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6話/重なり立つフラグ

 ミライとトウジが向かった先は国内でも最大級のアミューズメントパーク、火右京(かうきょう)リゾートワールドである。


 最大級というだけで別に最高級では無いのだが、遊園地としてはそう悪くはない。

 今彼女らがいる場所からも見える百メートルクラスの巨大観覧車を始め、広大な敷地面積を活かしたスケールの大きいアトラクションが多いこの遊園地。アトラクションとしては大味ながら、一つ一つの満足感としてはそれなりに高い。


 中でも、夏期に開かれる巨大複合型プールランドは特に人気な施設の一つだ。

 巨大な屋内プールと屋外プールはもちろんのこと、ジェットコースターと対をなすような巨大ウォータースライダーや、運河と見間違うほどの巨大流水プール、あとは津波ほどの波浪を発生させる巨大な波のプールもある。とりあえず頭に「巨大」という前置詞をつけているような状態だが、実際巨大である。


 まるでミライと揃いのように真っ赤なTシャツを着たトウジが、人の賑わいを見て顔をしかめる。


「でも俺、こういう人が多いところそんなに得意じゃないんだけど」

「私だって苦手だよ。本当ならもっと空いてる時に来たかった」

「じゃあなんで来たんだよ」

「そりゃ、今行かないと二度と行けなくなるかもしれないからな。来年には潰れるんだ、ここ」


 ミライに言われ、トウジは思わずきょとんとした顔をする。

 周囲を見渡す彼だが、素人目には随分と来場客が多いように感じられたようだ。少なくとも来年に潰れるような、寂れた遊園地だとは思えないらしい。


「そんなに経営悪いのか……?」

「見た感じはそんなことなさそうだが、まあ、数ヶ月以内に何かあるんだろう」


 ぼんやりとした答えを返す。

 来年までにはここが潰れることを知っているミライだが、なぜ潰れるのかについては流石に知らないのだった。


(ここなら、狂化異物(ブロークン)活発化による被害自体は受けないはずなんだが……不景気の煽りでも食らったかな)


 後に起こる狂化異物(ブロークン)の活発化は、多くの人々に被害をもたらす。が、ここの遊園地が直接被害を被ったとは思えない。どの危険区域からも遠いからだ。

 狂化異物(ブロークン)の発生条件にも色々とあるが、基本的には、狂化異物(ブロークン)の素体となる物体の近くに、他の狂化異物(ブロークン)が存在する必要がある。そのため、危険区域から遠く離れた場所に狂化異物(ブロークン)が発生することはほぼ無いのだ。


 考え込みそうになるミライだが、気を取り直して入場ゲートへと歩いていく。

 思えば、このようなレジャー施設に来るのは生まれて初めてだった。もちろん、それは横にいるトウジもそうだ。余計なことは考えず、出来うる限り楽しみたい。


(泳ぐのも久しぶりだな……。水泳の授業以来か?)


 当然だが、今のミライの体なら女性用水着を着なければならない。元男であるミライとしては抵抗感が大きいものの、上からパーカー型のラッシュガードや、短パン型のサーフパンツを着ておく形なら許容出来る。


 入場ゲートで受付を済ます二人。どうやらこのゲートは危険物検査も兼ねているらしく、その場で手荷物を預かられる。

 が、二人がゲートを抜けた後、預けて数秒後には、彼女らの手荷物は返却された。


「……こんなんじゃ危険物の検査なんてろくに出来ないんじゃないか?」

「検査対象は俺たちの方なんだろ。床にセンサーついてるし」

「う……うん? どういうことだ、少年」


 ミライが知らず、トウジが知っていることというのも珍しい。やや戸惑いながら、ミライはトウジに問いかける。


狂教会(スクラップ・チャペル)って組織の名前、聞いたことないか? ()()()()()()()()()()()()()()()()()のこと」

「……あー、なるほど。あったあった、そんな馬鹿集団。アレの対策か」


 ミライは得心したとばかりに頷く。


 ミライの時代から三年ほど前――つまり、今から一、二年後には壊滅する犯罪組織、狂教会。スクラップ・チャペル。

 それは人類の敵であるはずの狂化異物(ブロークン)を神として奉る宗教団体であり、強化者の抹殺を目論むテロリスト集団だ。入会には人体改造手術を受けて体内に狂化異物(ブロークン)を埋め込む必要があり、被術者の多くは手術の負荷に耐えきれず死亡する。

