未来の希望
「安易な乗り換えは駄目だ」
王太子とか、帝国の皇子とかどっかの王とか。
確かに捨てられた相手より格上の相手の権力でフルボッコと言うのはカタルシスではある。
だがそこに到達するのに自然かつ必然的な布石が無ければそれは玉の輿目当ての安易な乗り換えと見做される。
「幼馴染みも駄目だ」
そもそも付き合いの長い相手を今更選ぶ理由は?妥協に妥協を重ねた消去法でしかない。
「逆ハーなんぞ以ての外だ!」
ただのビッチだろうそれは!
ヴィノは拳を振り回して力説している。
アマリアはポカーンとしている。
「そもそも何の話なんだ?」
手元の書類を目で追いながら、オズマがヴィノに訊ねる。
今日も今日とて反省文を書きに学生会長のデスクに間借りしているアマリアとヴィノ。
例によって例の如くお手本のような反省文を書き上げた所で、唐突にヴィノの演説が始まったのだ。
しかし予備知識の無い話題だったのか、アマリアの反応が悪く話が進まない。
そこで面倒見の良さに定評のある王子様が会話を繋いだのだが…。
「お嬢の婚約破棄後の相手探しについてに決まっているじゃないかー」
こいつぅ、とでも言うようにデコを小突かれたオズマが、ヴィノの指を掴んでグイッと…
「あいだだだだだだっ!!暴力反対ぃ!!」
「どうしてそんな話を俺の前で出来るんだお前は」
確かに現役婚約者の前でする話でもない。
「大体駄目もなにも、王太子である兄上は既婚者だし、他国の王族にツテなんかないだろう。政略的な旨味もないアマリアを誰が娶ってくれると言うんだ?と言う訳で、その中で可能性があるのは幼馴染みだけだ」
「お嬢の幼馴染みって…よく考えたら私と坊っちゃんしかいないじゃん。意味ないじゃん!」
ユリ!ダメ!絶対!
「百合?花がどうした?」
「坊っちゃんは気にしなくていい。ユリルートの開拓はさせない!」
腕をバッテンにクロスさせ、何やら必死な様子にオズマは引いた。
これ以上は聞かないほうが良さそうである。
ふてくされたヴィノは反省文の用紙を裏返して何やら落書きを始めてしまっている。
「逆ハー…」
オズマが話題に出すまでもなく切って捨てた最後の選択肢を無謀にも拾い上げポソッと呟くアマリア。
粛々と作業を進める学生会メンバーを含めて、誰も反応しなかったのは優しさなのか意味が分からなかっただけなのか。
かくして最後の選択肢はそっと闇に葬られたのである。
暫く後の校庭にて。
裏に落書きのある反省文は無効とのジャッジが学生会長より下り、グラウンド10周の刑に処されたヴィノ…だった屍の横で膝を抱えるアマリア。
「婚約破棄後も人生は続くのですわね」
ぜーっはーっ(何を今更、その為に頑張ってきたんじゃん)
「そうですけど。あまり具体的に考えた事がございませんでしたの」
ましてや恋愛や結婚なんて。
うぇっ、ぜーっぜはーっ(揉めんのは嫌だからとりあえずヒロインが来る前に婚約破棄めざすんでしょ、そしたらあんたは自由なんだから、旦那なんて選び放題だよやったね☆)
「…そうしたら、ヴィノはどうしますの?」
ぜーっはーっえっく(は?)
「ヴィノが私といて下さるのは、私の破滅回避の為でしたわ。ではそれが終わったら…」
ぜひっはーはー(…お嬢)
「はい?」
ふーっ(一回婚約破棄したくらいで終わると思ってるの?)
「え?」
ふっぐうぇぇはー(続編裏ルート番外編にファンディスク、コミカライズノベライズドラマ化映画化別媒体、敵はまだまだいると思いなさ「うっとおしいわー!!」んギャッ」
「殿下!?急にどうなさいましたの?」
今まで黙って聞きていた監視役のオズマだったが、何かの限界を迎えたようだ。
「以心伝心もそこまで行くと気持ち悪い!あと何となく分かる自分が嫌だ!!」
「殿下もヴィノとの付き合いは長うございますからね…」
「まぁ、終わってから考えるといたしましょう」
のほほんと笑うアマリア。
「そもそも考えなくていいんだと言うのに…」
苦虫をかみ潰すオズマ。
…の足元に転がる更に屍感の増したヴィノの手元、ダイイングメッセージ"クソ王子"の文字が…。
「こりん奴だなお前は」
「いったァァァァァい!」