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始まっているのかいないのか

「アマリア!ヴィノ!何処にいる!?10数える内に出てきて謝るなら許してやるから…とっとと戻れ!!!」

語尾に向かうほど音量の上がるドスの効いた恫喝に、学園内の木立にある木々に止まっていた鳥や小動物達が一斉に逃げ出して行く。

ばさばさと羽ばたく鳥にぶつかられそうになりつつも、名指しされた二人は必死に木の幹にしがみついて耐えていた。


アマリア・ヴィンセント16歳。国立学園の1年生。

れっきとした伯爵家のご令嬢である。

平時であれば麗しの、と冠される令嬢も、手入れされた爪をこれでもかと木の幹に食い立てる様は野生の獣と大差ない有様である。

次いでヴィノ・ラッカ。同じく16歳の1年生。

孤児院出身の少女はアマリアお嬢様の侍女である。

アマリアよりは余裕のある彼女はバードアタックをやり過ごした直後に枝に寝そべり、下から見えないよう身を隠している。

いざとなればお嬢様を人身御供にする気満々である。


「…どうしてこんな事になったのかしら…」

「お嬢が坊っちゃんに蛇をけしかけたりするから!!あの見栄張り坊主唯一の弱点を!!つーか、紅茶のポットから蛇がこんにちはしたら苦手でなくてもビビる!!てかビビった!」

嗚咽のにじむ声でアマリアが問えば、すぐさまヴィノが小声でまくし立てる。

婚約者同士の優雅なお茶会で、紅茶のお替りを頼んだだけの青年に酷い仕打ちである。

事前に聞いていなかったヴィノも手元のポットから出てきた蛇に思わず驚いてポットを手放してしまった。

そして、青年の膝に落ちたポットは蓋が外れ…。

「うぁ…思い出したらゾワッと…よくあんなに集めたな」

鳥肌の立った二の腕をさすりながら呆れと感心を込めてヴィノがいえば、アマリアは誇らしげに胸を張った。

「丁度孵化したばかりの仔蛇の群れを見つけましたのよ!ポットの口を通れるサイズのあの子達を見つけた瞬間思いつきましたの!」

キレイな紅茶色の蛇だったでしょう?と満面の笑みを浮かべるアマリア。

表情だけなら愛らしいと言えたが、髪もドレスもぐしゃぐしゃ、内容は子供のイタズラ、加えて樹にしがみつくコアラそっくりのポーズでは何一つ様にならない。

が、この場には類友のヴィノしかいない。

「まあ、ポットから溢れ出した仔蛇をみた坊っちゃんの顔と悲鳴は…!!」

ぶくくっ、とおよそ上品とは言い難い笑い声を上げるヴィノ。

「でしょでしょ!?これは流石に婚約破棄案件ですわよね!」

うひゃうひゃと少女たちが無邪気に笑い合っていると…

ドカカカッともの凄い音と衝撃が少女達のしがみつく木に走った。

「!?」

舞い散る小枝や木の葉に視界を取られ、即座には何が起こったか分からず固まった二人だが、木の表面に空いた無数の穴から煙が立ち上るのを目にした事で現状を把握した。

バッ、と音がする程の勢いで下を見ると、半ば忘れかけていた人物が人差し指をこちらに向ける姿が目に入った。

怒っている。

それはもう、近年稀に見る勢いで怒っているのが離れていてもわかる勢いで怒っている。

「いやいやいや、学生会長が一般学生に魔法弾撃ち込んじゃダメだろー」

口元を引くつかせながらも減らず口を忘れない侍女である。

青年が少女達のイタズラの餌食になるのは今日に始まった事ではなく、不本意ながら耐性も培われてきたのだが、今日のアレはどうやら青年の堪忍袋の緒がぶち切れるレベルだったらしい。

「だから、蛇は、ダメなんだってぇ…」

今度はアマリアに向けて往生際悪く言い募るヴィノに嘆息で返し、

(これ以上は逃げ回ってもムダですわね…)

と諦めて四肢の力を抜く。

当然落下するアマリアを追って、ヴィノも枝を蹴って飛び降りる。

下手に落ちれば確実に命が無い高さから無防備に落ちて来る少女達に、地上の青年は僅かに怒りの形相を緩めて手を差し伸べる。

途端に落下速度が落ち、かつ空中でクルリと体制を整えた二人はそれぞれ青年の手を取り着地する。

控えめに言ってもボロボロの格好で礼を取るアマリアの後ろで、ヴィノも澄ましかえって頭を下げた。

「助けていただいて感謝しますわ、オズマ殿下。相変わらず素晴らしい魔力制御ですわね」

にっこりと社交用の笑顔を向ければ

「気にするな、婚約者殿」

同じく爽やかな笑顔を向けた青年が手を伸ばし…

「いーたい痛い痛い痛い痛いでふわ殿下ー!!!」

「ナマシャハマヒニカフベロミッナー!!!」

「黙れバカ共!お仕置きの時間だ!!」

許しの10秒などとっくに過ぎ去っており、

鬼の形相をした青年が両手に少女達の顔面をわしづかみにして引き摺って歩くと言う、いつもの光景が繰り広げられるのである。


「今日も元気ですね〜」

とは、彼らを目撃した教員の感想である。

たとえ一秒で出ていっても許されはしない

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