランクらしく左利きでいってみるか」
未だに続くアクションRPGデルタシリーズはここから始まった!時系列的にはずっと後にリリースされる『デルタの剣風伝・エアセイバー』ではあるが元祖デルタと言えばやっぱりコレ。
この後、20タイトル以上も続くわけで古代遺跡群にも続々とワールドオープンが予想される。今後もらしさ重視プレイでいく為にランクの左利きに慣れておくには丁度いい機会だ。
それにしても。妙にアイドリングタイムが長かったのはディスクシステムらしさの再現だった様だな。フロッピーディスクを使っている為、プレイ中に読み込みタイムに入ってしまう場面がある。余裕で1分間以上待たされる場合もあったはず。
その感じを再現しつつディスくんによるアバター着替え演出。ここの運営もたまには気の利いた事をするではないか。たまには、な。
ここに入り始めてから5日目。例によって狙うは没データ、発掘プレイの基礎作業を地道に続けていると。
「あっ、あいつはオクラ。噂のテロリストがいるぞ……、ここはやめておこう」
主人公ランクが俺の頭上に浮かぶプレイヤー名を見るなり逃げて行った。
「どうしてだ?」
これで謂われなくテロリストなどと呼ばれるのは何回目だろうか…。
このゲームの基本と言えばマップ上に隠されたダンジョンやほこらの入り口探しだった。そこでアクトパーツなる重要アイテムを8つ集めたり、アイテムを得たりしつつラスボスへ向かっていく。
そんなわけで大きな没データがあるとすれば没になった何かの入り口?と睨んで基本通りにやっただけだけ。
それは、《《1マス1マス、全てのマスを漏らす事なく丁寧に爆弾設置で吹っ飛ばす》》という涙ぐましい地道な作業だ。
フルダイヴ化により1マスは5歩分になっていたので5歩毎に爆弾を設置しただけの事。この辺り一帯が少々煙くなってしまったかもしれないが、それでなぜテロリストなどと呼ばれねばならないのだ…。
没入り口探しもいよいよ8日目だ。
「おぉ! ついに入り口が現れた!!」
岩場に開いた大きな穴の中に踏み込むと真っ暗な部屋の中に篝火の灯りが2つ、その間に立つ者の顔が暗がりの中に照らし出されている。
「あぁ、いつもの爺さんか」
つまり、ここは没ダンジョンではなく没ほこらだったか。旅先の至るところで姿を現す真っ白な顎髭に赤茶けたボロいローブ姿の爺さんは色々と旅の手助けをしてくれる存在。
最初に使う普通のソードを授けてくれる爺さんであり、ダンジョンボスの弱点をよく知っている爺さんであり。レトロゲームなので姿格好は全く同じモブ状態ではあるが重要な爺さんだ。
「ほう、ミラクルソードを持つとは随分と腕を上げた様だな」
この物言いだと、もしや最初にソードを授けてくれたファースト爺さんなのか?見た目だけでは全く判断つかないのがもどかしい…。
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