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第14話 発掘プレイの果てに②

 『双子座のバルカ』。


 タゲッているヤツの名前と姿がその様に変わった。ストーリー序盤でヒロインの『メリス』に【星砕きの術】とやらをかましてくれたあいつだ。


 なるほど。思えば最初にあいつが登場した時も成りすまし。主人公とメリスが立ち寄った町で出会った、親身になって有用な道具なんかが眠るダンジョンとかの存在を教えてくれた占星術師。


 そして、主人公達がすっかり信用したところで騙し討ち。”騙された裏切られたと悔しさを滲ませながら死にゆく者の表情を見るのが極上の楽しみ”とか言ってたっけな。


 この没クエはそれよりも過去の話だ。ヤツはマリカの先生に成りすまして【星砕きの術】の奪取を目論み、マリカが期待通りの成長を遂げるまでここではタイムリープが繰り返されていた、と。


 まあ、話として繋がりはしたが…。したけどなぁ…。


「ヒョッ! ヒョッ! 人間風情の魔力で【スタークラッシャー】を一度放てばしばらく使えまい。では、それを頂くぞ!!」



 ※※※『双子座のバルカ』を倒した※※※


 倒しはしたが正確には逃走で終わった。まあ、本編ストーリーにヤツの出番はあるわけだしそれはいいとして。


「双子座のバルカ、双子パーティに討たれるとは何とも皮肉なものだ」


「ええ。今のこちらは主人公が2人にマリカが2人の変則パーティですからね」


「これはただの偶然でしかなかったが、妙な巡り合わせだ」


 没データ内だから起きてしまった?仕様にないはずのプレイヤー同士がパーティを組めたイレギュラーの成せる業だった。本来なら主人公とマリカの2人パーティで相手するはずだったところを4人がかり。いわゆるフルボッコだ。


主人公オクラさんは、これから『月界の湖』へ?」


「いや、俺は行くつもり……ないな」


『月界の湖』か、メリスが旅立った地ではあるが。


「えっ!? あいつに【星砕きの術】が渡らなかったのでメリスは死なない。そうなるはずですよね?」


「さあ、どうだろな? 本編ストーリーから切り離されて没にされてしまったデータだ。ここでの結果が本編に反映される保証はない。それに……」


「それに?」


「……。仮に反映されたとしても俺は行かないだろうな」


「どうしてですか?」


「そうだな、この没クエをやってみてクリエイターが、あの尾坂戸伝之助おざかどでんのすけがそうなるストーリーを望まなかった。そんな気がした」


「えっ? おじい、」


「ん? おじい? そうか、『ファイナル・サーガⅦ』を創ったのは42歳、もう70歳を越えている爺さんか」


「あっ、あの、尾坂戸さんはなぜメリスの生存ルートを望まなかったと?」


「さあ……。伝説のゲームクリエイターの考える事だ、俺なんかにわかるわけがない」


 ただ、シリーズタイトル全てを遊んだ者が感じた違和感みたいなものはあるかな。あの尾坂戸伝之助にしてはいかにも取って付けた様なクエストにしたものだな、と。


 俺も42歳、当時の尾坂戸伝之助と同じ歳になってみれば感じられるものもあるのだろうか?


 序盤でヒロイン死亡による永久離脱なんてRPGは初めてだった。ファンの度肝を抜いたのは間違いない。だが、SNSなんてものはなかったがゲーム誌を舞台に賛否両論巻き起こったのも確かだ。きっと発売前に社内でもアレルギー反応は出た事だろう。


 だが、果たしてメリス復活の路が残されていたゲームが30年間にも渡ってファンの記憶にこびり付いていただろうか?プレイした『ファイナル・サーガ』シリーズの一つ、いくつもプレイしたRPGの一つ、その程度だったかもしれない。


 俺がこの没データを一言で表すなら、迷い、それだけだ。


『ファイナル・サーガ』シリーズでこれまでやって来た様な事を積み上げ…、ちぐはぐと積み上げ。まるでかつての成功を確かめるかの様に。救済措置としてメリス復活の路を残すべきか?非情のシナリオを貫くか?迷いながら。


 そんな事をコンプリート率表示を見ながら考えていた。現在99%、Lv15で旅立ってしまったメリスがLv70まで育って得るであろう物のデータが1%で収まるはずもないだろうよ、と。


「そうだ、主人公オデンさん。これからラスボスにいくけど付き合ってもらえるかな?」


「それはいいですけど。正規データ内に戻るからきっと強制的にパーティ解散、各々で撃破になるんじゃ?」


「まあ、そうだろうが。やり込みプレイの締め括りに句読点としてラスボスをボコるのは礼儀みたいなもの。お礼参りだ」



 ※※※『邪星神帝バルカ』を倒した※※※


 双子座のバルカが【星砕きの術】を求めたのはそれで邪星帝ネーブラを葬り、取って代わる為だった。そんな本編ストーリー最後に控える真のラスボスを撃破してお礼参り完了、のはずだったが。


「ん? なんかこのエンディング変だぞ?」


 そこでコンプリート率100%にはなったが妙だった…。


 終了後、主人公オデンさんに声をかけてみた。


「俺の知ってるエンディングのBGMと全然違うんだよな……。なんか、誰か歌ってるしさぁ」


 プレステからCD-ROM。容量が大きくなったのでテーマ曲として有名アーティストの曲を使う時代に突入したのは確かだが。このゲームのエンディングにそんなのあったっけ?と。


「あの曲、昔活躍した女性アーティスト『日向ミヅキ』のですよ。私、レトロミュージック好きなんで間違いないです。だから、じゃないかと……」


「あぁ……、エンド曲が没データにされた理由はハッキりわかったぞ」


 当時『ファイナル・サーガⅦ』が発売される1カ月前、覚醒剤所持で逮捕された、ホシと呼ばれた人だ…。

最後までお読み頂きありがとうございます。

よろしければ↓☆☆☆☆☆での評価やブクマ、感想など頂けましたら幸いです。

また、他にも短編や長編を掲載しておりますのでよろしくお願い致します。

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