 運良く狂化異物(ブロークン)に適合した者は強化者のような異能の力を振るえるようになるが、その時点で元の自我を失う。狂化異物(ブロークン)に呑まれ、人類の敵に成り果ててしまうのだ。


「……強化者に憧れる奴って、多いからな。危ないって分かってても、異能欲しさに手を出すやつはいる」

「その辺は麻薬勧誘みたいなところもあるんだろう。自我を失うって言っても、思考能力を失うわけじゃないんだ。狂教会(スクラップ・チャペル)に入った身近な人間に、『本当は手術を受けても死なない』とか『悪影響なんて全くない。俺は元の自分を保ったままだ』とか言われたら、転ぶ奴がいるのは仕方がない」


 話していて気が滅入ったのか、少し陰鬱な顔になりかけているトウジ。

 ミライ視点では近い内に潰れる組織なのでさほど気にならないが、気分の良い話ではないのは確かだ。気を取り直すために、園内の適当な物を指差してはしゃいだ声を上げる。


「おっ、ほら見ろ少年。マスコットのカキョワン君だ。いやあ、この真夏日に四つん這いであんな着ぐるみに入ってる中の人は地獄だろうな」

「どちらにしろ気分の良い話じゃねえんだが……。ていうかあれ、着ぐるみじゃなくてアニマトロニクスだろ。機械に毛皮被せたやつ」

「ん、ああ。じゃああの首輪から伸びてるの、リードじゃなくて電源ケーブルか。よく見たら脇腹の辺りから排熱みたいなことしてるな」


 「ワンワン」と合成音声で鳴く犬のマスコットを見ながら、とりとめのない会話を交わす。


 ミライとトウジは園内を奥へと進み、プールエリアへと向かう。巨大観覧車や巨大コーヒーカップや巨大メリーゴーラウンドなどプール以外にも見どころはあるが、夏ならやはりここである。

 男子更衣室の扉を開け、中へと入る二人。


「いや待て。ナチュラルに男子更衣室に入ろうとするな」

「なんでそんなこと言うんだ。寂しいだろ」

「寂しいとか寂しくないとかじゃねーよ、女子用に行け」

「そんなことしたら……ああ、そうか」


 むぅ、と唸りながらミライは女子更衣室の前で立ち尽くす。


(困る……)


 法に触れることはそれなりにしてきたが、女のふりをして(身体は実際女なのだが)女子更衣室で着替えるというのはまた別種の禁忌感がある。

 トイレを使おうかとも思ったが、そちらはそちらでかなりの混雑具合だ。


(適当に人目の無いところで着替えるか……)


