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3分聖女のバレンタイン!②

 その日の帰り道、ラーナさんと一緒に寮へと戻った時にこっそり相談してみたら。


「ノイシャさん、バレンタインを重く考えすぎではなくて?」

「がーんっ」


 クスクスと笑われてしまった……。

 どうやら、今どきの女子高校生はバレンタインを企業の陰謀だと認識していないということだ。


「まぁ、そんな裏話を知っている子も少なくはないと思うんだけど……でも、別にいいじゃない。たとえ金儲けの一環のイベントであろうとも、それで私たちが楽しめるなら」

「なるほど?」

「それで? ノイシャさんは誰にバレンタインをあげるの?」


 あらら。結局その質問に戻ってしまった……。

 私は「わかりません……」と首を捻ってみる。


「バレンタインは女の人から男の人へチョコレートを贈るんですよね?」

「まぁ、一般的にはそうね」

「しかも相手は男女の仲になりたいくらいに好きな相手限定ですよね?」

「あら、そうでもないわよ」


 思わず、私は足を止めた。

 え、バレンタインの裏道があるの……?

 そんな私に、ラーナさんは親切に教えてくれる。


「お世話になった人にあげる人も多いわよ。それこそ男女問わずあげているのもよく見かけるし……『友チョコ』なんて言葉もあるくらいだわ。その中で……男女の仲になりたいお相手だけをちょこっと特別にするのがオシャレかなって個人的には思うのだけど」


 さすがラーナさんだ! すごく博識で勉強になる!

 これは心のメモ帳にメモしないと。


「なるほど。チョコをちょこっと……」

「ノイシャさん。そこだけを取り上げないでくださる?」


 笑顔ながら、ラーナさんの顔が怖い……。

 だけどラーナさんはすぐに話を変えてくれた。


「ちなみに、女子高校生なら市販の物よりも手作りを贈るのがいいと思うわよ」




 ということで、手作りと言えば。


「ご教授よろしくお願いします! ヤマグチさん!」

「うっす」


 ヤマグチさんはこの学校の食堂をひとりで管理する凄腕料理人である。

 卒業生曰く、どこのレストランや料亭に行っても、この学食より美味しい食事ができる場所がないとのこと。そんなやっほいな食事を作れるヤマグチさんに指南していただければ、間違いないよね!


 チョコレートの材料は私が用意した……と言いたいところですが、ヤマグチさんに相談した直後に、セバス先生が手配してくれたらしい。なんてこったい! すごく大量のココアと小麦粉。あれ……事前に読んだ本には、板チョコを刻んで湯煎にかけるって書いてあったんだけど……。


 大量の粉袋に戸惑っていると、ヤマグチさんが言う。


「セバス先輩いわく、ノイシャさんに包丁を持たせるなとのことです」

「なんてこったい!」


 そうか……私には包丁を持つのも早いのか……。

 思わずしょんぼりしかけるものの、ヤマグチさんは私にココアの袋を渡してくれる。


「大丈夫です。むしろココアのほうが美味しくできるメニューもたくさんあります」

「ヤマグチさん……」


 ヤマグチさんが言い切ってくれるなら、本当に問題ない気がする!

 そうして私たちが作り始めたのは、フィナンシェだった。ココアと小麦粉とアーモンドパウダーを入れるチョコレート味の特別仕様。日持ちもするし持ち運びもしやすいから、バレンタインに最適なんだって。たしかにチョコレートだと持ち運びの間に溶けてしまうもんね!


 だからたくさん混ぜ混ぜして、混ぜ混ぜして、小さな型にトロッと流して、オーブンで焼いて……。


「もうできた!」

「はい、お疲れさまでした」

「それじゃあ、もう一回ですね!」

「え?」


 そんな作業を繰り返すこと三回。最後のほうは腕が棒のようになってしまったけど、なんとか頑張った! 大量にできたフィナンシェにホクホクしていると、ヤマグチさんが訊いてくる。


「でも、ノイシャさん」

「はい、ノイシャです」

「このチョコレートを誰にあげるのですか?」


 それは……まだ決めてないです……。

 とりあえず、たくさん作ってみました。あげたい人はたくさんいます。

 でも……私から手作りのチョコレートをもらって……果たして喜んでくれる人はいるのでしょうか? 


「あの……とっても非常識なお願いを言うだけ言ってみても宜しいでしょうか?」


 その問いかけに、ヤマグチさんが「うす」と頷く。

 だから「えいっ」と、勇気を出して言ってみた。


「ヤマグチさんは、私からのチョコレートを貰ってくれますか⁉」

「うす!」


 その力強い「うす」がいつもよりも温かくて。

 私はやっほいと「うす!」を返した。


 

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[一言] やさしいせかい…ほっこりします
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