ノイシャの一日
書籍化とコミカライズが決定しました!
「明るい……!」
私の一日は、朝日と共に始まります。
カーテンの向こうが眩しいです! 数か月前までは朝日より早く起きるのが当然だったので、こうもゆっくり太陽が昇るのをぐーたら眺めて居られるなんて、なんて贅沢な時間なんでしょう。やっほい!
そうして太陽が全部顔を出した頃、扉がノックされます。
それに「はい、ノイシャです」と応えれば、いつも少し不貞腐れたコレットさんが扉の隙間から顔を覗かせてくれます。
「もう~。今日もこんな早くから起きているんですか? もっとゆっくりでいいって言っているのに~」
「でも……コレットさんもいつも起きてますよね?」
この時間にきちんと髪も結わいてピンクのジャージを着ているということは、コレットさんももっと早くに起きているということ。それなのに「わたしは仕事だからいいんです!」とお茶を出されてしまうと……なんかちょっとしょんぼり。
だけど、淹れてくれたお茶が少し甘くて「今日も美味しいです!」と感想を告げれば、コレットさんも嬉しそうに笑い返してくれた。今日もいい日になりそうだ! やっほい!!
そしてのんびり髪を整えてもらって、朝ごはんの時間である。
最近は家の中ではずっとみんなジャージです。それでも寝る用と日中用では、少しだけデザインが違っているの。縫い目や袖口の切り替え、そしてサイズ感が違っているんだけど……旦那様には「よくわからん……」と言われてしまっている。
そんな旦那様は、朝食が終わればすぐに出勤なされる。だから服装もひとり、凛々しい騎士服を身に付けていた。
「今日は日中、ノイシャは何をする予定なんだ?」
「今日も私はぐーたらを極めようと思っております!」
私が朝食のフレンチトーストを置いて鼻息荒く答えれば、旦那様が目じりにしわを寄せて苦笑なされる。
「ぐーたらはそんな気合を入れて望むものではないと思うぞ?」
「そもそも、一日ぐーたらする人に予定を聞くのも変な話だと思います~」
給仕をしながら、旦那様のお皿からオレンジを摘まむコレットさん。そんなコレットさんに「行儀が悪いぞ」と頬杖つく旦那様もマナーが良くないと思うけど……。
私はこの時間が、とても大好き。
「それでは、行ってらっしゃいませ」
「あぁ、ノイシャ。行ってきます」
そして、旦那様を私は見送る。
もう、旦那様にお迎えが来なくなった。それが少し寂しいけれど……旦那様は馬で一人で行ける分、家にゆっくり居られるようになったから嬉しいんだって。旦那様がやっほいなら……いいのかな?
だけど、それでも毎日お城にはお仕事に行かなきゃならないから。
私は旦那様を見送ってから『ぐーたら』するのは変わらない。
「それじゃあ、ぐーたらするぞー!」
「はい。何かありましたら庭にいますので、お声かけください」
ジャージで庭いじりするというセバスさんを見送って、私は書庫へ向かう。こないだ抱き枕の発注は終えたので、今は制作待ちだ。だからこの間に、次なるぐーたらアイテムを考える必要がある。
アイデアを出すには、本を読むのが一番だ。
実際、旦那様から推奨されているスケジュールでも読書時間が多い。だから書庫の本をパラパラと読み返していると……私は「これだ!」と閃いた。
ソファである。ベッドはあるけど、寝っ転がりながら本を読むにはしばしば体勢に困る時がある。読書の時、座り心地抜群の椅子があったなら……それはすなわち、ぐーたら(読書)×ぐーたら(ソファ)の極上ぐーたら時間になるのでは⁉
「やっほーーいっ!」
私は慌てて、自室に戻った。
それじゃあ、さっそく研究に励まなければ。クッションになる内部の素材はどうしよう? 雲の上に座っているような……絶妙なふわふわ加減がいいな。柔らかすぎるのも腰に負担がかかりそうだよね? あとカバーの素材も大事だろう。肌触りが大事なのはもちろん、長く座るなら通気性も大切。それなら……。
私は頭の中にある素材の数々を紙に羅列していく。
これは普及されている素材なのかな? これは……またジャージ素材のように一から生成する必要がありそう。コストは気にしなくていいと旦那様から言われているけど、今度やるという結婚式でもお金はかかるだろうから、あまり私個人の趣味でお金は使わない方がいいよね? 資金面……自分である程度賄った方がいいのかな?
「ノイシャ様~。お昼の時間ですよ~」
自分でお金を稼ぐには……私の特技って、奇跡くらいしかないからなぁ。また三分聖女やりに行こうかな? でも一人で行ったら、また旦那様に「ど阿呆」される? それならコレットさんに同行してもらえばいい? だけどコレットさんやセバスさんにも、それぞれお仕事があるだろうし……ヤマグチさんは……ご飯作る時間以外何をしているんだろう? 今度相談してみようかな。でもせっかくのぐーたら時間を邪魔するのも――
「ノイシャ様~。おやつの時間が~」
でもとりあえず業者さんに頼む前に、自分で試作品を作ってみるのもいいかも。余り布って……このお屋敷にあるのかな? 中にはとりあえず綿を入れてみるべき? でも私が座れるソファ分の綿ってかなりの量になるよね……まぁ、奇跡で増やせばいいか。余り布もわざわざコレットさんのお手を煩わせるわけにもいかないから、自分で作ろう。とりあえずベッドシーツでも増やせばいいか。
「ノイシャ様、ご夕飯の――!」
お裁縫はこれでも結構得意です。ザックザックザックザック。とりあえず試作品だから、縫い目も粗くて問題ないしね。でもソファを自分で縫うのは初めてだなぁ。とりあえずクッションくらいからにする? ぐーたらクッション。でも一つ作るなら、二つも三つも……どうせならみんなの分を作ろう! 色はやっぱりピンクかな? さすがにくどいかな? 今度は旦那様の目の色の青にしてみる? 染色はまた奇跡で――
「ど阿呆っ‼」
わわっ。床に座って作業していたはずなのに、身体が浮いた⁉
どうやら旦那様に担がれているらしい。お外が真っ暗だ。
あれ……なんか頭がくらくらするような……。
気が付けば、私は食堂に連れられていた。
目の前には、ほかほかのご飯。スープにお魚に……その綺麗な見た目と匂いに、私のお腹がぐにゅぐにゅと鳴る。
「飯も食わずに作業し続けるとは何事だ⁉ もうすぐ日付が変わるぞ⁉ また倒れたいのか⁉」
「あ……リュナン様、お帰りなさい」
椅子に下ろされ、見上げたら旦那様のお顔があったから。
私がへにゃりと挨拶すれば、旦那様は頭を掻きむしってからまた目じりにしわを寄せる。
「あぁ、ただいま。ノイシャ」
「はい、ノイシャです!」
こうして、私のぐーたらな一日が終わる。
明日は試作品のクッションを五個完成させねば!
私の幸せなぐーたら生活はまだまだ始まったばかり。
というわけで、やっほい娘にイラストが付いて漫画になります!やっほい!!
細かなことはこれから決めていくのでわからないことだらけなのですが(改稿どのくらいしましょうかね笑)、また活動報告だったり、こうして番外編書いたりしてお知らせしますね!