 水着自体は既に中に着ている。仮に着替えを見られたところで、そう咎められることはないだろう。そんな風に考えながら、ミライはプールの裏手に回る。

 客が入ることを想定していないその場所はじめじめとしていた。人目はほとんど無く、そばにある細い通路を時折従業員が通りがかる程度。


 ミライは服を脱ぐ。露出される美しく健康的な肌の色。

 服の下にあるのは適当に買ってきた赤のビキニだ。女性用水着を着ている自分の女体を見て、ミライはわずかに顔を赤くする。


 さっさと上からラッシュガードとサーフパンツを着てしまおうとした、その時だった。


「――見つけましたわよ、そこの犯罪者!」


 頭上から、そんな声が響いた。

 ミライは一瞬にして戦闘態勢に映る。

 が、冷静に考えれば、ミライはこの時代に来てから一度も犯罪を犯していない。当然、ミライのことを犯罪者と知る人間もいないはずなのだ。

 しかし、その時のミライにそこまでのことを考える余裕はなかった。


 ミライは拳を構え、自分に向かって落ちてくる人物を見上げる。

 そして、そこにいたのは――


「……うん?」


 ――水着姿をした、金髪碧眼の美少女だった。


 少しツリ目で、可憐ながら生意気な印象を抱かせる顔立ち。丁寧に結われた、鮮やかな黄金のツーサイドアップ。白くスレンダーな体は、黒いフリルのビキニを纏っている。


「っ!? ご、ごめんなさいっ、間違っ――」


 金髪の少女は、慌てて謝罪の言葉を紡ごうとする。思っていた相手ではなかったのか、いかにも混乱した様子だった。

 謝りながら、彼女は姿勢を大きく変える。無理にミライを避けようとしたのだろう、バランスを崩して頭から落ちそうになる少女。


 思わず、ミライは少女に向かって走り寄る。

 そうして、自分が下になるような形で、少女の身体を受け止めていた。


「……あー、無事か?」

「ひゃ、ひゃい……」


 ミライにも少女にも、傷は何一つとして無い。原理としては武道の達人が行う受け流しの派生である。《ウロボロス000》の肉体操作を使うことで、衝撃を地面へと流したのだ。


(……いやしかし、可愛いなこの子。年下だけど、こう密着してると流石にドキドキして――って、あれ?)


 少女の顔をじっと見つめる。それは、ミライにとって見覚えのある顔だった。


「その、ありがとうございます、おねえさん。感謝いたしますわ」


 少女は慌てて立ち上がり、しかし丁寧に一礼する。

 その淑やかな所作に、ミライはかつてのクラスメイトのことを思い出した。


「……もしかして、宮火(みやび)か? 学年次席の、宮火ミル?」

「え? どうしてわたしの名前知ってるのよ――じゃなくて、どうしてわたくしの名前を知っていますの?」

「今なんで言い直した?」

「い、いいじゃありませんか、別に! あと、おねえさんは何か勘違いしていらっしゃるようですが、私は学年次席ではなく、学年首席ですわっ!」


 赤い顔でそう言い放つ彼女、宮火ミルは、竜胆トウジと同学年の学院生である。ミライにとっては四年前の同級生だった。

 彼女は強化者関連事業で圧倒的なシェアを誇る宮火財閥の令嬢であり、入学当初からBランク強化者の判定を受けていた天才でもある。


 その家柄や才能、容姿から、学内における最も有名な生徒であり、成績においては入学から常に学年首席の座を守り続けていた――ミライが《ウロボロス000》を使いこなし、学年首席になるまでは、だが。


「……あー、君の名前なんだが、私の身内にも学院生がいてな。たまたま話に聞いたんだ」

「なるほど、そうでしたのね。それで――あ、いえ、私は急ぐのでしたわ。あの男を追いませんと!」


 そう言って、ミルは再びいずこへと駆け出していった。

 ミライは訝しげに走り去っていく彼女を眺める。


 正直、ミライとしてもミルが何をしているのか気になりはするのだが――


「……下手に歴史が変わっても困るし、放っとくか」


 前の世界線のミルは、夏休み後も普通に登校してきていた。

 きっと、大したことではないのだろう。


 ミライは黒のラッシュガードとサーフパンツを着込み、さっさとプールの方へ向かっていった。

・まとめ

竜胆ミライ

 TSモノのお約束を雑に外してくるTSお姉さん。アンタ何も分かってねェ。今回は赤ビキニの上に黒のラッシュガード&サーフパンツの水着スタイル。


竜胆トウジ

 ミライの水着姿に期待してたら思ったより露出少なくてちょっとがっかりすることになる男子高校生。水着は赤色の海パン。鍛えていたので筋肉はそれなりにある。


狂教会(スクラップ・チャペル)

 狂化異物(ブロークン)を神として奉る宗教団体にして、強化者の抹殺を企むテロリスト集団。体内に狂化異物(ブロークン)を埋め込み、異能の力を操ることができる。ただし、埋め込むための改造手術で大半は死に、生き残ったとしても元の自我を失う。


宮火(みやび)ミル

 トウジと同学年の女子生徒。金髪碧眼のスレンダー美少女であり、世界的な財閥のお嬢様。容姿、家柄だけでなく才能をも兼ね備えており、強化者ランクは入学当初からBランク。ミライが学年首席になるまでは彼女が学年首席だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 水着ミライさんも見たいですが、ラッシュカードサーフパンツの黒ロン巨乳TSお姉さんもいいですね!!!!
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