昔の貴方は
ラガイ王国第二王子。
それがオズマの主たる肩書である。
他にも国立学園の学生会長だとか、次期カレル伯爵(予定)だとか公の肩書きがいくつかある。
だが、本人的に比重が重いのは
①カレル伯爵令嬢(+α)の飼い主
②王室のパシリ
以上の2つではなかろうか、と目の前で反省文を認める少女達を眺めながら思う。
王子にして学生会長、かつ先輩の自分に悪趣味なドッキリを仕掛けたことをさっ引いても、学園の備品の破損、カフェテリアへの蛇の持ち込み、演習用の森への無断立ち入りと破壊等々、罪状は枚挙に暇がない。
(ポット落として壊したの王子じゃね?)
(木立に魔法弾打ち込んだのも殿下ですわよ)
(蛇はお嬢だけどね〜)
(あれだってもともと学園内にいた蛇で)
ガンッ!!
「!?」
「…書けたのか?」
学生会室の重厚なデスクを拳で殴り、「王子様」にあるまじき迫力を背負った青年が少女達に微笑みかける。
ビクビクと差し出された反省文に目を通すオズマを眺めながら思わずと言うふうにアマリアが呟く。
「どうしてこんな事になったのかしらね」
「だから、蛇だろ」
答えたヴィノにそうではないと首を振ってみせる。
そうではない。
そうではなくて。
「どうしてこうなのかと言うことですわよ!」
叫びながら、両手で指し示したのは目の前で忌々しそうに反省文を読むオズマである。
因みにアマリアは割と大きな声で叫んでおり、フレームの外で仕事に勤しんでいた生徒会メンバーにもまる聞こえである。
もちろん、眼前の鬼会長にも。
「だって、オズマ殿下って言ったら!傲慢ワガママ誰が何と言おうと我が道を行く俺様王子じゃありませんの!?長髪で片目隠して無口無愛想で、たまに喋ると決めゼリフだか捨てゼリフだかみたいなのばっかりって言う!」
「あー、魔力多いのに制御がヘタで、極力感情的にならないようにしてるっていう設定な」
「そう!圧倒的ツンの中でたまに見せるデレが硬派なイメージとのギャップでんもう!みたいな!」
「あー、中2の塊だったなー。いや笑かしてもらったわー思い出すだけで腹筋よじれるわー」
何で一人だけ黒ローブ羽織ってたの?
ケタケタ笑いながらヴィノが振り向いてオズマに問いかける。
目の前で始まった訳のわからない話で、自分が馬鹿にされている事だけは鋭く察したオズマの額に青筋が浮く。
目を通している反省文がなまじ出来が良いだけにムカつきは倍増だ。
しおらしく淑やかな文面と眼前のバカ二人の乖離が激しすぎる。
つまり本心では反省などしておらず、ただそれらしい文章を書き連ねただけと言うことが丸わかりだ。
思わず手の中の紙をぐしゃりと握り潰す。
そんな怒り心頭のオズマの様子に気付かず、少女二人のガールズトークは続く。
「髪は短いし目も隠してらっしゃらないし、服装も普通ですし、面倒見が良くてお説教臭くて何だかばあやか家庭教師の先生と一緒にいるみたいですわ…」
はふう、と不満げなため息と共にオズマを見やるアマリア。
(ひっ!?)
オズマから漂う禍々しいオーラに動きが止まる。
「魔力制御もピカイチだしねー。影が無くなって何かフツーの優男だよね。欠点無いけど色気も無い。いい人っつか、都合のいい人?中2要素無くなってまともになったけど、いい男ではなくなっ…」
そこでやっと異変に気付くヴィノ。
束の間、静寂が室内を支配した…。
「逃げますわよ!」
「ガッテンしょーちのすけ!」
「待てやコラァァァァ!!!」
そして風が駆け抜ける。
「アマリア様は、随分お元気になられましたわねぇ」
生徒会役員の一人がしみじみと呟いた。
この後めちゃくちゃ校庭走らされた