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7/11

明日から私は

ヒロイン来襲(予定)の報から数時間後、女子寮にてアマリアとヴィノの緊急会議が開かれていた。

「転入生は一年女子、半年前にゼンノ男爵家に引き取られた庶子で、今は養子縁組をして正式にゼンノ男爵令嬢として学園に転入してくる…ヒロイン設定そのまんまだな…多分」

アゴに手を当てて記憶を呼び覚まそうとするヴィノ。

「そうなんですの?」

ジュースを飲みながら訊くアマリア。

転生者である二人だが、その詳細は少々違う。

アマリアはオズマに会う少し前に記憶が戻ったが、ゲーム内容について朧気に思い出せる程度で、過去の自分やその周辺に関してはさっぱりである。

対してヴィノは、最初から記憶を有しており過去の自我をそのまま引き継いでいる。

ゲームの内容もアマリアより鮮明に覚えていた。

そう、覚えてはいたのだ。

しかし、流れる時間の中で記憶は無情にも薄れ行き、所々曖昧になり、正直思い出せない部分も多い。

何せ乙女ゲーム。

選択肢だのエンディングだのが多岐に渡っており、その全てを記憶しておく事など不可能。

加えて思い出せる内容をメモしておくなどの対策を取らなかった二人は、今になって己の記憶の頼りなさに気付いたのである。

「だって二人いればどっちか覚えてると思うじゃん!?」

「迂闊でしたわね」


「まぁ、流石にヒロインの見た目くらいは覚えてるし、大体の流れは把握してるから、坊っちゃん関係のイベントは潰していく方向で」

「確か、ピンクの髪に若葉色の瞳でしたかしら?」

「ちまっこくて、馴れ馴れしくて空気読めなくてやる事なす事鼻につく女よ」

吐き捨てる様に言うヴィノに、アマリアは苦笑いを浮かべる。

ヒロインの話題になる度にこうなのだ。

前世のヴィノは、パッケージに惹かれて購入した乙女ゲームの主人公にどうしても感情移入が出来ず、周回を重ねる毎に嫌悪感が募ったとのだという。

結果、ひたすらバッドエンドを発掘し続けると言う歪んだプレーをしていたそうだ。

そこまで嫌いならやめればいいのにとは思うが、その辺りについては口を閉ざすヴィノに、アマリアも追求はしない。

「一番楽なのはヒロインが他の攻略対象に行ってくれる事だけど、これは操作しようがないしねぇ」

「他の…って何人くらい居ますの?」

「そっから!?えーっと…王子枠が坊っちゃんで、インテリ枠が宰相の孫、脳筋枠が騎士団長の息子でショタ枠が大司教のひ孫、大人枠が聖女のイトコの救護室の先生で、あと隠れキャラ枠が魔王の弟…だったかな?」

総勢6名。

「なるほど…全員が何かしらの七光を背負っている、と言うことですのね」

「あ、うん。そこはね、殆どが学生だし。多目に見てあげよう」

因みにメイン攻略対象であるオズマは一匹狼枠も兼任していたのだが、跳ね回る小悪魔2匹の面倒を押し付けられた事で魔力制御を身に付け、その結果中2キャラを脱却したと言う過去がある。

「あー、ヤバいタイプの転生者じゃない事を願うね。ヒロインって魔力多いし次期聖女だし、まぁ魔力は坊っちゃんで対抗出来るとしても権力で来られるとなー、聖教会は王家の威光も通じないしちょっと厄介だなー」

最悪聖女バレする前に潰すかな。

いざとなれば王子の魔力も王家の威光も戦力にするつもりの伯爵令嬢の侍女(孤児院出身)。 

オズマがいればお前は何様のつもりだと突っ込まれただろうが、流石の飼い主様も女子寮には入れないのである。

ブツブツと物騒な事を呟くヴィノに、アマリアが待ったをかける。

「ヒロインさんを退場させると魔物の大量発生の時に困るんじゃなかったんですの?」

「おうっふ」

バタリとうつ伏せに倒れ込むヴィノ。

ベッドの上でジタバタ暴れだす。

「スタンピードに立ち向かうってそれ王子ルート確定イベントじゃん!聖女認定受けた後に暗殺とか無理ゲー過ぎる!!」

普段は楽観的な二人でも、ヒロインイジメなきゃ大丈夫じゃないかとは思わなかった。

それは罠だと前世の記憶が叫んでいる。

そしておそらく、ヒロインはヴィノと相性が悪い。

そしてヴィノは気に入らない相手にはソレを隠さず行動する。

ヒロインが王子ルートに入った場合、王子にまとわりつくヒロインと、アマリアと共に行動するヴィノの接触は不可避である。

結果的に、ヒロインVSヴィノついでにアマリアの構図が成立してしまう。

その時オズマがどちらに着くか。

普通に考えれば幼馴染み二人に軍配が上がりそうなものだが、そこは公明正大な王子様だ。

気に入らないというだけで特に落ち度のないヒロインに辛く当たるヴィノ(とアマリア)に味方してくれるかと言うと…可能性は低い。

限りなく低い、が。

「可能性は、上げることが出来る」

ぐっと拳を握ってヴィノが言う。

相変わらずベッドに伏したままなので何言ってるか不鮮明だが、まぁ、ろくなことでは無いのだろうなとアマリアはヴィノの頭を撫でながら考える。

けれどアマリアはヴィノを止めない。

アマリアにはゲームの記憶が朧気にしか残っていない。

さほど思い入れのあるキャラもシーンも無かった様に思うし、何故自分がアマリアに生まれ変わってしまったのかも分からない。

アンチでもやり込んだヴィノの方がヒロインなり悪役令嬢にふさわしいのではないかと思う。

今も、ヴィノと言うプレーヤーがアマリアと言うキャラを動かしているようなものだ。

ヴィノがアマリアを動かして、オズマを巻き込んで進んで行く。

これからもきっとそうだろう。

絶望に蝕まれたアマリアの恐怖を、理解して手を差し伸べてくれたのはヴィノだけだった。

ヴィノが居なければきっと、アマリアはやさぐれて人生を悲観したままだったし、オズマは中2街道をひた走り、さぞかしが薄暗いコンビが出来上がっていただろう。

まだまだ未来に不安はあるし、そもそもゲーム時間は始まってもいない。

それでも確かにヴィノは未来を変えたのだ。

これからも、きっと、そうだろう。

「そうなるように、これからは私も頑張りますわね」

「はぁ!?お嬢今まで頑張ってなかったの!?」

聞き捨てならん、とヴィノが体を起こして迫ってくる。

「だからこれからは頑張りますってばー」

どうゆうことだと叫ぶヴィノに揺さぶられながら、アマリアはケラケラと笑う。

そうして夜は更けてゆく。


因みに会議の結果は

「ヒロイン来てみないとどうにもならんな」

「ですわねぇ」

と言う、実りのないものでしかなかった。






夜は感傷的になりがちですわよね

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