Chapter 1.31 卑屈
Chapter 1.31
卑屈
支部から東部記念病院までは車で行くとそれほど時間はかからず、およそ三十分程度で到着した。
車から降りた三人は病院受付で事情を説明すると、一度主治医と話をすることとなった。
三人は以前ルクスとリアがきた時と同じ間取りの部屋に案内され、そこで主治医がくるのを待っていた。
「実際さ」
ルクスがおもむろに口を開く。
「カナデさんの力でこの異変の正体が異能によるものだってことがわかったらどうするの?」
「そうなったらその異能保有者を捕まえる事になるな」
リアがルクスの問いかけに答える。
「どうやって?」
「まずはセイクスの言う通り、異変被害にあったロイド氏と書類窃盗の件の調査だろうな。増援の監察者が来るまでは数の多い被害者の聞き込みは難しい」
「カナデさんの異能で異能保有者の特定って出来るの?」
顔をカナデの方に向けたルクスはそんな質問をする。
「い、一応できます。残香は過去に使われた異能の匂いを嗅ぎわける事と、その匂いを元にその異能の保有者を特定することが可能です」
「・・・なんか、言い方悪いけど犬みたいだな」
ルクスは言いづらそうにしながら口を開いた。
「まあ、そうですね。正直、私もそう思ってます」
カナデは苦笑いしながらそう返事をした。
「じゃあ、この異変の異能の保有者もわかる?」
「過去に一度でも残香で匂いを嗅いでおけば大丈夫です。嗅いだ異能と使われている異能が同じものかどうかの識別はできます」
「間違えることは?」
「経験上、ないですね。育成校で自分の異能を知るための授業があったんですけど、自分のクラスの生徒、二十五人分の異能の匂いを正確に嗅ぎ分けることができました」
「そりゃあすごいな。一度も間違えることなくか?」
思わずリアも感嘆の声を上げる。
「はい。言葉で表すのは難しいんですけど、何かこう、明確に違うんです。香りもそうなんですけど、それ以外の、こう、なんと言うか、重さとか広がり方とか。わかります?」
「・・・ルクス、わかるか?」
「ごめん、さっぱりわからない」
「ですよね・・・。ごめんなさい」
心なしか、カナデの声がしょんぼりと小さくなる。
「けど正答率百%はすごいな。これでロイドさんから異能の匂いが嗅げたら保有者の特定まであと一歩って事でしょ。カナデさんすごい」
「えへへ・・・。ありがとうございます。役に立てたみたいで安心しました」
小さくなっていたカナデが笑顔になる。
すごく可愛い。
「ああ、本当に役に立っている。俺たちの百倍は役に立ってる」
「何も言えねえ」
今度はルクスがしょんぼりと小さくなった。
「今回俺たち迷惑しかかけてないもんな」
「疫病神と言われても何も言えん」
「いやいやいや! そもそもこの異変に気付いたのはルクスさんとリアさんなので! それが一番の収穫ですよ!」
卑屈になった二人をカナデが必死の思いで励ました。
「優しいなぁカナデさんは」
そのいたいけな様子にルクスは内心癒されていたりする。
そんな会話をしていると部屋のドアが開き、ノットが部屋の中に入ってきた。
「すいません、お待たせしました」
「お忙しいところ、時間を作っていただきありがとうございます」
リアはそう感謝の言葉を口にする。ノットはそれに対して軽く礼をしながら椅子にゆっくりと腰掛ける。
「さて、調査に協力してほしいと受付のものから話を聞きましたが、詳しく説明をしてもらってもよろしいですかな?」
「はい。説明させていただきます。実は−−−」
リアはこれまでの経緯をノットに向けて説明する。
「−−−なんと。このカルーアで被害者が八十名も?」
ノットはリアの説明を聞き、共学の表情を浮かべる。
「そうです。調査からもれた者を含めるとその総数は百名を超えると思われます」
「まさか、そこまで大きな事になっているとは・・・」
「現在、この異変の原因を調査しています。その一環として今日入院されたロイド氏と面会させていただきたのです」
「面会・・・ですか。まあ、ご家族の了承が得られればこちらとしてはなんの問題もありませんが」
「では今、時計型通信端末でロイド氏のご家族と話をさせていただいてもよろしいですか?」
「ええ、構いませんよ」
ノットの言葉を聞き、リアは謝意の言葉を口にすると、腕に巻いてある時計型通信端末を起動させる。
「リア、ロイドさんの家族の連絡先とか知ってんの?」
ルクスはリアに小さな声で耳打ちをした。
「ああ、家族が病院に来た時に念のため確認しておいた」
さすが、信頼における同僚である。
その後、ロイドの家族と連絡が取れた一同は事情を説明し、面会の了承を得ると、ロイドの入院する病棟へと足を向けた。
信頼されると嬉しい。
役に立てないと辛い。
人間は皆そのように感じてしまうものである。




