3分聖女、脱ぐ。
「なん、だと……?」
俺は掲示板の前で愕然としていた。
先日の試験結果。手ごたえは十分だった。だから今回もトップに自分『リュナン=レッドラ』の名前があるかと思っていたのに……それがない。
代わりに書かれていた名は『ノイシャ=アードラ』。
「スゴイねぇ、ノイシャちゃん! でも見て見て。おかげで僕も三十位に入れたんだ。こんな好成績初めてでさ!」
「やっほいですね!」
「うん、やっほいだね!」
「いや、待てーい!」
俺は和やかにハイタッチしていた二人組に待ったをかける。
転入早々、次点の俺を差し置いて満点でトップの座に躍り出たノイシャ=アードラと、俺の腐れ縁バルサ=マッケン。ノイシャという少女が転入してまだ三日間、おまえら仲いいな?
そんなバルサが首を傾げてくる。
「リュナンどしたの?」
「どうしたって……バルサはおかしいと思わないのか?」
「何が?」
まったく何もわかっていない友に、俺は思わず声を荒げた。
「だってこいつ、全ての教科を三分で退席していたんだぞ⁉」
「そんなの知ってるよ。同じ教室で試験を受けていたんだから」
「何かズルしたに決まっているだろうが!」
それに、バルサは平然と少女に尋ねる。
「ズル、したの?」
「してません」
「実は事前に試験問題、知っていたり」
「今までの試験は全て私が草案の作製しておりましたが、先日までの試験は各先生方が一から作っておりました。だから、私は全く関与していません」
急にしっかり喋りやがって……。
バルサと「やっほい」なんてはしゃいでいた時とは違う、真面目な顔。こいつあれか? こんな小さなナリで、男の前で態度を変える売女か?
信用ならん……と俺が見下ろしていると、彼女が急にジャケットを脱ぎだした。
そして、俺に背中を向けて――モゾモゾと何かしている。顔を真っ赤にしたバルサが慌てて自分のジャケットを少女にかけた。
「ちょっとノイシャちゃん! 何でシャツを脱ごうとしてるの⁉」
「はあ⁉」
俺からは見えなかったが……あれか? こいつはシャツのボタンを外していたということか? もちろん、ここは廊下だ。俺ら以外にも人がいる。売女だとしても……人目を憚らないにも程があるだろ!
それなのに、ノイシャという少女は「どうして?」と言わんばかりに目を丸くしていた。
「だって……今からリュナンさんは鞭打ちするのではないのですか?」
「どーしてそうなる⁉」
「だって、鞭打ちする前の理事長と同じ目をしていましたので……」
俺は思わず閉口した。
こいつは……何を言っているんだ? 理事長って……こいつからしたら養父だったんだよな? 養父から鞭打ちされていただと? 言われてみれば身体もガリガリだし、襟元から覗く白い肌に、ミミズ腫れのような痕が――
「す、すまない!」
女性の見てはいけない部分を見てしまい、俺は慌てて顔を背ける。
だけど、当の本人はまったく事情が把握できていないらしく、丸い目をぱちくりするだけ。
ちなみに、まわりの観衆はとっくにガヤガヤしている。「生徒会長、聖女を買うのか?」真面目が取り柄の俺が買うわけないだろうが! いや、むしろ……ここで俺がとるべき選択肢は――
瞬時に計算した結果、俺は跪く。そして、ノイシャの手を取った。
「この責任はきちんと取らせてくれ。籍はいつ入れる?」
「……籍を入れたあとに鞭で打つのですか?」
「打たん!」
「いや、リュナンこそ何言ってんの⁉」
そんな時だ。観衆の間から真っすぐにやってくる紳士がひとり。
柔らかい物腰ながら、そのモノクルの奥の瞳が欠片も笑っていないことがひと目で見て取れた。
「レッドラ君。少々話を聞かせてくれないかね?」
そして、連れて行かれた生徒指導室。
そこでノイシャ=アードラも同席し、事実確認がされる。
「つまり乙女の柔肌を見てしまったから、責任をとって彼女と籍を入れると?」
「はい、俺が男としての矜持だと思いました」
「馬鹿だろう」
……そんなあっさり一蹴しないでもいいじゃないか。泣きたくなるぞ。
セバス先生は嘆息する。
「彼女の試験結果は、彼女の実力だ。だって彼女は、今まで全学年の試験草案を作るだけでなく、学校運営の経営資料や人事資料、その他もろもろの運営を全てひとりで担っていたんだぞ?」
「…………は?」
「雑用から書類仕事、どんな難解な仕事も三分で終わらせる――なのに、少しでも理事長の気にそぐわないことがあれば鞭打ち、食事抜き……三歳の頃からずっとそんな生活を続けてきた彼女だ。転入時の学力検査では天才すぎて国から国宝認定されそうになったが、それでは彼女の自由がなくなるからと、有耶無耶に学生になってもらうことにした」
……なんかとんでもない話を聞かされた気がするが、当のノイシャは出された麦茶に目をキラキラさせている。いや、ただの麦茶だぞ? ジュースでも飲ませたら、どんな反応になるんだ?
思わず無言でそんな彼女を見ていると、セバス先生が言う。
「そういうわけで、男としての責任を取りたいなら、まず彼女の世話から始めるように。どのみち君は生徒会長だ。転入生の世話も仕事の一つだろう」
そう先生に言われてしまえば、俺に拒否権はないわけで――
「わ、わかりました」
俺が頷くと、ノイシャは麦茶を飲み終わったらしい。とても幸せそうな顔をしている。……とりあえず、売店で苺牛乳でも買ってやってみるか。
これで導入はおしまいですかね。あとは自由だ!
学園モノでこんなネタ読みたいーというものでもあれば、感想などで教えてください。
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タイトル短くしました。憑依型の悪役令嬢ものですね。
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