3分聖女のバレンタイン!①
この「やっほい学園編」時系列は適当です!
まぁ、コレットとノイシャは友達になって、ノイシャも生徒会に入ったんだなーと思っていてください。
「バレンタイン?」
その単語は、世間知らずの私でも聞いたことがあった。
年に一度、一番チョコレートが売れるシーズンのことだ。チョコレート会社が販促のために『チョコレートを贈って愛の告白をすると成就する』と法螺を吹いている日のこと。
つまり、その『成就』の可能性にチョコレートは何の因果関係がなく――
それなのに、わざわざこの時期にチョコレートの話題を出すということは……きっとコレットさんはこの一言に何か公に言えないことを暗喩しているのでは?
「コレットさんは……チョコレート会社に何か弱みを握られているんですか……?」
「なぜにっ⁉」
ここは放課後の生徒会室。つまり生徒会のお仕事をする場所と時間だ。
それなのに、部屋中に響き渡る大声をあげたコレットさんは、まわりからの鋭い視線を一切気にすることなく、きょとんと小首を傾げてきた。
「ノイシャちゃんは誰か好きな人とかいないの?」
「好きな人……?」
たとえ暗喩だったとしても、表向きは自然な会話を私も返す必要がある。
だから、私が好きな人は……。
最近少しずつ増えてきたけど、一番言いやすいのは目の前のツインテールが愛らしい女性である。
「……私は……コレットさんが……好きです……」
「わたしも……ノイシャちゃんが……大好きです……」
それでも、お互いに愛を告白し合うのはとても照れくさくて。
二人でモジモジしていると、頭をスパーンッと丸めたプリントで殴られた。まるで痛くない。
「ど阿呆。お前らはなにを百合百合しい空気を出しているんだ!」
生徒会長のリュナン様である。ついでに私のお世話係でもあるらしい。
そうだった。ここは生徒会室。
つまり仕事をしなければならない場所。
たとえどんな危機的状況であっても、生徒会の一員である以上、生徒会の仕事をするのが第一優先である。だけど――私はすでに片づけてある仕事の山に視線を移した時、コレットさんが抗議の声を上げた。
「でも、ノイシャちゃんは今日の分の仕事を終わらせてますが!」
「ぐぬぬ」
そんな悔しそうな顔をされると、私もしょんぼり。
でも、たしかに今日のお仕事はしっかり三分で終わらせた。綺麗に山にして積んである。今日の書類のほとんどは決算について。各々の部活動が提出した決算報告書を確認して、修正点には付箋して、決められた順序通りに並べておいたのだ。
特に仕上がりに問題ないとは思うのだけど……。
生徒会長であるリュナンさんは、とても渋い顔をされている。
これは……私が思わぬ失態をしてしまっているのでは⁉
「鞭で打たんぞ」
「……なぜに?」
前もって背中を出す準備をしようとしたのに、必要はないと言われてしまった。思わずさっきのコレットさんが出てしまうも……リュナンさんはコレットさんに向かって半眼を向けた。
「それで、おまえは?」
「コレットちゃんです」
「知ってるわ!」
真摯に答えたコレットさんに、リュナンさんが思いっきり唾を飛ばす。
これは……相思相愛として、お顔を拭いてあげなければ!
私がハンカチを取り出してコレットさんの顔をふきふきすると、コレットさんの顔がふにゃっと蕩ける。
「はわ~、わたし生きててよかったです~」
「そりゃあ良かった。どうぞ存分に長生きしてくれ」
良かったというわりに深いため息をついたリュナンさんは、コレットさんの前に積まれていた書類を持って執務机へと戻る。代わりに俺がやるということなのだろう。
だけど、私は知っている。
コレットさんの仕事、実は三分の二くらいは片付けてあることを。
コレットさんのクラスは今日午後が自習になったとのことで、課題をすぐに終わらせて書類仕事に時間を充てていたという。だから、コレットさんは全然サボってないのに!
「あ、あの……!」
「なんだ?」
今度は私が本当のことをリュナンさんに言おうと立ち上がるも、コレットさんは私の腕を引いてしまう。そして自分の口元に人差し指を立てていた。
だから……「なんでも、ないです」と再びソファに座って。
十分後、すっかり終わっている書類たちに気が付いたのだろう。「ど阿呆っ!」と再び怒り出したリュナンさんに、コレットさんはとても嬉しそうに笑っていた。
それで、えーと……。
私たちは何を話していたんだっけ?






