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泥船から泥船へ

「…今日は何をやった?」

眉間にシワを寄せながらオズマが反省文の用紙を机の中から出そうとすると、胸をはりアゴを反らしたヴィノが

「今日の用事はそれではないんだな〜」

と、これでもかと言うほどのドヤ顔で言い放つ。

「今日は殿下にお伺いしたいことがあって参りましたの」

ヴィノの後ろでアマリアが予備の椅子を設置しながら言う。

慌てて学生会メンバーが手を貸し、差し出された椅子にいち早く腰を下ろしたヴィノ。

何か色々間違っていると思いながらも、スルーするオズマ。

「聞きたいこと?」

手元の書類をまとめて裏返す。

と、ヴィノが急に手を伸ばし表に戻す。

「おい何してる!」

素早く取り戻して机の中に仕舞う。

諸々の予算に関する書類だ。

ヴィノが興味を示すとも思わないが、あえて部外者に見せる物でもない。

そう思い裏返したのだが、何が彼女の気を引いたのだろうか。

「どうしましたの?」

「いえ、転入生に関する書類かと思ったんですが、ちがいましたね」

やれやれと言わんばかりに首を振っているヴィノに取り敢えず一発お見舞いして、とっとと追い出そうと心に決めるオズマ。

本来なら学生会室には部外者立ち入り禁止なのだが、オズマの付属物と見なされている二人は基本自由に出入りしている。

とはいえ、オズマが居なければ二人が学生会室に入ることはないし、他のメンバーや備品に構うこともないので目こぼしされている事だ。

書類を漁るようなら立ち入り禁止を徹底せねばならない。

そしてオズマは(コイツらには言っても無駄)だと思っているので手段は物理一択。

さてどんなトラップなら二人に有効かと考えているとヴィノがずいっと上体を倒し、オズマの眼前まで迫った状態で口元に手をあて尋ねる。

「坊っちゃんはどんな特殊性癖をお持ちで?」

「そこまで近付いておいてなんで声量が普通なんだ?」

無駄に内緒話感を出しておきながらも室内に響き渡った声(と言うよりその内容)に、学生会のメンバーがぎょっとして振り返る。

「いやだってー、こんな人目のあるところで坊っちゃんと密談なんかして変な噂になっても困っちゃいますしね?で、質問の答えは?」

「大丈夫ですわ殿下。殿方には何かしら内に秘めた変態的な願望の10や20はあると伺っております。何を聞いても驚いたりは致しません。受け入れてみせますわ」

ニヤニヤとゲスな笑顔を浮かべるヴィノと、その横で胸に手を当て慈愛の微笑みを浮かべるアマリア。

対するオズマの瞳からは光が消え失せ、笑みなど浮かぶはずもない。

「…何故、そんな質問を?」

室内の人間が固唾をのんで見守る中で、オズマが発したのは当たり前の疑問だった。

アマリアとヴィノは視線を合わせ、アマリアがコクリとうなずくと、二人は同時に前を向き

「昨夜、ヴィノと話していて気づいたのですがー」

「坊っちゃんが婚約破棄してくれないから一応次善の策をー」

同時に話しだした。

「いや何の頷きだったんだ!カケラも意思疎通出来てないじゃないか!!」

とっとと追い出す事は、中々難しいようだった。


時は遡って昨晩。

女子寮の一室でアマリアとヴィノが話している。

「王家からの呼び出しは?」

「ありませんわねぇ。実家の両親からはお叱りのお手紙が来ましたけど」

次の休みには必ず帰ってくるようにと紙がヨレるほどの筆圧で認められた手紙をベッドの上に座る二人の間に置く。

「そっちにチクってた!?坊っちゃんてば王子のくせにやる事がセコい!」

「ヴィノにも読ませるようにとあったから、後でゆっくりお読みなさいね」

「蛇はお嬢の単独犯なのに…」

しょっぱい顔になったヴィノは手元のグラスを鷲掴んで中身をあおる。

やけ飲み風にジュースを飲んで乱暴に口元を拭うと、グラスの底をサイドテーブルに叩き付けて言う。

「作戦変更!」

「作戦?」

何の話でしたっけ?と聞きながらこちらは上品にジュースを飲んでいたアマリアが言う。

まぁ、どれほど所作が上品でも、ベッドの上でやっている時点で令嬢らしからぬ行いなのだが。

「兎に角嫌われて婚約破棄を勝ち取る作戦!だったんだよ!」

のほほんと首をかしげるアマリアにヴィノが叫ぶ。

そうでなくて何故王子相手に蛇を溢れさせたのか。

「殿下を驚かせる遊びだと思ってましたわぁ」

いつから作戦でしたの?とアマリアが不思議に思うほど、オズマにイタズラを仕掛けるのは二人の日常でありオズマとのコミュニケーションだったのである。

「…まぁ、失敗した作戦なんか今はどうでもいい。」

気を取り直したヴィノが表情を改めてアマリアに向き直る。

「お嬢は、坊っちゃんと結婚したい?したくない?」

肩に手を置かれ、ヴィノにしては珍しく真面目なトーンで問われたアマリアは面食らう。

結婚。

殿下と。

オズマに婚約破棄されるか、結婚出来ない事態が起きるかしない限りアマリアの結婚相手はオズマに決まっている。

そしていつの間にやら始まっていた婚約破棄を勝ち取る作戦は失敗したらしい。

となると何か不測の事態が起きない限り、二人の結婚は決定だ。

しかし、この婚約は破棄される。

転入生が来てオズマが選ばれてしまえばアマリアは婚約破棄される。

そして破滅するのだ。

下手をすれば死ぬらしい。

何処にもアマリアの意思など介在しないままに物語は進み、終わる。

「お嬢が結婚したくないなら何とか二人で逃げる算段をつけるし、結婚したいなら……なんとかしてみよう!」

何ともフワッとした決意であるが、基本愉快犯であるヴィノにとって、アマリアが酷い目にあう事は面白くないので避けたいのだ。

「結婚…したいか、したくないか…?」


「で、答えが『まぁ、どうしてもしたいという訳でもありませんけど、出来るならしておくのが平和的解決ですわね。逃げるのも大変そうですもの。どうしてもしたいという訳ではありませんけれども』と言う事だったんで」

「…何で2回言った?」

「重要な事だからですわぁ」

嫉妬云々を理由に濡れ衣を着せられてはかなわない。

「だから、殿下の特殊性癖に応えうる人材であると言うアピールをして、売り込みをかけようと思ったんだよ!名付けて!男の弱みにつけ込んで、婚約破棄できなくさせる作戦!これは清純ヒロインには無いアピールポイントだよ〜」

ほらほら見てこの発育途中とは思えない巨乳!十代男子には夢膨らむアイテムでしょ!?

ぷにぷにとつつかれる胸元に思わず目をやってしまうオズマ。

そんな自分にも、もちろん目の前の二人にも怒りと頭痛を感じたオズマは、右手で顔を覆う。

「で?坊っちゃんの特殊性癖ってどんなん?○▲□とか?★▽◆を●○▲したりとか?」

「ヴィノ、っんう…くすぐったいですわ」

苦悩に満ちた青年の様子など意に介す訳もなく、つつくのに飽きたヴィノに手のひらで胸を掬うように持ち上げ揺らされて、アマリアが逃げるように身をよじる。

「良いではないか良いではないか〜」

「あ〜れ〜」

そのままキャッキャと遊び始めてしまった二人に、オズマのカミナリ(魔法)が落ちるまであと少し…。




学生会メンバー女子「そう言うモノなの?」(冷静)

学生会メンバー男子「!?」(焦)


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