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私はアマリア

アマリア・ヴィンセントはカレル伯爵家の令嬢である。

ヴィンセント家に他に子供はおらず、アマリアは将来婿をとってカレル伯爵夫人となる予定である。

アマリアの婚約者はオズマ第二王子である。

王子の婿入りと共にカレル伯爵家は侯爵家になる予定である。


幼いアマリアは知っていた。

この予定は実現しない事を。


顔合わせにとお城に招かれ、不機嫌そうな黒ずくめの男の子を眺めながら自分の人生を心中で嘆いた。


ーこんな。

まともな挨拶すら出来ないド失礼な根暗ヤロウは人を踏み台にして幸せになるのに。

私はポイ捨てされて何かしら不幸になるらしい。

両親まで巻き込み、最悪殺されるかもしれないとは。

何たる理不尽。何たる不公平。

そんな事を鬱々と考えている内に顔合わせは終わった。

本当に顔を見ただけだった。

乙女ゲームだの転生だのと言った異常事態は、幸せな令嬢であったアマリアを一気にやさぐれさせたのである。

この時期のアマリアは兎に角暗かった。

何を見ても聞いても、どうせ自分は…と暗い思考に陥っていた。

誰に会ってもそんな感じなので、いい医者を紹介されたのも実際診察を受けたのも一度や二度ではない。


ヴィノに会ったのは王子との顔合わせから一月程が過ぎた頃だったように思う。

お母様に連れられて公園にバラを見に行ったときの事だ。

元気のない私を気遣って下さったようだが、青い空にも色とりどりの花々にも、心が踊る事はなかった。

ぼんやりと人や花を眺めていると、いつの間にやら周りに誰も居なかった。

いや、母や侍女の姿が見えず、見知らぬ子供たちに囲まれていたのだ。

前世の記憶で学校の制服を彷彿とさせる揃いの服装をしたその子達は私より背丈が高く、囲まれると周りが見えなくなった。

子供とはいえ知らぬ人間に恐怖を覚え、闇雲に走りだそうとした私の手を掴んだのが、ヴィノだった。

「アマリアさま?」

つり上がった赤茶の瞳を輝かせて、その子は話しかけてきた。

「アマリアさまなんでしょう?」

答えない私に焦れたように、その子は握った手を上下に揺らした。

弁解させて欲しい。

その頃の私はやさぐれていたのだ。

人生一桁にして終了のお知らせをされれば大概の人間がそうなるだろう?

加えて人生初の迷子だ。

前世の記憶はあれど、活かせるほどの知恵も経験もないタダの子供でしかなかった私は、子供らしく癇癪を起こしたのである。

不満と不安をブレンドさせて、吐き出してしまったのだ。

「アマリアじゃない!アマリアなんか要らないの!アマリアになんか生まれたくなかった!」

この時点でぼろ泣きである。

だが親が聞いてたらギャン泣きだろう。

聞かれなくてよかった。

「アマリアなんか!意地悪で卑怯な大バカだもん!嫌われて捨てられて殺されちゃうんだよ!」

座り込んでうずくまって、握られた手にだけ縋って泣き続けた。

「アマリアなんかやだ〜」

めーめー泣き続ける私に、その子は言った

「じゃあ、変えようよ」

「まだ時間はあるしさ」

「私も手伝うし」

「それでもどうしてもダメだったらさ、私と一緒に旅に出ようぜ」


今思えば、この頃のヴィノは今よりまともだった…訳でもなく。

(偶然行きあった私に接触する為に、孤児院仲間に協力してもらって私を隔離した時点で大概だ)

人生に絶望して号泣する幼児を前にワクワクしていたらしい。

悪役令嬢無双とか、ヒーロー&ヒロインざまぁとか夢見ていたらしい。

駄目なら冒険者になってRPGとか思ってたらしい。

転生者仲間にもテンション上がってたらしい。

優しさなんてなかった。


その後大号泣のお母様を見つけて、何故かヴィノは迷子の私と一緒にいてくれた親切な子、という事になっていた。

それから暫くしてヴィノは孤児院からカレル伯爵家に引き取られて、私の侍女になった。

賢いヴィノは養子にと言う話もあったけど、

「乙女ゲーで義理の姉妹とかフラグでしかないから」と言って断っていた。

多分誰も理解してなかった。


そうして10年かけて、私達は最高の相棒になった。

シナリオからかけ離れた世界で、それでも私は殿下の婚約者だし、これからやってくるヒロインもどんな子か分からない。

でも私は殿下に恋してないし、嫌がらせする気もないし。

大丈夫じゃない?

そもそも殿下も何かゲームとキャラ違うし。

まぁまぁ仲良く出来てるし?


だから大丈夫なんじゃないかな。





 

「あー、お嬢様言葉ってダルいですわー」

「”ですわ"付けてるだけじゃん」





朱に交われば赤くなる

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