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「ねえねえ、どこまで行くの?」
「もう少し、もう少しで着くわ。私のとっておきの場所、お父様にだって秘密の場所」
弾むように歌うように言葉を紡ぐマルグリットは、迷いのない足取りで屋敷周辺に広がっている森の奥深くへと分け入っていく。枝葉を広げた木々が密集しているからか、まだ午前中であるというのに辺りは薄暗く、なんだか不気味だ。それに、今までギーベルが通ったことのある森のいずれとも異なる奇妙な気配が、辺りに立ち込めている。
草木は生きている。この森をねぐらにしているらしい小動物の姿も、視界の端に見止める。耳を澄ませば、あちらこちらから鳥や虫が奏でる雑多な音を聴く。それでも、生の気配が薄いと感じてしまうのは、森全体があんまりにもひっそりと息を潜めているからだ。
何度もひとが通ったらしい、獣道とはまた違う、細い道が真っ直ぐに続いているのも気になるところだ。こんな幼い少女が――それも、全盲の身で――迷いなく進めるほど頻繁に通えられるものなのだろうか。けれど現に今マルグリットは、なんの支えもなく誰の導きもなくすたすたと、踏み均された道を先へ先へと歩いてゆく。
一歩進む度に全身が総毛立つような、毛穴からなにがが這入り込むような気味の悪さに足取りが重くなるギーベルを振り返るマルグリットは、ふ、と幼く愛らしい面には似つかわしくないいやらしい笑みを浮かべ、道の先へと促す。
「これよ。ここが、私の秘密の場所」
長いこと歩かされたような、そうでもないような。不気味な森をようやっと抜けたギーベルの眼前には、前触れもなく開けた一角で濁り切った水面が不吉にてらりと陽を映す、禍々しいと称する他ない沼が口を開いていた。




