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6 冒険者ギルド

 帝都は、王城を中心とした大きな円を描いている。皇帝の住む城だけでなく、居住地や商業地などを含めて、都市まるごとを城壁が囲んでいる城郭都市だ。

ヨーロッパの中世のような街の構造と似ているかもしれない。


 冒険者ギルドの住所は、東の城壁近くである。理由は、帝都の出入口である城壁の近くのほうが便利であるから。

 そして、帝都の東にあるのは、東側に草原や森が広がっているからだそうだ。つまり、ギルドの住所は、冒険者の職場に近い立地となっているということである。


 って、全部、イアーゴーの受け売りだけど。


 私は、アリスター家の宝物庫から失敬してきたローブを纏って冒険者ギルドの中に入る。

冒険者ギルドって、荒れくれ者たちが多いようなイメージである。冒険の依頼を、酒を飲みながら待っている感じ。

 新人がギルドに登録しようとするとからかってくる冒険者がいたりとか、喧嘩や口論が日常茶飯事な場所そうなイメージだ。まぁ、そういうイメージはラノベとかの影響なのだけど。石造で堅牢な作りのギルド。扉は漆塗りの漆黒の扉で重くて固い。一見さんお断りのBARのような排他的な雰囲気。


 だけど、扉を抜けると、現在12才である私と同年代か、それより年下の子供たちがギルドにいた。

 ここは、小学校かよ……。そんな感想を漏らしてしまうほどだ。


 顔に傷のある強面の歴戦の冒険者なんて人はいなかった。


「あら、見ない顔ですね。冒険者登録ですか?」


 扉の前で呆然と立ち尽くす私に、ギルドの受付に座っている人がカウンター越しに声をかける。新顔であることがわかったのだろう。もっとも、変身のローブを着た私がどのように見えているかは、自分では分からないのだけれど。


「はい。よろしくお願いします」

 私はギルドの説明を受け、あっさりと冒険者登録ができた。本名ではさすがにまずいと思ったので、エリザベスを省略し、『エリザ』として登録した。


 私はCランク登録だ。Cランクは、採取をするのが主な業務内容である。

 ちなみに、Bランクは魔物の巣窟と言われる、魔王が作り出した地下ダンジョンに入れるとのことだ。そして、Aランクは特別な偉業を達成するか、長年冒険者をしていると贈られるランクらしい。実力ある冒険者であるという実績と信頼の証ということだそうだ。


「それにしても、私のような子供が多いんですね」と私は気になるので受付の人に質問をした。


「え? あなたはそれを知っていて登録しにきたのではないの?」と怪訝な顔をされてしまった。


「え? もちろんそうです! ですが、念のためにご説明お願いします!」


 私が頭を下げると、ギルドの誕生から現在までのギルドの歴史の変遷を教えてくれた。


 要約すると、魔王がいる時代はランクも危険度によって細かく分かれていたらしいのだけど、A、B、Cの3ランクに簡素化されて久しいらしい。


魔王がいなくなった平和が続く世界。

 冒険者ギルドの性質も変わっていったらしい。


 基本的に、魔物は、魔王がいなければ普通の野生動物と変わらない。魔物も野生動物と同じように人間を避ける。普段は森の中にいて、熊避けの鈴をつけていたら、自分の方からその場を去っていってくれるそうだ。

 例外としては、冬眠明けの空腹時、子育ての時期は危険だそうだ。また、森などで食べ物が少なくなると、人里に降りてくるときも稀にあるらしい。

 そして、人里に近い場所に魔物が現れると、討伐の依頼がギルドへと届けられるそうだ。


 が、ユニレグニカ帝国は自然豊かな国で、気候も温暖。人間にとっても野生動物にとっても、魔物にとっても住みやすい地域で、急激な生態系の変化が起きない限り、魔物が人の世界と接触することはない。


 魔王が存在し、魔物が積極的に人を襲う、村や街に徒党を組んで攻めてくる、ということがなくなった世界では、魔物の討伐は、冒険者ギルドでは主な業務ではなくなったということらしい。代わりに、メインの業務となったのが、採取の依頼だ。

 

 行くことも帰ることも困難な秘境でしか取れない霊薬の材料、なんて採取依頼もあるらしいのだけれど、日常的にあるのは帝都の城壁の外の草原で採取できる薬草などの類である。

 草原は草丈も短く、見晴らしが良い。比較的安全な場所だそうだ。ピクニックに最適な場所での薬草採取。


 そうなると必然的に、薬草採取を行える人の幅は広がっていく。腕に自信のある冒険者の独占業務が、誰にでもできる業務となる。


 そして、紆余曲折を経て、薬草採取、Cランクの仕事は子供の仕事として普及していく。


 それが、冒険者ギルドに子供が多い理由だそうだ。


「ありがとうございます! では、私も行って来ます」


「気をつけてね。日が暮れる前には戻って来てね」


 私は、受付を離れて出口を向かおうとした時、「新人らしいな。もしよかったら俺たちの仲間にならないか? 俺はリチャード」


 蒼天を連想するような青色の髪。私と同じ歳くらいだろうが、将来成長したらイケメンになるであることが確約されたような美少年。


 いくら私だって分かる。この国では、青い髪なんて珍しい。というか、染色でもしない限りいないと思われる髪の色。

言い換えると、キャラ分けするための設定としか思えない髪の色。


しかも、私が冒険者に登録したばっかりで、まさに冒険に出かけようとするタイミング。


そして、イケメン。


高い確率で、リチャードは、ヒロインの攻略対象キャラだ。そして、私は、二人の間に立ちはだかり、恋路の邪魔をして、馬に蹴られて死亡する悪役令嬢だということだろう。

 

でなければ、青い髪の美少年が、なんの脈絡もなく登場して私に話しかけるはずがない。


関わらない方がいい……。


『この人も、悪役令嬢フラグの人?』


 私は、冒険者ギルドに入ってから無口で、しかも今、受付の机に不機嫌そうに寝そべって頬杖をついているイアーゴーに尋ねた。


『もう、エリザベスがフラグは折っちゃいましたよ』


 なるほど、イアーゴーは、悪役令嬢フラグを折り切ったキャラについては情報を開示できるのね。でも、リチャードとは初対面で、フラグをいつ折ったのかが私自身でもわからない。


ただ、分かる。


『つまり、このリチャードって人は安全な人ってことね!』


『エリザベスを断罪するヒーローから、モブキャラへと堕ちたのです。あなたの行動のせいで』


 イアーゴーはご機嫌斜めである。つまり、私は、破滅フラグを一つへし折った。


「新人らしいな。もしよかったら俺たちの仲間にならないか? 俺はリチャード」


 私は差し伸ばされた右手を取った。


「今日登録したばっかりの新人よ。そんな私でよかったらよろしくし。私の名前は『エリザ』」


 私とリチャードは固い握手を交わした。


 フラグが折れたキャラであるリチャード! なんという、安全安心な人なのだろう!


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