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金と赤と黒

「坊っちゃんの髪は…黒いな」

「真っ黒で、艷やかですわねぇ。髪質もまっすぐで羨ましいですわ。今は短めに整えてますわね。前髪は後ろに撫でつけてますけど、すぐ落ちてきてしまうのだと殿下の世話係が悩んでましたわ」

「目は…?目の色?気にした事もないから分からんな。えーっと……黒?っぽい」

「濃い紺色ですわね。私は冬の夜空か深い海を連想しますわ」

昼下り、学園のカフェテリアで3人でお茶をしていると、ジロジロとオズマを眺めていたヴィノが唐突に適当な描写を始めた。

アマリアは特に疑問にも思わないようで、淡々と訂正したり補足したりしている。

なんだかんだ付き合いの長い間柄で、今更容姿に言及されるとは思っていなかったオズマは面食らった。

「どうした?いきなり」

「何だか急に、容姿について語らねばならん使命感にかられた」

「なるほど。分からんな。だがまぁ、そういう事なら」

どうぞ、と続きを促すように椅子の背に凭れて両手を開いてみせる。

容姿に自信のある者の余裕だ。

せめて髪型を気にするくらいの可愛げを見せてみればいいものを。

余裕綽々で構えるオズマを、目を細めたヴィノが何とかこき下ろしてやろうとアラを探す。

が、そこは乙女ゲームのメイン攻略対象者。

手足は長く均整のとれた体躯はよく鍛えられている事が伺える。

猫背だの巻背だのとは無縁だろう。

既に背丈は高い部類に入るが、まだまだ伸び代があるようで年々伸びているらしい。

学力、体力、魔力共に学年トップ。

アマリアやヴィノにはよく怒鳴りよく怒り、よく手も上げるオズマだが、その事で悪評が立つこともない。

理不尽な事はしないと言う信用があるからだ。

尊敬され労われることはあれど嫌悪され非難されることは無い。

結局貶す事が出来ず、さりとて褒めるのも業腹なヴィノの口から出た一言は

「ハゲろデブれ加齢臭にまみれて嫁と娘にパパくさーいって嫌われあぃだだだだだだだ!」

いつもの減らず口だった。


「お嬢の髪はふわふわで金色。目は青。背は高め、乳がデカイ。以上」

「アマリアの髪は本当に金としか言いようのない美しい金色だな。影になったところは蜂蜜色で甘そうだ。毛先に向かうほど巻きがキツくなる巻髪。出会った頃は肩までもなかったが、今は腰まであるか?長いな」

「貴族の女子は髪は長いのが一般的とされてますもの。巻毛のおかげでセットが楽ですわ。指ですいてクルッとやればそれなりに整って見えますもの」

ハーフアップにして髪留めを留めるくらいなら自分で出来るアマリアである。

彼女の侍女が主人より早く起きることなどないので、アマリアは朝の身支度を自分でやっている。

「瞳は鮮やかな夏の空だな。それ自体が光を放っている様な明るい空色。零れ落ちそうに大きくて、幼い頃はアマリアが目を大きく開くたびにハラハラしていた。改めて見るとまつ毛が長いな。背丈は、私と並ぶと良いバランスだと誰かが言っていたな」

「あら、そうですの?目が落ちるのは困りますわね。背丈はまぁ、確かに女性ばかりだと大きく見えますけど、殿下と並ぶと、ヒールのある靴を履いてもお耳の高さですものね」

「乳も確かにデカイな。これは!手に余る…だと!?」

「人の声真似でおかしな事を言うな」

「いーだーいぃぃぃぃぃ!」


「ヴィノの髪は赤いな。これも他に例えようがなく赤だな。遠くからでもよく目立つ。肩に付くくらいの長さで、真っ直ぐだが寝癖がよく付いてる」

「ヴィノの背丈は私と同じくらいですわね。瞳は赤っぽい茶色ですわ」

「一重まぶたでツリ目だから、どんな表情をしても悪そうに見える。これは性格がにじみ出ているせいもあるか?」

「黙れ二重勢」

「全体的に猫みたいで可愛らしいですわよ」

「確かに、スレンダーで気まぐれで猫っぽいな」

「誰の胸が絶壁だって!?」

「高いところが好きだしな」

「それは単に逃げ場にしやすいってだけだし!」

主に怒れる第二王子から逃げ回るために。

因みに、そうして逃げ回る過程で制服はボロボロになり、アマリアはドレスで登校している。

華美すぎない物であれば私服も許されているので、ほとんどの貴族令嬢は購入した制服を着ていない。

対する男子は反対に私服を着ている者の方が少ない。

服飾に関する意識と興味の違いで、私服の男子も多くは実家の産業が服飾に関わるなどの理由を持つ。

オズマも制服を着用しており、これは他の生徒との格差を無くすためだの何だの言っているが、面倒くさいだけだろうなとアマリアは思い、私服のセンスがだっせぇんだろうなとヴィノは勝手に思っている。

ヴィノには着るドレスもなく、私服も少ないので自分の制服とアマリアが着なくなった制服を繕って何とか着ているのだ。


「満足したか?」

ほとんどオズマとアマリアによってなされた容姿説明に、何故か敗北感を感じるヴィノ。

だが確かに、謎の使命感は消え失せていた。

「ふう。やっと落ち着いてお茶が飲めるわー」

すっかり冷めた紅茶を口に運ぶと、

「そういえば、来月転入生が来るぞ」

ぶっごほっげぇっほうえぇぇ

「あらあら、ヴィノ大丈夫…ではないわね。」

吹き出したりむせたりと忙しいヴィノの背をアマリアがさする。

オズマとしては、ヴィノが転入生がどうのと言っていたのを思い出して良かれと思っての発言だったのだが。

「なんっで今言った!?」

タイミングが悪かったようである。





アマリアも目尻は上がっててキツめに見えるが、隣の狐顔の侍女の悪人ヅラでかなり緩和されてる

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