コミック1巻発売だ、やっほい!(初夜の話)
やっほい学園に飽きたので、普通にSSを書きました。
時系列としては、小説2巻の結婚式(?)のあとです。
出る予定はないけど、3巻のエピローグみたいな時期ですね。
初夜である。
俺の両親への挨拶とともに、実家で小規模の結婚式を開いた。
ノイシャもやっほいしてくれて。
小さくも暖かい祝福に包まれて。
さて、初夜である。
両親の計らいというのが気まずいが、寝室も同じ部屋にしてもらった。
ベッドも、大きなものがひとつ。
当然、他に一緒の部屋で寝る者もいない。
「リュナン様、何をしているんですか?」
「隠密の有無を調べている」
もちろん、本当の侵入者やスパイを疑っているわけではない。
最大の敵は身内にいる。
セバスやコレットだ。
あいつらの隠密行動能力は世界最高峰だろう。なんだよ、鮮血の死神騎士とその娘って。戦場で暴れた結果の異名じゃなかったのかよ。なんで平然と天井裏に潜んでいられるんだよ。特にセバス、おまえ今年で何歳だ?
ノイシャが来るまで、徹底的に調べに調べ尽くしたところ、今のところ誰かが潜んでいる気配はない。一応、侵入口になりそうなあたり徹底的に塞いだつもりだ。
だが……果たして、俺の能力がどれほどあいつらに追いついているか。
正直なところ、まったくもって自信がないのが、顔に出ていたらしい。
ノイシャがシュシュイッと指を動かせば。
部屋の周りにキラキラとした鎖が編まれていく。
「ノイシャ」
「はい、ノイシャです」
「これは?」
いつも通りのやり取りをすれば、やはりノイシャはいつも通りに誇らしげだった。
「いつもの結界を張っておきました。害意を持つ者は何人たりとも侵入できません。私が死んだあと十年くらいは、何も問題なく安眠できると思いますよ」
……うん。ツッコみどころもいつも通りである。
ひとつひとつ説いていけば、それだけで朝を迎えそうなため、俺は一点だけに絞ることにした。
「君に疲れは?」
「お風呂でたくさんやっほいしてきたので、大丈夫です」
「ならよかった。その調子で俺より長くやっほいしてくれ」
「……かしこまりました?」
さて、初夜である。
ノイシャも湯あみを終えて、寝室へとやってきた。
だけど、俺はその姿を見て……いや、まともに見ることもできずに顔を逸らす。
ノイシャが厚手のモコモコカーデガンの下に、ネグリジェを着ていた。薄桃色で、カーデガンを着ているから色々と露出していないけれど、あれを脱がせば色々透けるんだろうな、と、そんな感じのヒラヒラしたやつだ。
「いつものジャージはどうしたんだ?」
「お義母さまが貸してくださるというので、ご厚意に甘えてみました」
「……母上から借りただと?」
さて、初夜である。
またもや別の問題が発生した。
かつて母上が着ていたものを、俺が脱がすだと……?
…………。
……………………。
………………………………。
え、なぜ貸した、母上。
これならセバスらに見られているほうがマシなのでは、などと思ってしまうのは、俺だけか?
でも、たしかにノイシャが自ら用意するとは思えないし。
かといってコレットが用意したと言われても、それはそれで色々考えるものがあるし。
でもだからといって、俺の母親のおさがりと言われても……。
あれ、どれが正解なのだろう?
俺が考え込んでいると、いつの間にかそばに寄っていたノイシャが、俺の顔を覗き込んでくる。
「あの……リュナン様。お疲れ、ですか?」
「あぁ。あぁ……疲れたといえば、疲れたな」
「奇跡、いります?」
「いらん!」
さて、初夜である。
俺がここでノイシャの手を引き、ベッドの上に転がしても、誰にも咎められない初夜である。
俺を見上げるノイシャの水色の瞳がキョロキョロしている。
「あの……リュナン様」
「あぁ、リュナンだ」
「今から、閨事を始めるということでよろしいのでしょうか?」
まさか、真っ向から聞かれるとは思ってもみなかった。
まぁ、正直なところ……どうやって始めるべきが正解なのかも、正直あまりよくわかっていないのだが。
俺はおそるおそる訊いてみた。
「い、嫌か?」
「嫌ではないのですが、婚前契約違反になってしまいます」
「あ……」
さて、初夜なのだが。
そういや結んだ婚前契約。そこにはっきりと『閨事を要求することはない』と明記したど阿呆がいるらしい。くそ、誰だそんな契約書を作ったのは。俺だ。
「屋敷に戻ったら、また契約書の見直してもいいか?」
「私は構いません」
「なら、屋敷に戻ったら吟味しよう」
そうため息を吐いた俺は、ゴロンとノイシャの隣に横たわる。
一気に脱力してしまった。チラリと隣のノイシャを見やれば、自分の着ている服が気になるらしい。
「そのヒラヒラの服、気に入ったのか?」
「はい、お人形になったみたいでかわいいです! ずっと箱から開けずにしまってあったものだから、持って帰ってもいいと言われました!」
……あぁ、よかった。母上の使用済みじゃなくて、本当によかった。
それに安堵したら、急に眠気が襲ってきた。
俺がノイシャを抱きしめれば、ノイシャが「リュナン様?」とモゾモゾ顔をあげてくる。なんだ、このかわいい生き物は。だけど嫌がられたらショックなので、俺は視線を逸らしながら確認する。
「『乙を抱き枕にしてはならない』なんて記載は書いてないはずだが?」
「存じております。前は私がリュナン様を抱き枕にしましたね」
「あー、そんなこともあったなぁ……」
あれは、なんやかんや四か月くらい前になるのか。
そう考えると、ノイシャと出会ってからまだそんなに時間は経ってないな。
それなのに、ものすごく濃密な時間を過ごした気がする。
あー、疲れた。本当に疲れた。
これはもう、妻に癒してもらうほかないな!
そうわりきってしまえば、話は早い。
俺は思いっきりノイシャを抱き込み、その頭をわしゃわしゃ撫でまわしてやる。
「はは、君は頭が丸いな」
「お嫌ですか?」
「まさか。どんな奇跡より、癒されるなぁ……と思っただけだよ」
そんなことを話していると、いつしか二人とも眠っていて。
気が付けば、外からチュンチュンと鳥の声が聞こえてた……というオチである。
もちろん、朝からコレットの視線は鬱陶しかったり、セバスがやたら研ぎ澄まされた刀を見せびらかせてきたり、ヤマグチが身体に優しそうに見えて活力がでそうな『カンポウ料理』などを作ったりしたが。
初夜以降の一番の変化は、俺がため息を吐くたびに、ノイシャが頭を差し出してくるようになったことだ。
「これは、なんだ?」
「どうぞ。いくらでも撫でてください」
「なぜだ?」
「奇跡よりも効果があるとおっしゃっていたので」
なんだ、このかわいい生物は……。
それをセバスに愚痴たら、「我が天使なのだから、当たり前でしょう」と罵られた。ひどい。
とりあえず、俺の妻が世界一かわいい。やっほい。
【コミック1巻発売記念SS 完】






